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王弟殿下から特別扱いされていた私、なぜか悪女と体が入れ代わる  作者: 江本マシメサ
第二章 エルク殿下のお屋敷メイドとして潜入!
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「何すんだ、この野郎!!」

『野郎ではないわ、男女おとめよ!!』

「うるさい!!」

『それはこっちの台詞だわ』

「あの、あんまり騒ぐと他の使用人に見つかってしまうから」


 肉球と拳を振り上げ、ケンカしそうだった二人を制する。

 すると一瞬で大人しくなった。聞き分けがいい子達で助かる。


『というかあなた、いったい何をしにきたの? 女性の部屋を一人で訪問するなんて、マナー違反よ』

「親父にエルクの野郎のところに送り込んだのが誰だか、調べてくるように言われたんだよ。どこの誰だかわからなかったから」

『あら、お父様の言うことをきちんと聞いて、偉いじゃないの』

「仕方がないだろうが。どこを探しても、離れの使用人に聞き回っても、顔にそばかすがある長身の女なんて知らない、って言うから」


 ギルベルト自身が送り込むように進めた手前、知らないと言って断るわけにはいかなかったのだろう。


「お前の侍女だと思ってたから勧めたのに、こんなところまで忍び込まなければならなくって、酷い目に遭った!」

『自業自得よねえ。というか、よくここを発見できたわね。けっこう見つけにくかったでしょう?』


 なんでもここはわかりにくい場所にあるだけでなく、いくつもの結界が張られ、許可のない者は入れないようになっているのだとか。

 もしもギルベルトが侵入したことが明らかになれば、大騒ぎとなるだろう。


「まあ、少し面倒だったが、わからなくもなかった」

『案外有能なのねえ。でも、エルク殿下が知ったら卒倒しそうだけれど』

「帰ってきたあいつの前に出て行ってやろうかな」

『やめてちょうだいな』


 私が誰か、というのは明らかになったので、一刻も早くここを出て行ってほしい。そう強めに訴える。


「わかった、わかった、伝えておくから。しかし、わざわざ地味な顔に変装するって、物好きなんだな」

「あの、こっちが地顔で、普段が化粧した顔なんだけれど」

「あ……そうだったのか」


 がはは! と笑うのかと思いきや、気まずげな様子でいた。以外と殊勝なところもあるものだ。


「あー、なんだその、必要な物はあるのか?」

「え?」

「必要な品はあるのか! って聞いたんだ!」

「いいえ、聞こえていたけれど、あなた――から支援があるとは思っていなかったから」


 ギルベルトの呼び方を聞いていなかった。あなた、ととっさに誤魔化したけれど、お兄様とかでよかったのだろうか。


「別にお前を支援しようと思って言ったわけじゃなくて、親父からもしも困っているようだったら助けてやるように、って指示があったんだよ!」

「そうだったんだ」

「いいから早く必要な品を言え!」


 必要な品と言われても、アンゼルムが完璧な荷造りをしてくれたのだ。何もない、と思いきや、気になっていることがあったのを思い出す。


「今日から遡って二十日分のドリス紙とか、用意できる?」

「ドリス紙? なんか調査でもするのか?」

「いいえ、エーリン先生の〝心躍らず〟の連載だけ読みたいの」


 そう訴えると、ギルベルトは目を丸くする。

 新聞紙を二十日分集めさせて、恋愛小説だけ読みたいなどと言うとは思わなかったのだろう。


「あんなの、子ども騙しの小説だろうが」

「読んでいるの?」

「ばっ――違う! 新聞紙は一語一句残らず目を通しているだけだ!」

「そうだったの」


 まあ、あの小説は女性向けの甘ったるい内容なので、男性が読んでも心に響かないのだろう。


「無理だったら別にいいけれど」

「無理とは言ってない! 後日送る」

「ありがとう!!」


 実はずっとまとめて読みたいと思っていたのだ。

 嬉しくってギルベルトの手を握って感謝の気持ちを伝えていた。


「なっ――!?」

「あ、ごめんなさい」


 私も距離感を誤ってしまったようだ。すぐに手を離して、嬉しくってついと言い訳をしておいた。


 ギルベルトはすぐに踵を返し、入ってきた窓のほうへスタスタ歩いて行く。

 アンゼルムと私は窓際でお見送りだ。

 ギルベルトは背を向けたまま忠告する。


「いいか、エルクの野郎には気をつけておけよ?」

「ええ、ありがとう」

「礼を言われるようなことはしてないが」

「そう? 私を心配してくれたのかと思って」

「誰がだ!!」


 その言葉を最後に、ギルベルトはバルコニーから飛び降りる。ここは二階だが、問題なく着地したようだ。


 なんというか、嵐のような時間だったな、と思ってしまった。

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