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第12話 差別発言のオンパレード

 月曜日の放課後。授業が終わり生徒が各々の活動に取り組み始める中、優気(ゆうき)は修業のために再び空き教室に入室し、「お邪魔します」と言いながらとある家のリビングに空間が変わっていく。まだこの現象には慣れず、身体に違和感が残り、少し鳥肌が立った。

 

 部屋全体を見渡すとスサノオやジャンジャンの姿は見えず、数歩進み周りをもう一度見渡す。


すると、奥のキッチンに料理を作っている者がいた。フライパンで炒められる玉ねぎなどの様々な野菜と複雑な調味料が混ざり合って香ばしい臭いが部屋中に広がっている。隣のコンロには伏せられたフライパンが温められている。遠目で見る限りおそらく餃子などの類だと推測できる。料理に気になるのもそうだが、目的のスサノオの行方を知るためにキッチンいる者に近づく。


いよいよ近くまでくると冷蔵庫の下の段が空いており、そこではつらつらと会話をする大の大人が二人見えた。


近くに立つ一人は白人、しゃがんで冷蔵庫を漁るもう一人は黒人と対照的な肌の色をしている者で、外国人にあまりなじみのない優気はおもわず一歩引いた状態で、会話の内容を大人しく聞いていた。


普段の学校生活では色々な人と交流しているが、それまで年月が経っており、いざ自分から話しかけるとなると緊張してしまう。元々人見知りという性格を持ち合わせているため、近づいたのはいいが話しかけられないという妙なジレンマに引っかかっていた。


「ウォックだな?俺が楽しみにとっておいた最後のこんにゃくゼリー、期間限定カシスオレンジ味を勝手に食べたのは」


「なに言ってんだよ。フィルセルのモン俺が勝手に食うわけないだろ?」


「お前が前に冷やしておいたチョコ食ったから言ってるんだろうが。今回は分かりやすいように『MINE!』ってふたに書いておいたのに」


冷たいまなざしでギロリとウォックの顔を見る。冷蔵庫の中を必死に探すフィルセルという者が黒人で、丁寧に手入れされた坊主頭が確認できた。傍に立つウォックという者が白人で、金色の短髪で青い瞳の男性と判明したが、優気の脳内では『ここは本当に日本なのか』と疑問が頭を駆け巡る。


そもそも、このアジトが海外にあるのではないかと考察もできたが、グローバル化が進む中、日本にも多数の外国人が入国している現状が想起され、安易にそう決めつけるのは違う解答だと、すぐに自身の考えを撤回する。そうこうしているうちに二人のやり取りが再び始まった。


「あたかも俺が犯人みてぇじゃねぇかよ。勘違いもいい加減にしとけよクソニガーが。うんこがついてもわかんねぇような汚ねぇ肌しやがってよ」


「だから、前回もそう言って俺のチョコを食ったのはプアホワイトであるお前だよな??ちなみに言っとくが、俺の体にうんこがついてもバレねぇが、お前はしっかりとバレる。しかも常時クセェお前の体にハエが止まると、そいつがハッキリと見えちまう。あぁ~白い肌が羨ましいよ。多様な注目の的に慣れて羨ましいなぁ~そんな君はさぞ、心も潔白なんだろうな~?ア゛ァ?」


優気の目の前で途轍もない罵詈雑言の嵐が巻き起こる。人生十七年間生きてきた中で、ここまで皮肉と汚い言葉で満ちた会話は聞いたことがなかったため、必然的に口が半開きとなり呆然となる。


暫く言い合いが続いた後に取っ組み合いとなり慌てて止めに入ろうとするが、奥で料理をしていた者が「デキタ!!」と大声を出した瞬間、二人の取っ組み合いは即座に終了し、盛り付け皿を出し始めた。


あまりの切り替えの早さに困惑し、おもわず「えぇ…」と声が漏れてしまう。その声に反応するように外国人両名がようやくこちらに気付き、目を見開く。


「新入りだ!!」


「YEEEEEEEEEEES!!」

突如大声を出し、リアクションを取る前に二人が嬉しそうに肩を組んでくる。


「噂には聞いてたが、本当に高校生だったとはな」


「けど、スサノオ曰く()()()()頼りになるって言ってたぜ」


「Oh!それは楽しみだな。まだ種植えしたての『サクラ』みたいなものか」


急な歓迎ムードで嬉しいは嬉しいのだが、二人の巨体からのしかかる途轍もない体重に耐えることは少し厳しい。キッチンに立つ人物を見るとそちらも笑顔を浮かべており、この状態から見ると魔の笑みのように感じてしまうのは、誰でも同じだろう。


「とりあえず、ご飯にシヨ!!!」魔物がそう口を開いて料理の準備が再開された。


 __________________________________


 テーブルに目一杯に置かれた中華料理を味わいながら外国人三名とコミュニケーションを広げた。中華料理を振舞った男はリュウ・チャン・ユーという人物で自身でも料理店を出すほどの腕前を持っているため、箸が休むことはなかった。


