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聖女としてせっせとシリーズ

★本編★【コミカライズ】聖女として国を守るためにせっせと加護を施していたら"婚約者の王子が結婚式を挙げている"との知らせが入ったのですが

作者: 水瀬月/月



 それは天気の良いある日の昼下がりに突然起こった。


「聖女さまぁーー!!」


「うん?」


 声の聞こえた方を見ると、一人の少女が息を切らしながらこちらに向かって走っていた。


「あれ、メイア?」


 神官見習いの女の子だ。メイアは私のところまで来るといつものように目をキッとさせながら怒り始めた。


 メイアがぷりぷりと怒る度に、肩まであるふわふわなピンク色の髪が揺れる。


 そんな姿も可愛いんだけれど、言うと怒られてしまうから。


「聖女さま!! 大変なんです、大変なことが起きてるんですぅ!!」


「な、なぁに、メイア。落ち着いて?」


「はぁ、はぁ……。そ、それが……王子が……って、聖女さま! またですか!? またそれ、食べたのですか!?」


「え、あ、いや、これは」


 まさかメイアがこんなところまで来るとは思わず、いつものように堪能していた美味食材(魔物のお肉)をサッと後ろへ隠した。


 ちなみにこんなところ、というのはこの国、シレーネ王国の最果てである国境沿いの荒れた地だ。


 ここは自然溢れる場所で——いや、溢れすぎた場所で魔物から瘴気からなんならお隣の敵国の兵士までいるような危険な場所だ。普通の人ならまず近寄ることはない。

 

 そんなところで私が何をしているかというと、聖女である私はこの国を守るための加護の魔法をせっせと施していた。


 こんなところで一人、国のために身を粉にして働いているのだ。


 加護の魔法は結界となり、この国を覆い様々なものから守っている。私のおかげで国が守られていると言っても過言ではない。


 という説明はここまでにして……。


「もう、聖女さま! あれほど食べてはいけないと言ったではありませんか! ぺっ、してください! ぺっ!」


「ははっ、ごめん、ごめん。ねぇ、それで何が大変なの?」


「はっ、そうでした! 大変なんです! 王子が今、結婚式を挙げてるんですよ! 王都にあるお城で!」


「はて?」


 王子って、王子よね? この国には王子とやらは一人しかいない。それはそれは甘やかされて育ってしまった無能の王子様。


「王子ってあの王子?」


「もちろんそうですよ! この国に王子はあいつ、こほん。あの人しかいないじゃないですか!」


「ということは、私の婚約者の王子?」


「そう、それです!」


 メイアは王子が相当嫌いなようだ。もう最後はそれとか言っちゃってるよ。


 それにしても……王子が王都で結婚式をしているですって?


 おかしいよね、だって婚約者である私はここに(最果て)にいるんですけど——。


 今あなたの隣にいるのはいったいどこのどなたです?


