閑話休題 魔道士対妖術使い
今回は、戦国時代に松永久秀や羽柴秀吉を妖術で、おそれさせた妖術使い果心居士の話し。
戦国時代の奈良にある興福寺には、果心居士なる妖術使いが住みついていた。
年齢不詳かつ出身地不明確で、唐天竺の出身ではないかと伝わるがその正体は謎だらけの怪人……人は畏怖をこめて果心居士と呼ぶが、魔道師玲奈からは、おちょくるようにかりんとうと呼ばれている。
「……儂はかりんとうに非ず」
ぶつくさボヤく果心居士に対して苛立ちの声が飛んで来た。
「どうした……早く術を披露してみせろ」
「タネも仕掛けも無いこの笹に、我が魔力を持って魚に変えてみせよう」
猿沢の池のほとりでは、見物人がひしめいていた。
手にした笹を掲げて池に投げながら呪文を呟く。
たちまち笹が魚に変じて泳ぎ回る。
「見よこれが魔力だ」
どよめく大衆を見て、これみよがしに胸を張る果心居士の前に、1人の魔道巫女がニヤリとしながら進み出る。
「これはただの目くらましよ」
サッと手を翳して紅い光を水面に注ぐと、魚は笹に変わり果てた。
「初歩的な弱い幻惑ですわね、妖術崩れのかりんとうよ」
「その名前で儂を呼ぶな」
ムカッとした居士が言うと「なんだインチキかよ」「まがい物か?」と罵声が飛んで来た。
「やかましいわい」
果心居士は怒鳴ると、手に持つ楊枝でインチキ呼ばわりした男の前歯を撫でると、たちまち歯が抜け落ちかけた。
悲鳴どころか顎を押さえて涙目の男の様子に見物人は怯えて引いた。
「はいそこまで……真の魔力をご覧に入れましょう」
魔道巫女が言うと居士が動かなくなり、男の前歯が元に戻る。
「もっと遊んでいたいんだけどね、巫女頭様に呼ばれてるからさよなら」
そう言うと、飛翔して消え失せる。
「かっ……金縛りを解いてくれぇ~」
居士の叫びが虚しく虚空にこだました。
「あちゃあ、解けないんですか?妖術使いなのに」
「いやぁみっともない姿だよ」
見物人が一斉に立ち去リ、夜に満月が猿沢の池に映るまで居士の金縛りは解けなかったという。
大和の多聞山城の主になった松永久秀の前に果心居士が現れた。
松永久秀「オレは今まで恐怖を味わった体験が無いから、お前の妖術で怖がらせることが出来るかな?」
暑い夏の夕暮れ時に現れた果心居士は、胸を張って請け合う。
「お任せください、尾張の魔道巫女なんかよりも儂が上ですから」
言い終わると同時に、一天俄に曇り闇が訪れて湿り気登るあるヌルい風が吹き込み出す。
ピカッと雷鳴が轟くと、居士の姿が女に変わりそれを見た松永久秀が青ざめた顔になった。
「ひえ〜もうやめろ」
豪雨の最中に現れたのは松永久秀の亡き妻だった。
松永秀は恐れおののき腰を抜かした。
不気味な笑みを浮かべる果心居士は一瞬で、姿を消した。
夏の夕立ちは一瞬にしておさまり、松永久秀ひとりが腰を抜かしたまま放置されていた。
終わり