表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/23

1話『始まり』

 単刀直入に言うが、僕は『優等生』が苦手だった。


 優等生。勉強が得意。運動が得意。……授業態度が良い。そんな感じの、どこかの分野(ジャンル)で優れた部分を持つ学徒や生徒。彼ら彼女たちが、僕は苦手だったのである。

 出来損ないの僕が、より醜く見えてしまうからという。なんとも自分勝手な理由で、勝手に拒絶していたのだ。話すのを基本的に避けていたのだ。

 それで僕自身満足していたし、彼らにも何ら影響が及ぶわけでもなかったので、まさにウィンウィンの関係だったののだけれど。


 しかし。


 一か月前のクラス替え。

 隣の席になった美少女『竜舞坂(りゅうまいざか)緋色(ひいろ)』はそう、優等生だったのだ。。


 そして。


 ──机から落ちた彼女の消しゴムを僕が拾ってしまったことをキッカケに、そんな夢のような高校生活もあっけなく終わりを告げることになる。

 高校二年生の五月。


「どうぞ……」


「あ、ありがとう!」


 それがダメだった。


 ◇◇◇



「ねえ、ひむろっちー」


「うざい!」


「うざくないよぉ、えへへ……。腕、掴んじゃお!」


「ひっ!?」


 日向(ひむかい)第二高等学校の校舎裏。

 昼休みに、僕たちはそこにいた。流石は校舎裏というだけあってか、ツタなどが生い茂っていたり、虫が多いなどで、人がほぼ来ないこの学校でトップクラスの不人気スポットだ。

 人から隠れて何かをするには、ここが丁度いい。


 因みにだけれど、そこにいるのは……僕と、『竜舞坂(りゅうまいざか)緋色(ひいろ)』である。手作り弁当を無理やり僕に食べさせたあげく、照れながら腕に絡みつく”元”優等生の彼女。

 彼女が僕に対してこんな態度を取るようになったのは、いつからだろうか。


 正直、あまり記憶にない。


「なあ、元優等生……どうして、僕は拒絶しているのに──こんなにも、デレデレとつきまとってくるんだ!?」


「えぇ? そりゃもちろん、……内緒!」


 頬を赤くして、声を上ずらせながらそうはにかむ竜舞坂。

 黒髪ロングの清楚系美少女。日本人らしく黒なのにもかかわらず、透き通るようなその瞳はお世辞抜きでとても美しい。


「内緒、か。乙女っぽく言ってみやがって」


「いや私、一応……れっきとした乙女だからね!? あと、元じゃなくて現優等生です!」


「一足す一は?」


「三!」


 それは、ギャグじゃないのか……?


 取り敢えず、まずは僕が現在おかれている状況を詳しく説明しようと思う。


 まず最初に僕『氷室(ひむろ)政明(まさあき)』は、なんでか知らないけれど、取り敢えず元優等生の彼女に溺愛されているのだ。突然で意味が分からないと思う。僕も同感だ。……なんで好意を抱いてくれたのかは、定かではない。ただ彼女は勉強を疎かにするほど、恐ろしく僕に『愛を捧げている』のだけは確かだった。


 予想できる好意を抱かせるキッカケになったのは、一か月前。クラス替え直後の『彼女が落とした消しゴムを拾った』なんてベタすぎることだけなんだけれど。


 まさか、それがキッカケになったとは……いくらなんでも思えなかった。


 なにせ。


「バカだ。あんた、やっぱり筋金入りのバカになっちまったんだな」


「なってないですぅ! 私は天才よ!」


「天才は自分のことを天才と言わない、って聞いたことがある」


「ない!」


「僕が聞いたことある、って言ってるんだよ!?」


 彼女はこんな事になってしまっているが、一か月前までは文句のつけようがないほどの優等生だったのだ。高校一年生の模試結果時点で、有名私立大学がA判定だったり……。他の人にも優しく接して勉強を教えたり。スポーツも全般得意という。まさに文武両道を体現したような、少女だったのだ。


