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王弟殿下から特別扱いされていた私、なぜか悪女と体が入れ代わる  作者: 江本マシメサ
第二章 エルク殿下のお屋敷メイドとして潜入!
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アンゼルムからの贈り物

 アンゼルムがルル・フォン・カステルの顔立ちになれる魔法のコンパクトを作ってくれた。

 表面には赤いハートの宝石が填め込まれていて、キラキラ輝いている。見た目からインパクトがあってテンションが上がる一品だ。


『お気に召していただけたかしら?』

「ええ! とってもかわいい!」

『よかったわ』


 ツィツェリエル嬢の私物かと思いきや、アンゼルムの持ち物だったらしい。


「こんな素敵な品、借りてもいいの?」

『貸したわけではないわ、あなたにあげたのよ』

「え、でも、大切な品に思えるのだけれど」

『ふふ、ありがとう』


 なんでもこれはツィツェリエル嬢の誕生日に渡そう、と思っていた品だったらしい。


「それを聞いてしまったら、余計に受け取れない」

『いいのよ。こんな品を用意しても、あの子は喜ばなかっただろうから』


 これまでもアンゼルムはツィツェリエル嬢の誕生日に贈り物を用意していたらしい。


『あの子、酷いのよ。開封すらせずに、その辺にほっぽり出すの。それでも、母性だったのかしら? 誕生日は何かしないといけない思いに駆られてね』


 ツィツェリエル嬢はどうしてアンゼルムの大きな愛に気付かなかったのか。こんなにも愛してくれていたのに。


『ルル、あなた、今日が十九歳の誕生日でしょう?』

「あ!!」


 そうだった! 私は今日、めでたくも十九歳の誕生日を迎えたのだ。

 まさかツィツェリエル嬢の体で迎えることになろうとは……。


『あなたが開封して、コンパクトを手に取って瞳をキラキラ輝かせてくれたとき、とっても嬉しかった。あたしが見たかったのはこの反応だったって思ったの』

「アン……」

『だからね、あなたが受け取ってくれたらあたしは嬉しいの』


 コンパクトを胸に抱き私は頷く。


「アンゼルム、ありがとう。大切にするから」

『宝物にしてちょうだいね』

「もちろんだよ!」


 そんなわけで、アンゼルムからの誕生日プレゼントをありがたくいただくこととなった。

 続けてアンゼルムは魔法がかけられたコンパクトについて説明してくれる。


『コンパクト内の鏡は二枚構造になっていて、一枚目はルル・フォン・カステル、二枚目はツィツェリエル・フォン・ヴェイマルに変身できるようになっているから』

「さ、さすが!」


 いざというときルルの姿でピンチになったら、ツィツェリエル嬢の姿になればいいのだ。


『まあでも、普段からあたしが傍にいるから、助けてあげるのだけれど』


 姿を消した状態で、常に一緒に行動してくれるらしい。なんともありがたい話である。


『もしもあなたに失礼なことをかます奴が現れたら、猫パンチをお見舞いするわ!』


 そう言ってナイフのように鋭い爪を出しながら、切れ味のいい右フックを繰り出していた。あれを食らったら、人間は致命傷を負ってしまいそうな。

 そういう事態にならないよう、上手く立ち回らなければならないだろう。


『荷造りもしておきましょう』

「ええ」


 何を持って行けばいいのやら、と零していたらアンゼルムが協力してくれることになったのだ。

 アンゼルムはツィツェリエル嬢の私室であれやこれやと魔法で浮遊させた化粧品や服をどんどん鞄に詰め込んでくれる。


『こういう下着類はいくつあっても足りないのよ! あ、そうそう。アイクリームも持っていきなさい! 目元のお手入れは若いときからやっておかなければいけないのよ!』


 なんでもお肌のお手入れは毎日アンゼルムがやっていたらしい。ツィツェリエル嬢は疲れて眠るばかりだったので、特別にやってあげたようだ。


『こうね、化粧水を肉球にしみこませて、ぽんぽんってしてあげていたの』


 わあ、羨ましい。きっと夢のような時間なのだろう。


『あとは、護身用の武器も持っておきなさいな』


 そう言ってアンゼルムが用意してくれたのは携帯用のナイフ。そしてそれを差し込めるガーターベルトだった。


『メイド服のスカートを細工して、すぐにナイフを取りだせるようにしておきなさい』


 たしかに、ナイフを取るためにスカートを捲りあげている間にピンチに陥りそうだ。


『あたしという名のナイフも傍にいるから、すぐに助けるけれど、念のためにね。ナイフの扱いは慣れているの?』

「ええ、任せて」


 ナイフを引き抜き、くるくる回して見せる。


『あら、やるじゃない』

「ナイフは農作物の収穫に使ったり、森で薬草採取をしたりするときに使っていたから」


 物心ついた頃から握っていたので、扱いには慣れている。


『あとは――お菓子を詰め込んじゃいましょう!』


 チョコレートにビスケット、キャンディにマシュマロ――ここ数日、食欲が戻ってきたので、アンゼルムが使用人に頼んで買ってきてもらっていたお菓子らしい。


「わあ、こんなにたくさんあるんだ」

『当然よ。もしもいじわるされて食事を抜かれたときは、お菓子パーティーをしましょう』

「楽しそう!」


 それからあれやこれやと詰め込んでいるうちに、鞄三つ分がぱんぱんになった。


「あの、メイドの荷物ってこんなに多いの?」

『あり過ぎて困る、ということはないと思うの』

「そうかなあ」


 これらの荷物は先にエルク殿下のお屋敷に送ってくれるらしい。

 準備は整った。あとは乗り込むだけだ。 

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