「聖女さま、早くお城にお戻りください!」


「えっと、そうね……」


 そう言われてよっこいしょ、と立ち上がる。私の着ていた服はあちこち汚れてしまっていた。


 腰まである薄い茶色の長い髪もぼさぼさだ。


 王子から聖女らしく髪を伸ばしておけと言われて切らずにいるけど……正直ちょっと邪魔。


「どうしてそんなに汚れているんです!? まさか、また魔物と……!? あ! さっき食べていたのはまさか——」


「だ、大丈夫よ。すぐに綺麗にするから」


 そうして私は汚れた服を綺麗にするための魔法の呪文を唱えた。本当は呪文なんていらないんだけれど、雰囲気でつい。


「きれいに〜な〜れ〜〜」


 すると、私の服は一瞬で綺麗になった。そんな私を見て「呪文は適当なのに、魔法が完璧なのはなぜ……」とメイアは眉間に皺を寄せている。


「さぁ、聖女さま。お急ぎくださいっ」


「あ、ちょっと待ってて」


「もうっ、お次はなんです!?」


 とにかく急いで帰りたいメイアをよそに、私はのんびりとしていた。食べることのできなかった美味食材をお隣の国の兵士にお裾分けするために国境沿いまで移動した。


「おや、お嬢さん。今日ももらっちゃっていいのかい?」


「どうぞどうぞ。いつもご苦労さまです」


「ははっ! お隣さんに言われるとおじさん困っちゃうよ」


「それにしてもお嬢さんはいつもこんなところでいったい何をしているんだい? 魔物を倒す腕は確かだから……そうか、グルメハンターだな!?」


「ふふっ、そうなんです〜」


「違いますからっ! こんなところで何してんですか! 行きますよっ!」


「ちょ、いったたたっ、痛いっ!」


 メイアにぐいぐい引っ張られてその場から引き離される。さすがにお隣の国の兵士と仲良くするのはダメだったようだ。


 加護があるから心配はないのに。


 ぷりぷり怒っているメイアがこれ以上キレると怖いのでそろそろ王都へ戻った方がよさそうだ。


 そうして私は急いで王都へと戻った。


 ちょちょいと移動魔法を使ったので一瞬で王都へと戻って来ることができた。


 あ、ちなみに移動魔法のことは秘密なんですよ。バレるといろいろとめんどくさいことになるので。


 そして王都に入ってすぐに気が付いた。


 王都全体がそれはそれはお祝いムード全開なことに。ここまで盛大に盛り上がるのは国の祝い事があるときのはず。

 道行く人々の会話があちこちから聞こえてきた。


「ついにあの王子も結婚か!」


「相手は聖女様だっけ?」


「いやいや、それが違うらしいぞ!」


「え、王族って聖女様と結婚しないといけないんじゃなかったの? なんだっけ、聖女様の力を強くするためにとかなんとか」


「それは嘘だったそうだぞ。なんでも聖女が王子と結婚したくて、私と結婚しないと力が弱まると言って王子を騙したんだってさ」


「あらまぁ、とんでもない聖女がいたものね」


「いやいや、もうそいつは聖女でもなんてなくて追放者になったんだと」


「偽聖女が本物の聖女様を害そうとしたんだってさ!」


「それで王子は新しい聖女と結婚を——」


 などと言うような会話があちこちから聞こえてきた。どういうことなの? 私が嘘をついた? 王子と結婚したくて!? そんなことあるわけないじゃない! 誰があんなのと!


 しかも王子の結婚相手が聖女だなんてどういうことなの? 聖女は国に一人しかいないはず。それは私で間違いはない。だって加護が使えるのは私だけだもの。


「あのクソ王子はどうやら本当に頭がおかしくなってしまったようです!」


 メイアは完全にキレている。


「聖女さまを偽物扱いした挙句、追放者にするなんて!」


 追放者とは犯罪を犯した者のことだ。その名の通り、国から追放処分となった者のことを言う。


 王子が誰と結婚しようがどうでもいいけど、私が悪者のようになっているのは非常に解せない。誰かを害そうとしたことなど一度もない。そもそもほとんどの時間を王都の外で過ごしていたというのに。それもこの国のために。


 私は込み上げてくる怒りをぐっと抑えながら、メイアを連れてお城の中へと魔法を使って移動した。


 突然会場に現れた私たちを見て周りの人は口をぽかんとあけて驚いている。そして我にかえると口々に私への罵倒をし始めた。


 私はそんな人たちをおかまいなしに、とある人物を探していた。とても目立っていたのですぐに御目当ての人物を見つけることができた。


 ——王子、発見。


 王子はこれでもかというような豪華な正装姿をしていた。その隣には女が一人。しかも見知った令嬢ではないですか。王子と同じように派手なドレスだ。いったいどれだけ多くのお金を使ったのか。


 王子と目が合った。驚きで目を見開いている。


「な、なんだ!? なぜお前がここにいる!?」


「知らせを受けてきました」


 私は今どんな表情をしているのだろう。


「お前を国から追い出すと伝えたはずだが!?」


「あ、そうなんです? 今初めて知りました。ところで王子様、これはいったいどのような状況なんでしょうか? 私には結婚式のように見えますが……」


 そう言って私は王子とその隣に立っている女へと視線を移した。女は私と目が合うとくすっ、と馬鹿にしたような笑みを見せた。


「あぁ、そうだ。結婚式の真っ最中だ! お前が台無しにしたのが分からないのか!?」


「あなたの婚約者は私のはずですが……。陛下がお決めになったのを忘れたのですか?」


「はっ、何が婚約者だこの偽物め! よくも今まで騙してくれたものだ。それにこの私がお前のような根暗なやつと本当に結婚するとでも思ったのか? そんなダサい格好でよくここへ来られたものだな」

