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第一章3 『笑い合うって、親友が言ってた』


  

          ♢♢♢



「わたしには7人の精霊さんがいて、あなたにきょう、ひとりプレゼントする予定だったのよ」



美少女___姉のマリーは、ヴァイオレットの手を握ったまま『ヴァイオレット』の生涯を事細かく説明し、最後の締めくくりとして一言を発した。


『ヴァイオレット』とは、お金持ちの貴族の家に生まれ、そろそろ16歳になるという。

ティンゼル家は代々、剣技を受け継いできた一族だった。


マリーは生まれたころから才能があり、あるとき木刀を握っただけで才能が開花したという。


そんなマリーの妹として生まれたヴァイオレットだが___。



「才能はなかった?」



マリーの気遣った言葉から推測して、なんとか言葉を絞り出して聞いてみる。

マリーは目を見開いたあと、


「言い方が悪かった………わよね、ごめんなさい。ヴィオラ、あなたは才能に満ち溢れてる。剣技以外だって………例えば、お花摘みとか」



言葉自体は嬉しいが、あまりフォローとなっていない発言にヴァイオレットは肩を落とす。


「現世でも才能はなし、異世界くらいは才能がめっきりある子になりたかった………」


ヴァイオレットは静かに呟いた。

以前の『ヴァイオレット』に文句をつけるわけではないが、転生するとしたらもっと強キャラ感溢れる主人公に転生したかったという話だ。


マリーは「褒めてるのよ」と慌てて言って、改めてヴァイオレットに向き直った。



「___記憶が失くなっちゃったのはすごくショックで悲しかったけど………またヴィオラと笑い合えて、幸せだよ」


「___っ」


『笑い合えて幸せ』。


突然、死ぬ前最後に言葉を交わした親友の顔を思い浮かべる。


幼馴染であり、共に青春時代を過ごしてきた親友。

そんな結衣は、いつも遊び終わったときの別れ際に、『出会えてよかった』という話をする。


それに慣れたころは、適当に聞き流すだけだったが、そんな結衣もマリーと同じようなことを言っていたなと思い出す。



『わたしたち、出会えてよかったね。まさに運命共同体って感じだし___笑い合えてるだけでも幸せっていうか』



真っ向に受け止めて聞いてみると照れ臭い言葉ではあるが、『朝香』にとってその言葉は別れるときの挨拶みたいなものだった。


あの声と顔、そして雰囲気を思い出して、耳鳴りがし、咄嗟に頭を抑える。


「………どうかしたの?もしかして、記憶喪失のせいで………頭痛とか?」


「あ、いや………どうってことないんだけど。なんか、ちょっと………」


なんか、ちょっと『思い出すことがあった』。


親友の顔と、声と、雰囲気。全部が好きだった。


『出会えてよかった』話をするとき、結衣はいつも最後に『愛してる』とさらっと伝えてくる。

そのせいで心の臓が跳ねて、飛び回るし、胸が苦しくなる。


「ちょっと?」


「___わたしは、まだ………何も思い出せてないけど、これからこうやって一緒に………思い出せていけたらいいなって」


語尾を上げて、気丈に振る舞う。


マリーは安堵したように胸を撫で下ろし、また笑顔を取り戻す。


「ごめんね、何か思い出せたら言って。お母様には、記憶喪失のことちゃんと伝えておくから。もしかしたら体調が悪くなるかもしれないし………きょうはまだ休んでおく?」


「え?いや………えっと、もう、大丈夫だから………」


マリーを安心させるためにそう言って、ベッドから抜け出して態度でも示す。


その動きに、マリーも立ち上がり息を吐く。


「そっか。じゃあ何かあったら呼んで。すぐ………30秒以内には行くから」


「___ありがとう」



ただ、マリーはそれだけ言い残して部屋を出ていった。


普通、妹が記憶喪失となったら慌てふためき、医者を呼ぼう寝かせよう親を呼ぼうなどするものだと勝手に考えていたが、マリーの行動はその真反対だった。


これが『異世界』の常識なのかもしれないが、あまりの軽々しさに、異世界の常識を呑み込めない。


とにかく、そんな考えは端に置いて、ヴァイオレットはマリーが取ってくれたドレスを改めて見る。


ベッドに放り投げられるような形で置いてあるドレスは、大体がピンク色の生地で作られており、転生する前の___『朝香』好みのドレスだった。


ベッドの隣に置いてあった鏡の前に立ち、ドレスを身に合わせてみる。


そのとき、初めて転生後の自分の顔を見た。


姉に似た美しい顔立ち、鼻筋、瞳の大きさや形。異なる点は髪色とその髪の長さ、瞳の色だけだ。


髪色は気品溢れる綺麗なすみれ色、瞳も同様の色だ。髪は床につきそうなくらい長い。


「髪染めてみたいとは人生で1回は思うけど………まさか紫色なんて考えてもなかったな」



___親友との会話が、また脳内をよぎる。



『髪染めるとしたら、何色?』


『えー、何色だろう?赤とか………いやそれはないかな?ピンクとかの方が可愛い?』


『赤もいいと思うよ。だって___』


その続きの言葉が、今でも喉の奥に詰まっている気がする。


『だって、可愛いからなんでも似合うと思う………けど』


そんなこと言ったら、結衣はどんな顔をしたんだろう?



___ひどく拒絶しただろうか?


違う。


___ひどく喜んだだろうか?


違う。


___ひどく軽蔑しただろうか?


違う。


___それとも縁を切られただろうか?


違う。


違う。


きっと結衣は、顔を真っ赤にしてうずくまり、笑ってくれただろう。


「___なに考えてんだろ」


もし異世界から帰れたとしても、今の自分は死んでいて幽霊と化すだけだ。

結衣に会うこともできない。


___呪いたいほど、制裁を下したいほど、死んだ直後は憎んでいたのに。

マリーと会ってから、そんな気持ち一切なくなった。


ただ、泣きたくなるほど。


「会いたい」


死にたくなどなかった。

本当は、もっと一緒にいたかったのに。


だって、だって『朝香』は___。



「ヴィオラ、お父様から………お話があるって」



自分の気持ちが溢れ出る前に、背後のドアから透き通るような声が呼んだ。


振り返るとマリーが、少しばかり深刻そうな表情でこっちを見つめていた。


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