第11話 即バレ
ソファーに座らせて冷蔵庫から栄養ドリンクのようなものを開け、優気に渡した。ホワホワとしている状態ながら手渡されたドリンクをぐびっと飲むと、強烈な苦味と辛味が舌を刺激し、即座に現実へ引き戻した。
「何なんだこのバカマズドリンクは!!ペッ、ペッ」
思い通りのリアクションだったのだろうか、スサノオは優気の反応を見て高笑いする。
「それはうちのメンバーお手製の『メガ目がドリリングドリンク』だ。朦朧としている状態から一気に目を覚ましてくれる戦闘必需品よ。ちなみに1日に5本飲むと死ぬから気をつけろよ」
「飲む気も無いし、なんならもう一生飲みたくないですよ!」スサノオは軽く笑い、そうだわな、と納得の意を示した。
優気はドリンクによって喉と舌がおかしくなった状態のため、スサノオはキッチンで汲みに行き水道水に氷を入れて優気に手渡した。勿論それを有難く頂戴し舌を平常に戻すため一気に飲み干す。喉も舌も潤ったところで「それじゃあ最後に題を課すぞ」とスサノオが口を開いた。
「今日習得した四神化を続けるのに現状10分が限界だったな。そこから今日よりもたくさんダメージを受けて、能力で回復するとなると神力をより消耗することになって、もっと短い時間しか継続できなくなる」
確かに戦闘においてのことを考慮すると今のままでは殆ど戦力ならないことを思い知らされる結果となったのを優気は痛感していた。
「そこで、今日を含めた金・土・日の間に四神化を継続する自主練をすること!やり方は四神化状態で神力をフルで解放すること。いいな?」
「はい!わかりました!」
「いい返事だ!質問が無ければ今日は解散な」
「2ついいですか」人差し指と中指を立て質問をするアピールを施す優気に対して軽く頷いた。
「神力を解放したら敵とかにバレたりしちゃうとかはないのでしょうか??」
敵に神力を探知することが得意という者がいたら一瞬して優気の居場所が分かり、昨日の怪物が再び日常を脅かすだろうとの考察から出た質問であった。
「いい質問だ!!さっきお前の部屋に結界を張ったとの連絡が入った。結界ってのは神力を遮断してくれる区域のことだから心配しなくていいぞ」
「何から何まで対応されていてちょっと怖いな…なんならめちゃくちゃ怖いな」
「大丈夫!!俺の一番信頼できる人からの連絡だから安心してくれ。じゃあ次の質問!!」
先手先手を打たれて不安になるこの感覚は恐れに値する感情であるが、ここまで濃密なコミュニケーションを取り、能天気なスサノオに言われたら信じざるをえなかった。
これで一日だけ仲良くして今度会うときには別人のような扱いを受ける新手の詐欺の可能性を考えるが、そんなことをして不利になるのは相手側のため信じることにした。優気は続けて次の質問を問い始める。
「昨日助けてもらったときに僕ともう1人、友達がいたと思うんですけど、まだ正体とかこの組織のこととかバレてはないんですけど、すっごい怪しんでて、むっちゃ困るんですよ。だからあいつにだけこの組織や僕の立場を口外しちゃダメですか?」
少し考えを巡らせているがなかなか答えが出ない様子だった。
「うーん、これだけは何とも言えないなぁ。バレてないならこのままやり過ごすしかないかな。もしバレたら今日送られたメールに返信してくれ。そしたらこの組織のみんなで話し合ってみるよ」
「申し訳ないですが、ホントにありがとうございます」
下校したあとに普段から通っている塾へ行かなければならないため、教室へ戻るべくリュックを背負い、部屋を出ようと立ち上がる。実のところ、塾は怜真と同じところに通っており、どう対処するかを再び考える。
「じゃあまた来週な。バイバ~イ!!」スサノオが元気に手を振って優気を見送った。
時刻は五時を示しており、下校時間に差し掛かっていた。入ってきた窓へ戻ろうとするも、ただのベランダへ続く窓にしか見えず困惑するが、窓を一歩超えると空き教室を出た時と同じ視界が広がった。