 

 たしかに私が今着ている服はとてもシンプルなものだ。でもこれは神殿から与えられているもので、私が着たくて着ているものではない。


 メイアは自分で可愛くアレンジをしているけれど、私はそういったことには疎くて与えられた服をそのまま着ているだけなのに。


 それにこれ、一応聖女専用なんですが。


 もちろん、これをずっと着ていないといけない決まりはないけれど何しろ服を買うお金がないのだ。


 あれだけこき使われていたのに、聖女なら当然の奉仕だと言われ給金なんてものは出ていない。


「お金がないので仕方ないではありませんか。聖女である私はお金を稼ぐことを禁じられています」


 私のこの言葉に、どこからか「聖女ってたしか生活維持費が支給されるはずでは……?」「そのはずだ。まさか服すら買えていなかったのか?」と聞こえた。


 ——ナニソレ。


「そ、そんなものはこの女に支給などされていない! 民が納めた税を無駄にはできないからな!」


 派手な正装姿でそんなことを言われても何の説得力もない。またどこからか「でも確か、経費の中にそんな名目があったはずだが……」との声が。


 王子の隣にいる女が「え?」と、なんとも気まずそうな表情をしている。

 え、まさか、私に支給されるはずだったお金をあの女に横流ししていたの?


「と、とにかく! お前との婚約はすでに破棄されたのだ! 私はここにいるエリサ嬢と結婚することに決めたのだ。しかもエリサは本物の聖女である!」 


 ぐいっ、と腰を引かれたエリサ令嬢はぽっ、と頬を染めている。周りにいた人たちもなぜか歓声を上げて祝福をしている。


「エリサ令嬢が聖女だという証拠は?」


「は? なんだと、証拠だと?」


「そうです、証拠です。王子様、聖女というものがどういうものなのかちゃんと分かっているのですか? 私を追放するとこの国は終わりですよ?」


「ははっ! なんだそんなことか! そんな心配はいらない。エリサは本物だ! その証拠に先ほど誓いの口付けをした時に結界の力が強まったからな! 聖女の力は王子である私との愛で生まれるのだからな! だから愛することのできないお前は聖女ではない!」


 王子はどこか勝ち誇ったような表情をしている。自分の言っていることは間違いなどではないという自信。


「はっ」


 私はもう鼻で笑うしかなかった。その結界が強まったというのは私が最果てで加護の魔法を施した時のことだと思いますけど。


「本当に、いいのですね……?」


「あぁ、もちろんだ。偽の聖女ラリアよ! 今すぐこの国から出て行け!」


 王子がその言葉を言ったと同時に、頭上からパリン! という大きな音がした。その大きな音に会場にいた人たちはひどく驚いて悲鳴を上げていた。


 上を見ればガラスが割れたように降ってきているではないか。けれどそれに実態はなく、体に触れることなく地面に落ちるとパリン、パリン、と音を立てて消えた。


「な、なんだ!? 何が起きたんだ!?」


「今のはいったいなんですの!?」


 王子もエリサ令嬢も何が起きたのか分からないようでひどく混乱している。


 そしてすぐに神官が駆け寄ってきた。二人の誓いの証人としてここにいたのだろう。


「で、殿下、大変です!」


「なんだ、どうした!?」


「結界が……この国を覆っていた結界が跡形もなく消滅しました!」


「な、なんだと!? どういうことだ!? さきほどまで強力な結界ができていただろう!!」


「そ、それは分かりません。殿下、早く新たな結界を施さねばなりません! エリサ嬢、早く結界を!」


「あぁ、そうだ。我々には本物の聖女であるエリサがいるのだから狼狽えることはない!」


 王子の言葉に会場にいた人たちは安堵の声を上げる。けれど、それはすぐに悲鳴へと変わることになった。


「わ、私……そんなことできないわ……」


 エリサ令嬢は一歩、後ずさる。


「エ、エリサ? こんな時に冗談はよくない。早く結界を施さねば隣国に攻めいられてしまう!」


「で、できるわけないじゃない! だって私、聖女なんかじゃないもの!」


「なっ、なんだと!? 私に嘘をついたのか!?」


「嘘!? 嘘ですって!? あなたが私のことを聖女だと言ったんじゃないですか! "私が愛した力が聖女の力となる"とかなんとか言って!」


「そ、それは……!!」


「それなら殿下の力が聖女の力の源と言うことですよね!? ならまずは殿下がその力を見せてください!!」


「はっ、馬鹿なことを言うな。私にそんな力があるわけないだろう!?」


「なら本物の聖女は誰だって言うのよ!!」


 あぁ、もう見ていられない。王子とエリサ令嬢はお互いに相手のせいにしようとしているし、会場にいる人たちはこの場から逃げた方がいいのではと思い始めているようだ。

 

