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4話『道草、そして方針』

 日向第二高等学校から徒歩で十分もない距離、駅前にある大型書店。僕と竜舞坂はそこに訪れていた。

 他にも近くに本屋はあったのだが、どうせなら色々なジャンルが取り揃えられている大きな店がいいという竜舞坂の要望によりココになったのである。


 僕的には、人が多いところは苦手なんだがな……。

 それに本屋っていうのは、理知的で、頭の良さそうな人間が多くて……嫌な空間だと僕は認識しているしな。


 本好きにはたまらないんだろうが、少ないとも自分はラノベ以外あまり読まない陰キャオタクだし。


「やっぱりココの本屋さんはおっきいよねー」


「大きいね」


 君の胸は小さいけ……いいや、これはやめておこう。

 地雷な気がした。特に口に出しておらず、ただ彼女に共感しただけなのに、竜舞坂はこちらを満面の笑みで睨んでいたから。

 うん。やめておこう。


 これを本当に口走ったら──『さよなら』とメールされながら、刺されるかもしれないからな。

 最も僕は竜舞坂とメールアドレスとか交換していないんだが。


「取り敢えず、どこ行こうか?」


「ん……ラノベコーナー」


「ラノベ? えっちなやつ?」


「お前を、僕は殺す」


「え?」


 ──彼女は天然だった。しかも、ドが付くほどの天然である。……多分、いや確実に、天然を意図的に狙っているタイプの痛いやつではないと思う。

 まあそんなわけで彼女はド天然なのだ。

 だからどれだけ元優等生とはいえ、ある程度は純情に、素直に思っていることを口にする。


 だからこそ。

 もうちょっとオブラートに包め──そう言いたい。


 ……というか、ラノベを馬鹿にするな!


「あのさ、竜舞坂はもしかしてラノベとか読まないタイプの人間か?」


「あ、うん。読まないねぇ。でも、もしひむろっちについて書いてある本があったら、読むかなあ!」


 何を言っているんだコイツは。

 僕は彼女の妄言を無視して、続ける。


「じゃあ一応、あんたの間違った価値観を治すために善処してやるけどさ。……ラノベには確かにそういうジャンルはあるが、真面目なやつは真面目だし。えっちぃやつでも、面白いやつは面白いんだぜ? 面白ければ正義なんだよ」


「……あ! なんかネットでいうキモオタみたい! なんていうのかな、早口言葉っていうか? 可愛いよね、それ」


「完膚なきまでの罵倒だよ、それは!」


 なにそれ。


 これで、褒めてるつもりなんだろうか。

 ”キモオタ”が可愛いってどういうことだよ。可愛いんじゃなくて、気持ち悪いオタクだからキモオタなんじゃないの?

 ごめん。訂正していいか。彼女は僕に溺愛しているわけじゃなくて、僕を罵倒する組織のスパイなだけなのかもしれないと!!!


 というかその指摘はとても僕に刺さるから、止めて頂きたい。

 ダイレクトアタックで、ワンターンキルゲームセットだ。それは!


「ん? あぁ別に貶すつもりじゃなかったんだけどね。褒めてるつもりだったんだけど……」


 お前はアホか、天然か、馬鹿ですか!?


「全てが全て、人を貶す用語だったけどね」


「ごめん。あまりネット用語? ネットの言葉? の使い方に慣れてないからさ」


 ふむ。

 つまり彼女はド天然でドアホで、ド馬鹿であるどころか、ネット初心者ということか。勘弁してほしい。これでさり気なく、もっと酷い言葉を言われたら、僕はその場で投身自殺してしまうことだろうよ。


 やめて。やめてくれ。


「まあいいさ。僕は寛大な心の持ち主だからな」


「そうなの?」


「嘘だけどね」


「嘘なのかー」


 なんやかんや紆余曲折(うよきょくせつ)ありながらも、僕はド天然元優等生に罵倒されながらもラノベコーナーへと歩みを進めるのであった。



 ◇◇◇



「あー、これ欲しいな……気になってたんだよな。でも、どうしようか」


 ラノベコーナー。


 僕は本棚下段にある新刊ラノベを観察しながら、ブツブツと独り言を羅列していた。……気になる、買いたいラノベはまあ沢山ある。ラノベは好きだが、客層が苦手という理由で本屋には最近あまり足を運んでいなかったが、案外新たな発見というのはあるらしい。