あの部屋に入った時も驚いたが、部屋を出た今も理解が追い付かない。そのため、優気は何度も前後を振り返って見てしまう。夕陽が沈み、暗くなる空き教室を視認したところで帰宅の意思に駆られてその場を離れた。
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「学校内のどこかで昨日の人に会ってきただろ?」
塾の授業始まる前に怜真が隣の席で筆記用具とテキストを机に出す傍ら、何の変哲もない声でそう尋ねてきた。おもわず驚きの声を上げてしまい、それに続いて怜真は深く問い詰める。
「そして、激しい運動というか動きをした」
「ゲゲゲゲェ」
「ビンゴ。お前わかりやすすぎ」
「なんでわかったの!?」
はぁ、とため息をつき、準備を止めて優気の方を見る。焦った表情で口が半開きになっており、自身より巨大な動物に相対した時の小動物のような顔にそっくりだった。少し怜真は笑いが漏れそうになるが、落ち着いて堪え、説明に取り掛かった。
「部活が早めに終わって教室戻ったら、お前のシャーペンが机に置きっぱなしだったから夜の塾の時に返そうとしたんだけど、空き教室から出てくるお前を見たんだよ。追いかけようとしたけど、お前走ってたから後でいいかなってポツポツ歩いてたら、鼻を衝く腋臭の匂いとすげぇクセェ汗の臭いがしてさ」
「あちゃ~そりゃ詰みですわぁ~」
核心を突かれた優気は抵抗も言い訳も全く思い浮かばないお手上げ状態だった。怜真にバレるのは時間の問題だと思ってはいたが、こんなに早くバレるとは想像もしておらず、焦りを感じるよりかは呆気に取られたようだった。
自分の机に忘れたシャーペンを返してもらい、両手で端と端を持ち、何故こんな時に忘れたんだと自分を責め立てる。
「まぁ、今の全部噓だけどな」
「…へ??」
再び怜真がため息を吐くと思いもよらない言葉を聞こえた。一瞬どういうことか理解ができなかったが、数秒空白の時間が割き入り理解の歯車が動き始める。
__________嵌められた
「今のは全部俺の妄想創作だよ。空き教室から出てきたとか汗臭かったとか。お前の口から昨日何があったのかを聞き出すための噓だよ」
「…」
終わった。何も言葉が出ない。おもわず口がポカーンと開く。
「リアクションから察するに妄想もどうやら当たってたみたいだな。ありがとな」
「…かぁ」
「これぞ『返答なしのしょぼくれカラス』だな」
「…かぁ」
「あっ、今度学校行ったとき俺を昨日の人達と会わせてくれよ。お前だけ色々知ってるのはズルいし、俺も気になるからさ。おっ、先生きたな。じゃあよんしく」
「…かぁ」
見事に怜真の罠にはまり、すべてバレてしまった。返答する気も何も起こらず、単純な機械のように一つの音声を発することしかできない状態となっていた。
塾講師が教室に入り集団授業が始まった。塾講師は坂藤という者で、酒を飲みながら授業するといった有り得ない授業スタイルだった。一般的な塾ならば一発退場ものだが、何より説明がわかりやすく、有名大学への進学実績も豊富なため保護者の評価も高くクビになることはなかった。
実際優気も去年の秋ごろに塾に入ってから一度も指導に不満を思ったことはない。難しいことをわかりやすく言語化し伝える、このような難しいことを淡々とこなす姿はまさに天職という言葉がピッタリと当てはまる存在だった。
そんなわかりやすい授業が始まったが、優気は自分のやった行いを悔いながら自身を責める。この酒飲み塾講師よりも俺の方がクビになるんだろうな。そんなことをボーっと考えながら、授業ノートの端に『すみませんでした』と丁寧な字で書き込んだ。
ポイントがあると多くの人に読んでもらえるとのことらしいので、面白いと思った方や少しでも続きが気になる方は是非評価をよろしくお願いいたします!m(__)m