 私もいつまでもこんなところにはいたくはない。いや、いない方がいいだろう。あの二人のことだから今度は私のせいにするに違いない。


 さっさと移動魔法を使ってこの場を離れよう、そう思いメイアを一緒に連れて行こうと振り向いた瞬間。


「おい、ラリア!! これはお前の仕業だろう!? 今すぐ結界を直せ!!」


 ほらやっぱり。


「はぁ、なぜ私のせいになるのです? 私は聖女ではないのでしょう? でしたら私が結界をどうこうできる訳ないじゃないですか」


「お前は聖女だろう!! 早く何とかしろ!!」


「あなたが言ったのですよ? 私は聖女ではないと」


「そ、それは」


 その時、後ろから小さく笑いながら近付いてきた男の人がいた。


「え……?」


「くっ、あはは、もうダメ、おかしいったら」


 その男の人はどこかで見たことある顔だな、と思ったけれどよく見れば本当に見知った顔だった。服装と髪型がいつもと違っていてすぐに気が付かなかった。


「え、あなたがなぜここに!?」


「やぁ、久しぶり。元気だった?」


 男の人はにっこり笑うと私の横へ来て、上着を肩へと掛けてくれた。

 なぜ上着を……? 別に寒い訳でもないんだけど。


「え、はぁ。見ての通りです」


「ぷはっ、そうだね、見てのその通りだね」


「あの、それでなぜあなたがここに? あなたはお隣の国の兵士の息子さんの友人のそのまた友人の方ですよね?」


「あれ、そんな設定だったかな?」


 この人の名前はアーノルド。


 首を傾げると、銀色の前髪がさらりと流れた。


 青色の瞳を私に向けたままアーノルドは私の言葉にポカンとした。


「ごめん、忘れちゃったよ。自己紹介した時にそう言ったのかな? まぁいいか」


「え、いや、よくないですよ! それでなぜここにいるのですか?」


「うーん、それは。この時を狙って迎えにきたというか」


 私とアーノルドが二人で会話をしていると王子がいきなり割り込んできた。


「お、おい!! ミオソティス王国の王太子がなんでここにいるんだ!? 隣の国を招待した覚えはないぞ!!」


 え、ちょ、今なんて!?


「あ、あなた、まさか」


「はは、ばれちゃった。改めまして、私はお隣の国、ミオソティスの王太子アーノルドです。よろしくね?」


「いや、よろしくって……。えぇ……」


 アーノルドはこの国の最果てにある土地でたまに顔を合わすことがあった人だ。


 一緒にお肉を食べたり、食べたり、飲んだり……?


 もちろん、お隣の国の人だとは知っていたけれどまさか王太子だなんて。だってあんなところに王太子がいるなんて思わないじゃない!?

 

 はっ、まさか!


「ま、まさか、敵陣調査を——」


「ははっ」

 

 笑って誤魔化された。


「お、おい! 私を無視するな!」


「あぁ、リド。忘れていたよ」


 そういえばこの国の王子の名前はリドだったか。興味がなさすぎて忘れていた。


「さて、ラリア。めでたく君の婚約も解消されたことだし、ぜひ私の婚約者として国に招待したいのですが受けていただけますか?」


「はぇ?」


 私は突然のことに変な声を出してしまった。私の聞き間違いでなければ婚約者として、と言われた気がするのだけれど……。


「えぇ、そうです。私はずっとあなたの——」


「ちょっと待て、勝手に話を進めるな! それはこの国の聖女だぞ! なのに敵国であるお前がもらうなど……!!」


「それ、とかもらう、とか……いったい何を言っているんだ? この人はお前のものでもなければこの国のために無償奉仕をしなければいけないような人でもない」


「アーノルド……あ、いえ王太子殿下」


「今までみたいにアーノルドでいいよ」


「いえ、そういうわけには——」


「いやいや、ラリアには名前で呼んでもらいたいんだ」


「お前ら……!! だから人の話を聞けと!!」


 何度も無視をされたリド王子は、手を震わせながら今にも手を上げそうなほど怒っている。けれど、そんな王子を見てもアーノルドの表情は変わらない。


「あーもう、リドは相変わらずうるさいな。ねぇ、ラリア。先ほどのことだけれどどうかな? ぜひ私の国に来て欲しいんだけれど……。君さえよければ今すぐにでもここから離れることができるよ」