 だから、そんなちょっと消しゴムを拾ったくらいで僕を好きになるはずがないのだ。だが現実は実際そうなっているのだから、認めるしかないのだけど。


 それはともかく、僕に好意を抱いてから彼女の成績というものは───ズタボロに落ちた。


 一か月でこんなに人が変わるのか、っていうレベルで。


「むむ。あまり屁理屈言わないでよね」


「僕はただ、あんたと言葉のキャッチボールをしようとしただけなんだが……?」


古都場(ことば)のキャッチボールなら出来るよ?」


「はい?」


 っと、また彼女が意味の分からないことを言い出した。コトバのキャッチボール? それはさっき僕が言っただろう。……で、彼女が出来なかったのだ。


「古都場だよ」


「言葉?」


「古い都の場所。そのしりとり、キャッチボールが出来るって言ってるの!」


「……ああ、そういうことか」


 でもまあ、こんな感じでさり気なく言葉遊びが出来る彼女。優等生だったころの面影は確かにある。いや、というか正直……僕以外と接するとき、彼女の雰囲気はいつも通りなのだ。おかしくなったのは、僕に対しての態度だけである。


 そう。この一か月で彼女が変わったのは『成績が”ちょっと下がってしまった”こと』と『僕に対しての態度』だけなのだ。


「で、それでそれで。私が愛情を込めてつくったこの弁当、美味しい?」


「あー、うん。そうだな。特にこのエビチリが僕好みの味で美味しかった」


「本当?」


「ああ」


 さて、話を戻そう。

 彼女が僕のために用意してくれた手作り弁当。その感想を求められたので、僕はしっかりと本音で答えた。ソーセージやベーコン。ブロッコリーなどの野菜。エビチリや白米といった高校生の弁当にしては中々豪華なもの。

 いくら馬鹿舌である僕でも、その美味しさはしっかりと感じることが出来た。


 正直に言おう。

 彼女の手作り弁当は、あほみたいに美味い。


 健康にも良いようにバランス良く彩られた食材が、赤く長細い弁当箱に入っている。


「このエビチリの辛さが絶妙というか、一番好きな味なんだよ」


「えへへ、そんな褒められると困りますなあ」


「……」


 竜舞坂は僕の腕を更に強く握って、屈託のない笑顔を見せた。……凛々しい高嶺の花と呼ばれている彼女が、僕にだけ見せる笑顔。極楽浄土。そんな彼女の姿はまるで、天使のよう。

 あれだな。”萌え萌えきゅん”てやつだ。


 もし彼女が今の状況でネコミミメイド服だったら、僕はとっくに墜とされているかもしれない……!


『可愛いは正義だ』


 彼女がいま、制服姿であることに助かった。

 僕は九死に一生を得たのだ。メイド服は僕の性癖(ハート)に対してドストライクだからな。


 心の中で、ふと安堵する。


「美味しかった。……ありがとう」


「別にー?」


「っと」


 弁当をあっという間に完食して、数分も経たぬ先。昼休みの終わりを告げるチャイムが、学校全体に響き渡った。


 ……もうこんな時間か。


「昼休みも、もう終わりだな」


「早いね、あっという間」


「……じゃあ、教室に戻るか」


 確か五限目は──古文の授業だったはず。自分の苦手教科だ。とはいっても僕に得意教科なんてないし、言ってしまえばほぼ全部が苦手教科、科目なんだが。その中でも特に、僕が苦手だったのが古文やらの国語なのである。


 最悪だ。テンションがだだ下がり。

 大きなため息を吐くと共に、ゆっくりと腰を上げた。


「そうだね!」


 僕の言葉に、元気よく反応する竜舞坂。そんなわけで、僕たちは五限目に備えるために教室へと戻るのだが……。

 教室へ向かう廊下の途中で、なぜか僕だけが──……一人の先生に、職員室へ呼び出されることになってしまったのだ。


「氷室、今すぐ職員室へ来い」


 と。

甘いと思ったら、ブックマークや評価していただけると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