美味な手料理を堪能し、先程魔物と認識していた優気の判断が、神様のように変わっていった。


三人とも十年以上の付き合いで、かなり良好な関係と言っていたが、先程の差別発言ののオンパレードから、とてもそうには見えないのは必然だろう。あまりにもよそよそしく二人を見ていたので、向こうから答えが返ってきた。


「あ~もしかして変に気を使ってる??」


「…はい。さっきのやり取りみてたらやっぱり、ちょっと、モヤってて」


「Jesus!!!これが日本人というものか!」

困惑するウォックに笑ったフィルセルが軽く口を開いた。


「差別発言で相手を罵倒するのは日常茶飯事だから深く考えなくていいぜ。まぁジョークよ。ジョーク」

「簡単に聞き流せばいいヨ!」


一度納得を示すが、それにしてもジョークの度合いが異次元のように感じるのは優気だけだろうか。ジョークやネタなどの線引き判断は内輪ノリなら分かるが、第三者目線だととてもわかりにくいことを体感するいいきっかけとなる。


「ただ、こんにゃくゼリーを食ったのは許さないぞ。あれは少し値が張った代物だったし、オレが買った物だったんだからな」


「それ、ボク食べたネ!!」


「『お前かよ!!』」


 総ツッコミが入ったところで、スサノオとジャンジャンがリビングへやってきた。スサノオは「わりぃわりぃ」と先に待たせていた優気へジェスチャーで謝ってくる。近寄った際にテーブル中央に残っていたシュウマイを手で摘まみ口に入れると、周りを見渡した。


「あれ、色々バレたやつはいないのか?」


「あー、怜真(れいま)は今日体調不良で学校休んだんですよ。ただ、明日学校来たら間違いなくここに来ると思います…」

少し俯きながら話す優気の肩を叩きながらスサノオが口を開く。


「まぁ、もう後には引き返せねぇわな。そりゃ誰だって同じだ」


今度はジャンジャンがこちらに近づき、こちらは余ったシュウマイを楊枝で刺して口へ運んだ。優気の目の前に現れた青黒い腕はまだ見慣れておらず、若干狼狽えてしまう。


「元々スサの姿と動き見てたんだからこうなることは若干頭に入ってはいた。だけど、敢えて優気をハメて答えを知ったのだから頭が良さそうだな。雑務や単純作業の手はあった方が良い。正直仲間に入れることも考えてるんだが、どうだろうか?」


うーん、と皆が頭を悩ませる時間が空く。


「人員が多いと実験武器の手間も省けるし、新たな戦力にもなる。そして、思わぬ新武器や戦闘の兆しを見出すこともできるから賛成だな」


フィルセルが手を挙げて自分の意見を述べた。それに続いてウォックは、「賑やかになるし、仕事減るから賛成!!」と天にも届きそうなほど大きく手を挙げた。


フィルセルが小声で「それ言うなよ。おじゃんになっちまうだろうが」とフィルセルも作業を減らすことを念頭に置いている旨をこぼしていた。


「ぼくも賛成ネ!頭が良ければノウハウさえ叩き込めば力になるヨ!」

次にジャンジャンはスサノオの方向みて確認の合図を取ったところで決議を示した。


「みんな賛成だな。もし明日にこちらに来た場合にはこの組織のことを話したうえで入会面接を行って決めるってことにしよう」


 一同が喜ぶ中で優気は浮かない顔を浮かべていた。親友たちにはあまり危ないことに首を突っ込ませたくはなかったこともあって内心あまり乗り気ではなかった。そうは言っても怜真が明日休まない限りここを訪れることは先週の金曜日の塾で確定しており、怜真の好奇心旺盛な性格から仕方なく賛成することにした。


 外国人三人衆が料理の跡片付けに向かう中、優気はせめて怜真の入閣を後押しするためにジャンジャンに質問を投げかけた。


「怜真が面接するのに何か手伝える仕事とかってありますか?」


「いや、私は『怜真』という人間の意志と覚悟を本人から知りたい。今回は陰で見守っていてくれ。そして修業に勤しむことが優気の仕事だよ」


ジャンジャンの言う通り、これは厨二病の集いや心霊サークルの類ではなく、人類の存亡を賭けた組織だ。誰かの縁故や温情などで入閣するなど言語道断。全ては戦力になるかどうかを知るためのアクションに対して優気の行為は水を差すだけのものだった。


「確かにその通りですね。僕は怜真が入閣できることを陰ながら応援してます」


「あぁ、悪いがよろしくな」



ポイントがあると多くの人に読んでもらえるとのことらしいので、面白いと思った方や少しでも続きが気になる方は是非評価をよろしくお願いいたします!m(__)m

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