振りかえって後悔するのが定石
「先生、本当に行くんですか?」
「当たり前だろう。ここに求めてたものがあるんだ。許可もとったし。そんなに嫌なら車で待っていれば良かっただろう。」
「だって、薄暗い車で1人待ってるのも嫌ですもん。絶対に見えちゃうだろうし。だったら、先生と一緒に行った方がマシです。」
「そうか。なら文句を言わずに着いてこい。」
先生はそう言って、昼なのに妙に薄気味悪い屋敷へとズンズン進んでいく。
僕はおいていかれないように必死に先生についていった。
ギィと嫌な音をたてながら扉は開いた。
「おぉ、真っ暗だな。電気は…流石につかないか。懐中電灯を持ってきて正解だったな。」
うぅ、なんでこの人ワクワクしてるんだよ…普通ならこんなとこ来たくもないだろ。はぁ、どうして僕ついてきちゃったのかなぁ。借りがあるとはいえ、断る権利はあるんだし…
「おい、何をぼーっとしてるんだ。お前の懐中電灯もつけろ。1個だと明るさが足りない。」
「分かりましたよ。」
2つの懐中電灯で照らすと一気に明るくなり、部屋の様子が見てとれた。
そこはやっぱり廃墟で埃っぽく、なんだかジメッとしていた。家具なんかはそのまま置いてあるらしく、一昔前の洋館みたいだった。ここで出るおばけは、幽霊ではなくゴーストと呼ばれそうだ。
「ほぉー、ここの家主はなかなか良い趣味をしてたらしい。」
「そうですか?僕はなんだか落ち着かないですけど。」
「一度は誰でも憧れると思うんだがな、こんな感じの部屋。よし、目的のものは2階にあるんだそうだ。行くぞ。」
「えっ、2階にですか。うわー、最悪。」
「グズグズ言うな。」
先生はこんな雰囲気は慣れた感じでスイスイと進んでいく。
先生は本当に恐怖心をなくしているな。
そう心で悪態をつき、僕は先生の後を追った。
先生はすぐに2階に行くのではなく、ちょっとあたりを見てからにするという訳わかんないことを言い始めた。こんな所1秒でも早く出たいのに…
僕の気持ちはつゆ知らず、先生は1人うんうんと頷いて満足そうにしている。
はぁ…早くここから出たい…よし、先生に声をかけよう。後で絶対不満げにタラタラと文句を言うけど、この場所よりはマシだ。
「先生〜、もう充分じゃないですか〜。そろそろ上へ行きましょ…ひっ、ギャーー!」
やばいやばい!いたいたいた!やっぱりいた!も〜、だから嫌だったんだよ〜。あぁ、最悪…
「どうしたんだ?そんな声あげて…あっ、もしかしてみえたのか?」
そうだ。僕は見えてしまうんだ、幽霊が…
元々はなかった霊感が、昔友達と遊び半分で肝試しをしたせいで開花してしまったのだ。そして、この霊感を鎮めるために相談したのが先生だった。先生は僕の遠い親戚で、祖母の紹介で知り合った。諸々の自己紹介が終わったあと、先生は僕にブレスレットをくれた。普通なら胡散臭げで断っていただろうが、この時ばかりはいきなり持った霊感で疲労困憊だった。藁にもすがる気持ちでブレスレットを受け取って帰った。
その結果、ほとんどの霊がみえなくなった。たまにみえてしまうが、回数が減っただけでも僕にとっては賜物だ。しかし、ブレスレットにはメンテナンスが必要で先生に定期的に直してもらう必要がある。この時に、僕は先生から頼み事をされることがあり、霊感を弱めてくれたお礼にそれを引き受けるが、正直こういう恐怖体験はしたくないかな!
ちなみに、先生におじさんと言うと時が止まるよ!だから、僕は咄嗟におじさんが白衣を着てたから先生と呼んで、それが今でも継続しているんだ!
「女の人います!そこに!ていうか、先生のめり込んじゃってます!」
「えっ?本当か?ふふ、それは面白いな。」
「面白くない!早く移動してください!」
先生はビクビク怖がる僕とは違い、鋼の心臓タイプなのだ。しかも、全然霊感ないし、誰もが体験するお風呂でシャンプーしてるときの、あれ?後ろに人いる?みたいな気持ちにもなったことがないんだ!
それを羨ましいというと、「いやこれは寂しものだよ。誰もが体験できるのに僕だけできないんだ。だから、いわくつきのものをコレクションしたいんだ。」とか言って、意味が分からないよ!
僕がみえる幽霊たちは基本的には手を出してこないが、他の人にはどうか分からない。だから、そんなウキウキしてないで、早く移動して欲しいんだけどなぁ!