 私は少しだけ考えてみたけれどすぐに答えは出た。この国に未練なんてないし、王子のことなど好きになったことは一度もなければむしろ嫌悪感さえあったから。


 最果ての地でお隣の国の兵士たちと混じって一緒に過ごした時間は私にとって大切な思い出。


 一緒に魔物を退治したり、お肉を焼いたり、川で魚を手掴みしたこともあったなぁ。ダメだと分かってたけど夜通し兵士のみなさんとお酒を飲み明かしたり。だって楽しいんだもの。


 え、あれ……良い思い出だよね?


 アーノルドと一緒ならきっと毎日が楽しいはずだ。なんといっても私の美味食材を堪能する趣味を分かってくれる数少ない人だから。


「私でいいの?」


「もちろん、ラリアがいい。聖女だからではなく、一人の女性として私の国へ来て欲しいんだ」


「あの、メイアも連れて行ってもいいですか?」


 メイアに一緒に来るかと聞けば、二つ返事で承諾してくれた。メイアもこんな国に未練はないそうだ。


 そうしてこの会場から出ようとしたところで王室の騎士たちに取り囲まれてしまった。


「何度もこの私を無視するとは! この国の聖女を拉致するなど許さない!」


 王子はアホなだけではなく諦めも悪いようだ。エリサ令嬢が聖女ではないと分かった今、どうやらまた私に聖女の役目を何としてでも押し付けたいらしい。


「ラリアはもうこの国の聖女ではないよ。君たちもさっき見ただろう? 結界が粉々に砕け散った様を」


「あれが何だというのだ! もう一度結界を施せばいいだけだろう!」


 アーノルドは「君は本当に何も知らないんだね」と王子を馬鹿にしたように言った。


 確かに、この国の王族は聖女というものがどういうもなのか分かってはいなかった。でなければあのように結界が砕け散ることなどなかっただろう。せめてまともに扱ってくれていたのなら。


「な、なんだと!?」


「ラリア、君なら分かるよね?」


「はい」


「この国の人間は聖女をなんだと思っているんだ? 王子の愛で聖女の力が強まる? 馬鹿なことを。あぁ、違うか。王子の愛した者が聖女になるんだったか?」

 

「ば、ばかにするな!」


「聖女の"人を、国を守りたいという気持ち"、それが力の源になっているんだ。それなのに王子の愛だのなんだの」


「そ、それならあれは……」


「そうだ。ラリアはもうこの国を見限った。だから結界そのものが砕け散ったんだよ。この国にはもう聖女の加護はない」


「ということは……国境は……」


「あぁ、もう隔てる壁はないからね。今頃多くの兵士がここへ向かっているんじゃないかな? 魔物もあちこちで暴れているかもね」


「そ、そんなっ! おい、ラリア! お前はなんてことをしてくれたんだ!」


「え、私のせいではないと思いますが」


「そんな薄情なやつだったのか!? お前のことを慕っていた平民もいるのだぞ!?」


 あぁ、そうね。いたかもしれない。でもね、あれは慕っていたとかじゃない。私が国のために、民のために無償で奉仕することを当たり前だとそれを強要してき人たちだ。


 怪我をすれば早く治せと言われ、魔物が出れば危険を顧みずに私が倒さなければいけなかった。それがどんな場所でも行かなければいけなかった。魔力の使いすぎで疲れたと、少しだけ休みたいと言っても聖女なんだから、民の税金で生活しているのだからと働き続けないといけなかった。


 そんな国に未練などあるわけがない。


「そ、そんな、ラリア、お願いだ! 見捨てないでくれ!」


「今更そんなこと言われましても。"本物の"聖女さまとお幸せにどうぞ。……ってあれ?」


 私たちの会話を聞いていた周りの貴族たちはいよいよまずいと会場から我先にと逃げ出して行った。いつの間にいなくなったのか、王子の隣にいたはずのエリサ令嬢はすでに逃げ出したようだ。


