第7話 現状理解と締結
「正確には『神の使者』と、そう呼ばれている」
「ちょ、話がぶっ飛びすぎてなにがなんだか…」
とても現実離れした話を振られ、簡単に理解できずにいると、ぶっ飛んでいるスサノオが「そりゃそうなるよな」とまともなことを呟いた。
「えっと、まず支配とは一体どんなことなんですか?空から出てきて人間全員ぶっ殺すみたいな感じですか?」
あまり聞きなれない統率行動について、優気はイメージの湧かないまま質問する。
「まぁ初めて聞くとそういうイメージになるわな」あまりの純粋さにカラマノランジャンは思わず小さな笑みをこぼす。
「奴らは人の地位の上に君臨し、奴らの中の考えで世界を統治しようとを企んでいる。奴隷制度のように人を上から扱う感じが近いだろうな」
「そんなの嫌ですよ!何で勝手にそんな酷いことするんですか??」
「それにはしっかりとした経緯があるんだ。多数の『神の使者』が今まで人類のしてきた愚挙に対して何年か前に我慢の限界を迎えてしまったんだ。言わば、人間ではなく神の使者がこの世を支配する改革を行う、彼らは『改革派』と呼ばれている」
「なるほど…ふ、不覚にも人間として思い当たることが多いな」
戦争、虐殺、私利私欲のために人権を侵害する行為など人間の愚挙に対してはこれまでの歴史を学んでいても思い当たることが複数存在し、説明内容に納得してしまうことが人間の負の歴史といったところだろうか。
「対する我々はその考え方に抗い、現在のように人間が主体となって今を生きることを推進する『維持派』ということだ。まとめると、我々はこの世を『改革派』の支配から『維持派』の我々が抵抗する組織だ」
優気はあまりの規模の大きさに啞然としてしまうが、一瞬たりともカラマノランジャンの表情が緩まない。事実であることを受け止めるのにとりあえず認識を更新していく。
「神の、使者…」
聞いたこともないその言葉はとても印象的だったため、カラマノランジャンの発したことをおもわず復唱してしまった。恐らくだが、自分を含む超人的な動きをできる者らのことを指していると考察できるが、まだわからない。
「ちなみにその『神の使者』ってのはどんな者らなんですか?」
特殊な自己修復によって恩恵を受けて今があるのにもかかわらず、相手からの説明がないと確証が持てないのはなぜだろうか。
「詳細については長くなるから省くが、簡単に言えば現実的に考えられないような動きをする者や不思議な能力で有り得ないことを起こす者らのことだな。もちろん、私もこいつもだ」自身とスサノオを親指で指しながら伝える。
「そうだな、何か事例を見せたいな。私個人の能力ではないんだが、」
例えば、と席を立ち上がりダイニングテーブルの方へ向かう。どうやらその不思議な能力を実演してくれるようだった。かなり丁寧な説明で再び優気の興味の扉が叩かれる。
「このグラスを普段と同じように適当に触れてみてくれ」
差し出されたのは一般的なグラスで、特に目立ったところのない簡素なものだった。確認ができたためソファーの前にある小さな机に置き、次の指示を待つ。マジックが始まる吉兆と同じ感覚でこの状況を若干楽しんでいた。
「よし、特にタネがないことを確認できたな。じゃあよく見とけよ」
カラマノランジャンがそう意気込むと、両手のひらを合わせるかのように手の根本を合わせながら中指だけくっつけ、何かの儀式のようなポーズを取る。妙な迫力があり、呆気にとられるが本番はここからだった。
『深淵から湧き出る汚れ大き黒水よ、理に反す抗を今示さん。疎なる元と空の境を交じ合わし禦を崩せ。脆く、危うく、鎮め、暗きに咲く花のように表し給へ』
グラスに向かって呪文のようなものを詠唱すると、カラマノランジャンの構えた両の手が黒紫のオーラに包まれていた。
「第3の呪術、頽廃なる霧霞」
グラスを見ても特に変化は見受けられなかったため、首を傾げ、少し怪訝な表情になる。
「それでは、触ってごらん」
そう言われ、取っ手部分を持ち上げようと触れた瞬間、ガラスでできた取っ手がたくさんの小さな紙切れを降らすかのように粉々に崩れていった。優気はおもわず大きな声で驚いたが、スサノオの方を見ると興味なさそうに耳をほじくりながら視線を送る。
「これは『呪術』というもので、『神の使者』が扱う技術の一つだ。これは対象に負の状態をもたらす効果がある」
「はぁ~いわゆるデバフってやつですね」日頃ゲームやアニメを興がる者には馴染みがあり、理解がしやすいワードである。
「そういうことだ。呪術をデバフとするなら、バフバージョンの『使術』と相手に直接危害を加える『魔術』というものがあるが、先程も言った通り、これらは各々の能力という訳ではなく、練習さえすればどんな『神の使者』でも習得できる。能力の話となると雷を操る力、大地を司る力、物を創り出す力など個性的なものがピンからキリまで存在する」
説明の最中スサノオはゴミ箱を持ってきて粉々になったグラスを捨てる。何でジャンジャンが処理しないんだよ、ぶつくさ文句をたれながら掃除に励んでいた。脳内を覆う大きな疑問の糸が一つ解けた、そんな感覚が優気に流れる。
「ってことは俺もその一人か」嬉しいような怖いような今までにない気分が身体中に晒される。
「勘付くのも当たり前か。『神の使者』ではあるんだが、中でも君は『四神の器』というものに分類される」
「四神の、器??」
再び新しい単語が飛び出し思わず優気は首を傾げる。
「あぁ。これは少し特殊なケースで、四神は4種類の神の獣のことだ。そいつらは人間の中で共に生きる性質を持ち、人間を媒介としながら生きている。所謂別ケースだな」
「なんか色んな概念出てきてるけど、すげぇことだなこりゃ…」
新たな事ばかりで戸惑いが生まれ、優気は遂に整理が難しくなってきた。確かにドッキリがネタバラシされるまで理解できないのと同様に、非現実的なことが現実でしたとどんどん説明されては理解が追い付かないのも無理なことではない。
「ちなみに、僕の中にはどんな『四神の器』がいるかわかったりしますか?」
「えっ、君は四神の神獣を理解して力を使っていると思っていたんだけど、わからないのかい?」
「えっ、はい。マジでわからないです」
両者ともに困惑するが、少し考えてからカラマノランジャンが口を開いた。
「スサからの説明によると治癒能力を持っていたこと、体育館で力を発現させた際にオレンジ色がメインの武装をしていたことから、『朱雀』と考えるのが妥当だと思うが」
「オレンジ色の武装をしてた?僕がですか?」
相手は何も知らないことに驚く一方で、優気は複雑に絡まった疑問の糸がほどけていく感覚が心地よかった。
「能力の使い始めはその時の記憶がなくなる事例があるが、これはかなり時間がかかるな…」
「確かに化物を襲って来て、僕が倒したような気がしなくもないような気がするようなしないような…」
カラマノランジャンは一瞬首を傾げ、少し気を落とす。初めてスサノオに出会った時に『四神の器』がどうのこうの言っていたことを思い出し、優気の中の点と点がつながり現状をどんどんと理解していく。
そこで、スサノオと出会った時を思い出したついでに沢山のことが気になった。
「あの、先日僕らを襲った奴らは何なんですか??」
ポイントがあると多くの人に読んでもらえるとのことらしいので、面白いと思った方や少しでも続きが気になる方は是非評価をよろしくお願いいたします!m(__)m