「また、俺だけ見えなかった。はぁ…」
「落ち込む意味が分からない。ほら、さっさと2階に行きましょう。もう、僕はこれ以上幽霊をみたくないです。」
僕は先生の腕を引っ張って、この場所から逃げ去るように早足で階段のある方へと向かって歩きだした。
階段を登るときには大いに悩んだ。先生を前で盾にするか、後ろで盾にするか。結局、前で盾にすることにし、僕は先生後ろにビッタリとくっつくくらいの距離で階段を登っていった。それでもって、もう幽霊には会いたくないから、定番のおばけの歌を心で歌っていた。
「おい、歩きにくいぞ。もっと離れろ。」
「それは諦めてください。僕をここに連れてこようと思った時点で分かっていたことです。」
「それと、ずっと気になっていたんだが、その歌おばけはいないとか言ってるけど、逆におばけの存在認めてないか?」
「え?」
…確かに、考えてみれば、みえない人にはおばけなんて認知できないから、この歌を歌えないし…
この歌ちょっと強がってる感じもするしな。なるほど…だけどさぁ!今この話する必要あった!?僕はこの歌で少し精神の安定をはかっていたのに!それを崩壊させるなんて、先生空気読んでよ!!
僕は先生に文句を言おうと口を開いたが、先生が急に立ち止まった。そのせいで、先生の背中にぶつかってしまった。
「いてて…急に立ち止まらないでくださいよ!」
「いや、2階もあまりにも立派で、つい立ち止まってしまった。」
「寄り道はしませんよ。速攻で御目当てのを見つけて、帰りましょう。」
「あぁ、分かったよ。」
ん?やけに素直だな。いつもなら、お構いなしにどっかに探検にいくのに。
僕は少し疑問に思いつつも、早く帰れるからラッキーかと考えて目的の部屋へと向かった。
部屋に入ってすぐに目的のものが見つかった。
「あったぞ!これだ、これ!」
先生のテンションとは反対に僕のテンションはだだ下がり。先生が探しているということは、いわくつきのものだ。今からこのいわくつきを運び、帰りの旅路を共にするのである。普通にどう考えたって嫌だ。
どうか偽物でありますようにと願いながら、この部屋を出よう扉の方へ目線を向けたら、1人のお爺さんが立っていた。
「ヒッ。」
変な息の吸い方をしてしまったせいか、ゴホゴホッと咳き込んでしまう。その音に反応して先生がこちらを向く。先生は見えてるのか見えないのか分からないが、いわくつきのを持って扉の方向へと向かっていく。あの女性の霊の時みたいにのめり込みになると思って、呼び止めようとしたが、意外にも先生はお爺さんに話しかけた。
「こんにちは。今回は協力ありがとうございます。」
「いえいえ。こんなところまで大変でしたでしょう。どうですか?なにかものはありましたかな。」
「はい。無事に欲しいものを見つけることができました。」
「そうですか。それは良かった。」
お爺さんと先生は和やかに会話をすすめている。そんな2人に置いてきぼりなのが僕。
一瞬幽霊だと思って、身構えたのが恥ずかしい。こんなところで出てくる人って、大体の場合幽霊じゃないか!幽霊じゃなくて良かったけれども!
「おい、ぼーっとしてるんじゃない。挨拶しろ、挨拶。ここの持ち主の方だ。」
「あっ、はい。こんにちは。えっと、先生のお手伝いをします。今日はありがとうございまた。」
僕がそう挨拶すると先生がすぐさま「それでは、私たちは失礼します。」と言って帰ろとした。
お爺さんはそれを気にすることなく何も言わずに僕たちのことを見送った。
先生と僕は屋敷を出たが、僕は先生の行動がいつもと違い、モヤモヤとした気分であった。
2階に行ったときも探索はしなかったし、屋敷の主人であるお爺さんにも話を聞かなかった。いつもなら僕が止めないと相手を永遠に質問ぜめし、止めると先生がちょっと不満そうにして僕を睨んで質問コーナーが終わる。
今回はなんでそんなことがなかったのか。不可解である。
「お前、聞きたいことがあるなら早く言え。ずっとそんな雰囲気でいられると気が散る。」
「えっ、じゃあ聞きますけど、なんで今回あっさり帰ったんですか。」
「あぁ、そんなことか。1階の床はしっかりしてたが、2階の床はダメだ。腐っている。だから、2階の捜索はしなかった。」
「それじゃあ、いつもの質問コーナは?」
「質問コーナ?あぁ、あの爺さんは屋敷の主ではないと思うぞ。関係ない人に質問は無い。」
「えっ!あの人無関係なんですか!?」
「そうだ。俺が許可をもらう時でてきたのは、女性だったぞ。」
「まじですか…」
そうなるとつい屋敷の方が気になって、僕がもう一度見ようと振りかえろうとすると、先生に止められた。
「バカ、振りかえるな。こういう時は何も知らないアホ面こいて帰った方がいいんだよ。幽霊にしろ、生身の人間にしろ。分かるだろ。」
「確かに…」
僕は先生の言い分に大いに納得して、絶対後ろに振りかえらず、まっすぐ車へと歩いた。