「お前たちはラリアの情けによって保たれていた平穏でさえ気が付かなかったようだな。もういいだろう、お前たち王族はその首でも洗って待っているがいいさ」


「ひっ」


 王子は小さく悲鳴をあげて後ずさる。今から逃げても遅いとは思うけど。


「あ、あの、王太子殿下。悪い人ばかりじゃないです。平民にも貴族にも良い人もいるんです、なので」


「大丈夫、私の兵士たちは無抵抗の者たちを傷付けることは絶対にないよ。それに将来は私の民となる者たちだからね、だから安心して。あくまでこの国の腐った者を排除するだけだから」


「それならよかったです」


 アーノルドは「魔物のことも心配しなくて大丈夫だよ」とこそっと話してくれた。何か対策をしてくれたのかな?


「さて、今度こそ本当に行こうか。それにまだ君にちゃんとプロポーズもできていなかったからね。私がいつから君のことを好きだったのか話したいしね。今度は邪魔されない場所でしないとな……」


「あの、王太子殿下、それなんですけど……私——」


「ま、待った、まだ言わないで。ごめん、私も焦りすぎたようだ。少しずつラリアと心を近付けていきたいんだ。だから今はまだ私を拒否しないで欲しい」


「拒否だなんて! 私は王太子……アーノルドと一緒にいるのは、——好き、ですよ」


「そ、そう?」


「はい、だって私と一緒に魔物のお肉を食べてくれる人なんてアーノルドといつもの兵士のおじさんたちぐらいだもの」


「あ、うん、そうだね……」


 心なしかアーノルドは落ち込んだようにも見える。メイアに「聖女さまはまったくこれだから」と何やらぶつぶつと言っている。


 アーノルドの「少し目をつぶっていて」という声とともに小さな光に包まれ、気が付いたらそこはもう隣国、ヴィルヘイア王国だった。


「えっ、えっ、えっ!?」


「ははっ、驚いた? 私の妹も聖女でね、移動魔法具を作ってもらったんだよ。だから簡単にあの場に入り込むことができたし、ここまで戻ってくることができたんだよ。ラリアも……できるでしょ?」


「え、えぇ、はい」


 いつ見られてたの!? と思ったけど、あんなに堂々と会場のど真ん中に現れたんだから知ってるも何もないわね。


「妹が魔物を排除してくれてるから安心してね。良いお肉が手に入るって喜んでいたから」


 あ、大丈夫って言っていたのはそういうことだったのね。それにしても妹さんとはなんだか気が合いそう。


「こちらの国では魔物のお肉を食べるのは普通のことなのですか?」


「今となってはね。昔は違ったけれど、どこかの国の聖女が兵士たちに振る舞ったおかげで今となっては国中に広まっているよ」


 あはは、それはもしかしなくても私のことなのでは。


「もう、聖女さま! やっぱり隠れて食べてたんですね!?」


「ご、ごめんメイア」


「聖女さま……お願いですからこれからは私に隠し事はしないでくださいね」


「うん、約束するよ」


「さて、それじゃぁお城へとご案内しましょう。父と母が首をながーくして待っているからね」


 アーノルドは変わらずにこにことしていた。


「え、? それって……この国の陛下!?」


「王太子の父親だからね。さっそく私の婚約者を紹介しないと。——逃げられる前に」


「そ、それはゆっくりって!」


「婚約するのと、仲を深めるのは……まぁ、別の話だよね。それとラリアの肩に掛かっている上着だけど、王族にだけ許されたものなんだよ? だからラリアはもう王族の一員と言っても間違いじゃないよね。さぁ、行きますよ」

 

「そんな無理やりな理由で!?」


「聖女さま、諦めてください」


「ま、待って、待って、心の準備が! それに服装も、髪の毛もボサボサで——」


「大丈夫、大丈夫〜」


 そうして私はそのまま移動魔法具によっていきなりこの国の国王陛下、王妃陛下の両陛下の前に姿を表すことになった。


 その時にはすでに服装も髪型も変わっていたことに驚いて両陛下の前で早々に醜態を晒してしまった。


 まさかこのことを美味食材と一緒に一生語り継がれることになるなど、その時の私は思っていなかった。




——完?——




お読みくださりありがとうございました!

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