第13話 スーパーキンタマクラ
全ての食事を平らげ、食器をシンクに移動させ終わるとスサノオが何かを思い出した様子で問いかけた。
「そういえばゆうき、神力トレーニングはどうした。成果は出てきてるか?」
「あれから3分増えたくらいです。まだまだなのは分かってるんですけど、土日は大分ヘロヘロになりました」
「おお!3分も延びたのか!なら、更に神力強化をするために今日はジャンジャンお手製の道具を使う」
説明している間にジャンジャンが自身の鞄から二つの黄色い物体を手に持ってきた。如何わしい見た目だが、優気にとってどのような物なのか見当がつかない。
「その名も『神力チューチューダンベル』だ!!」
「てってて~」奥で食器洗いに勤しむウォックから国民的アニメのひみつ道具を取り出す際の交換音を模した声が聞こえてくる。新たなトレーニング用具を出すというタイミングにピッタリと当てはまっており、脳内で再生されるのも自然な事柄だった。子供の頃に毎週視聴していた者であればこの瞬間には違和感を持たないだろう。
「違うだろ。てってててってて~ってて~でしょ」
フィルセルのように時代によって交換音の相違があることに対して違和感を持つ者も少なくはない。
「いやいや、てってて~だって!」
「いやいやいや、てってててってて~ってて~だから!!」ウォックとフィルセルがひみつ道具の交換音で言い争いをしているが、どちらとも正しいが、何故こんなことで口喧嘩するのか優気は遠い目で見ていた。
「この『神力チューチューダンベル』は神力が流れると重さが軽くなって持ち上げられるようになる。要は多量の神力が必要となる。神力増加にもってこいのトレーニング道具よ」
「よくこんな凄いもの発明しましたね。色も黄色で可愛らしいくていいですね!」ジャンジャンが照れ笑いを浮かべながら頭を掻く。
「ただ、体に触れるだけで神力が吸収されるから移動する時とか取扱が面倒な時もある」
「まぁどんなものにも難しい取扱なんてありますよ」
「そして片方1トンだからただでさえ重いぞ」
「だから取扱が難s1トン!?えっ、今1トンって言いましたか??」
あまりの桁の違いに困惑する。普段十キロのダンベルを上げられるか怪しい男が一トンのダンベルを持ち上げることなぞ百年中正座することと何ら変わらないものだ。
「俺からも聞きてぇんだけどさ、なんでこんな持ち手が短いんだ?」
スサノオの指摘通り、ダンベルの持ち手が拳一つ分程度しかなく、圧迫感がありそうな形状である。
「これ以上大きくすると神力吸収率が高くなるからだな。下手したらスサも半日持ってられるかどうかになるとこだった」
「なるほどね~。汎用性は微妙っぽいな。あとなんで黄色にしたんだ?これじゃ横から見たら金玉にしか見えねぇぞ」
スサノオから唐突な下ネタが投下され、優気は噴き出した。悪びれる様子もなく、ただこの状況を楽しむかのような純粋さの上で発せられた言葉ということもあり、発言後は少し笑みを浮かべていた。
「そんなこと言わないでくださいよ、僕もだんだん金玉にしか見えなくなっちゃうじゃないですか!!けど確かにこれは金玉に見えますね。いや、もうこれ金玉ですね。とても持ち上げられませんわ」
「ブゥッハハハハハハ!!!!やっぱりそうだよな!!では改名しよう。これは『キンタマダンベル』に改名!!」
「異議なし賛成可決!!けど、スサノオさん。聞いて驚かないでくださいよ。実は金玉の色ってのは…白なんですよ!!」
途中で含みを持たし、間を空ける。この場において最上級に無駄な表現がスサノオを普段よりもさらに驚かせた。まさに驚愕という言葉がピッタリと当てはまる。
「じゃあ今から白に塗らないとダメだな!!残念!!」
様々なクレームとデザインの煽りが飛び交い、目の前で聞いている製作者のジャンジャンに怒りが芽生えないはずはなかった。
「もういい!もうなんも作んねぇ!作るのやーめっる!!」
そう言葉を残すとテーブルを拭いていたリュウを半ば強引に引き連れて試作品の武器を試しに誘った。それに抵抗することはなく、雰囲気を察し、一旦距離を作り出そうとリュウはジャンジャンについていく。二階に上がる二人の足音が早いリズムでアジト全体に響き渡った。
「ジャンジャンさん怒らせちゃいましたかね…」
「まぁ、これもいつものことだから。気にしなくていいぞ」
「えぇ…ということは、何か発明品ができたらああやってからかってるんですか?」
「そう!!いっつもからかってる。だからいつものことよ」
笑いながらスサノオはそう言うが、優気はちょっかいが積み重なって怒りに変わったことに少し反省する。
一方でスサノオは反省する様子もなく、寧ろこれからも煽り続ける様子で笑顔を浮かべていた。
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とりあえず前回の修業部屋に移動してこれを使った修業をすることになった。四神化し、まずは五回上げることを目標にしてダンベルトレーニングを開始した。すると、一回持ち上げるだけ二日間寝ずに事務作業をこなすようなかなりの疲労が優気の身体を襲った。
「これは…無理です」
優気の口からおもわず早々にギブアップ宣言が漏れてしまう。だが、スサノオは声援で鼓舞し、何とか続行を推し進め、四回目に差し掛かったところでピクリとも腕が上がらず、限界を迎えたが、筋トレとはそこにプラスワンを積み重ねることによって正当な対価を得られるものである。
もう既に優気の表情が去勢手術を受け無表情になる動物の顔となっていたが、スサノオが何を思ったのかはわからないが、倒立状態で後ろから腕を支えて何とか上がらせようとした。
後押しもあって四回目は何とかクリアし、最後の一セットでダンベルを上げた際に「もう、無理、だ」と声を上げ、遂に優気が気を失い後ろに倒れこむ。
そこをスサノオが優気のダンベルを握りしめた手を足で支え、頭を股間で支えた。とても不思議な構図となり、何故か少しノスタルジックな気分となる。
「これが『スーパーキンタマクラ』か」
この体制にそう名を付けた。暫く体制が崩れないように立ち腕立て伏せを行っていたところ、ジャンジャンが部屋に入るとよくわからない状況を整理できず、点のような目で周りを見渡す。
ジャンジャンは優気の体制に目を当てると、泡をぶくぶくと吹き出しており慌てて止めに行く。症状を確認したところ、原因は急激な神力低下による気絶で特に大事には至らずに済んだ。
また、立ち腕立て伏せをしていたスサノオは案の定こっぴどく怒られた。
ポイントがあると多くの人に読んでもらえるとのことらしいので、面白いと思った方や少しでも続きが気になる方は是非評価をよろしくお願いいたします!m(__)m