 いつの間にか刊行されていた昔買っていた本の続刊や、気になるタイトルが付けられた新刊。


 どれも気になるものばかりだ。

 だが、迷う。


 なにせ僕は一般的な高校生らしく年中金欠なのだから。


「なーんか、いっぱい並んでるね。流石に人気があるジャンルだけあるなあ」


「ライトノベルは数十年間も人気が続いているんだからね、そりゃあっ当然て感じだよ」


「そうだね。私も買ってみようかな?」


「それなら、これとか僕が昔読んでたヤツだが……オススメだよ。ワードセンスがキレッキレでさ、真面目なテーマと内容、それに対照的なさり気なく炸裂するギャグのギャップが素晴らしいんだ」


 ライトノベルに興味を示した竜少女に、一つの本を勧めてみるのだが、タイトルを読んだ彼女の表情から察するにお気に召さなかったらしい。むむむ、面白いんだけどな。これ。


「ところでさ、ひむろっち?」


「……?」


 だがしかし、その絶妙なリアクションの原因が……僕が紹介したライトノベルによるものではないことを知った。

『ところでさ』。

 話題の転換。転換の接続詞だ。

 文と文を繋げる接続詞であるものの、その前後に何の関係性を持たない時に用いる……話題転換方法の一つ。


 そう。


 彼女にとって本屋に来たということは二の次であり、本来の目的は『僕から話を聞くことなのだ』。


「教えてよ、ここまで来たんだからさ? 職員室で、誰と、何を話したの?」


「……」


 ここまできたら、誤魔化しは効かないだろう。

 仕方がない。僕は正直に話すことにした。


「今僕がオススメしたタイトルにある通りだよ」


「……え?」


「『美少女教育計画』」


「どういうこと?」


 僕は先程彼女にお勧めしたライトノベルを一巻手に取る。そのライトノベルのタイトルは『美少女教育計画』。内容は『天才少年がある事をキッカケにお馬鹿な美少女に勉強を教えることになり、彼女が模試で高得点を目指して頑張る』もの。

 詳細は少し違うが、大筋は似ていたのだ。


 ……美少女に対して勉強を教える。その点については。


 ───まあ、僕は天才少年じゃないし。


 ───竜舞坂も、根がお馬鹿なわけじゃないんだが。


「言いにくいことなんだけど、貝絵先生に言われたんだよ」


「うん」


「ここ一か月で、竜舞坂。あんたの勉学に関する成績は落ちただろう?」


「あー……、そういうこと?」


 彼女は何となく察した様子で、気まずそうな表情をつくる。きっと彼女の予想している通りだろう。


「そう。だから、僕がお前を元の成績に……優等生に戻すために、勉強を教えてやれって」


「あ、そういうこと?」


 ん? 早速嚙み合っていなかったみたいだ。

 文字にするとほぼ同じリアクションをした竜舞坂だったのだが、


「どういうことだと思ってたんだけど?」


「いや、成績が落とした私を学校に監禁して……先生たちによって勉強漬けにでもされるのかと思ってたー。良かった、そうじゃなくて、安心した!」


「それはかなり変態的な発想だけどな……」


 そういうことか。

 彼女が安堵しながら告白した言葉を、僕は理解する。流石にあの鬼教師たちでも、そこまで鬼畜なことはしないだろうさ。うんうん。


「というか、ひむろっちが勉強を教えてくれるの!?」


「え、いや、うん……無理だと思うんだけどな。貝絵先生にそう言われちゃったから、やるしかないんだ」


「あのー、ごめんね? 私のせいで」


「問題ない。僕は現実を受け止めるのは、得意な方だから」


「……そっか」


 やめてくれ。

 そんな悲しい声を出さないでくれ。極論、彼女が成績を落とす原因になったのは……僕なんだからさ。

 そう心配してしまったけれど、それは杞憂だった。


「悪い気がするけど、ひむろっちに勉強を教わるのは嬉しいかも! まあ早速、今日から勉強しよ?」


「うん? うん。そうするか。まだ何も考えてないけどさ、計画(プラン)とか」


「やったね! ネ申計画だよこれ!」


 ……彼女は僕から勉強を教われるということが、とても嬉しいことだったらしい。まあなんだか、美少女にそう嬉しがられるのは悪い気しないけどね!


 それにしても、──……竜舞坂緋色。

 彼女は本当に、ネット文化に……精通していないのだろうか?

 その疑問だけが、僕の心には焼き付いていた。

僕は思った。お前ら、──青春なんかしてないで、勉強しろ!

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