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吸精魔の歩き巫女 玲奈の天下創世記  作者: 羽柴藤吉郎
第2章 尾張のうつけとの邂逅
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花嫁になりすます吸精魔 玲奈

熱田神宮の玲奈のもとに、ぶらり立ち寄る信長のムチャな要望を叶えてやる玲奈……そんな一途な吸精魔の玲奈の大胆不敵な行為に、歴史が揺れる。

 天文16(1547)尾張の熱田神宮。


玲奈が自分の宿舎の一室に織田信長(14歳)を招き入れる。


「初陣を果たして戻られたこと祝着至極にございます」


玲奈の賛辞を信長は軽く受け流す。

「ふん まぁ初陣の相手にはいささか力不足な敵よ……強風の日に三河の大浜に奇襲上陸し、不意討ちされて慌てふためき敵は逃げ失せたのよ」


「三河は松平広忠が家臣に闇討ちされて、混乱している最中に今川義元の兵に制圧されているようですねぇ」


素知らぬ顔で信長はごロンと横になった。


「情報通だな、おぬし」


「それが我々歩き巫女の仕事のひとつです……西国にいた頃は、尼子経久様に仕えて、長門の大内義興とか備前の浦上や石見・伯耆あたりの敵対勢力の内部攪乱工作をやっておりました、しかし経久様亡き後、我々がお仕えするに値する英傑は西国には見当たらなくなり、新天地の東国にやって来た次第です、これよりは経済情勢に敏い織田様の為にお力添え致したく熱田神宮に身を寄せております」

玲奈は本心から信長に語りかける。


信長がガバッと跳ね起きた。


「なるほど、これからは俺に力を貸すということだな」

玲奈の目を直視したままの信長は、相手の心理操作の術中に見事にはまるが、それすら信長は気づかない。


「そなたも初陣を果たし、14歳で大人の仲間入りを果たしたということよ」

そこで玲奈は妖艶な笑みを信長に向けると、膳に用意した御神酒を大盃に満たして信長に渡した。


「戦の後で味わう女の体の味も知っておいて良い歳になられましたなぁ」

玲奈が信長にすがりつく。

初めての事態に体が硬直する信長は、甘い薫りを放つ玲奈の黒髪に顔を埋めて深く息を吸い込む。


「我と情を交わすと、人の女体では満足出来なくなりますが、良いかな?」

信長が昂ぶった顔で頷くと、玲奈が信長の口に吸い付いた。


のちに2人のあいだに誕生するのが、嫡男の織田信正である。




天文17年(1548)2月初旬の美濃 稲葉山城(岐阜)。


斉藤道三が、娘の帰蝶を自分の部屋に呼び出した。


人払い済みの部屋で、神妙な面持ちの父親を見て、何かあると察した帰蝶は平静を装い声をかける。

「私に用件とは何でしょうか?」


理由を尋ねる娘に対し、道三は落ちついた顔で軽く告げる。

「うむ、実はお前に縁談が来たのだ」


いきなりの父親の言葉に、困惑する娘が固唾を飲んでおし黙る。


しばしの沈黙のあと娘が問いかける。

「私の縁談のお相手とは?」


「尾張の大うつけの信長よ……真性のうつけならば隙あらば刺し殺せ、その後は内紛状態の尾張に兵を出して、ワシが尾張を頂戴する」


と言うなり懐剣を懐から出して娘の前に置いた。


一瞬驚きの色を見せた帰蝶が、鼻で笑って答える。


「別に構いませんが、長く夫婦でいると夫がうつけでも情も湧いてしまいますから、その時はこの刃は父上に向けられ、婿と二人手を携えて美濃を逆に頂くことになりそうですわ」


帰蝶の返事に道三は爆笑した。

「よう言うた、それでこそ我が娘よ……その時まで待たせてもらうか」

娘は黙って頷いた。



2月吉日の婚礼当日 尾張の熱田神宮。


「今日は婚礼の日なのでは?若様」

玲奈が信長に抱かれながら尋ねる。

「そうだったかな?」

惚ける信長に呆れて玲奈が体を起こして、信長の両頬を両手で挟み込む。

「朝から傅役の平手政秀どのが、慌ただしくあちこち駆け回って若様を探しておられましたよ」


「フフン、そうと知りつつも、若様は今日は来ておりませんとぬけぬけと言うソナタは誠に油断ならん女だなぁ」

「まあ酷い、蝮の毒を祓ってくれと、私を押し倒しに来たくせによく言いますね」


頬を膨らませて玲奈が文句を言う。


そこへ信長が悪戯を思いついた顔で玲奈に言った。


「そうじゃ……他人になりすましが出来るならば今日やってくる蝮の娘になりすましてくれぬか?見知らぬ蝮の娘よりも、そなたのほうが俺と相性が合っている、もう離れたくない」


 信長の突拍子もない無茶な要求に対して玲奈は心弾ませて、頬を紅潮させて答える。


「それはお任せくださいませ、出来ますよ……でも後でバレたらどうします?」

玲奈が相方の悪戯の片棒を担ぐ覚悟を固めてほくそ笑みながら言う。


それに対して信長は苦笑して玲奈に言った。

「人の心を操る術を使えるのに、よく言うわ」

玲奈の乳首を指先で弄くり信長が不敵に笑っていた。



 玲奈は信長の要求に従い、道中で花嫁行列が休憩中に潜り込み隙を見て花嫁になりすまし、那古野城に入った。


こうして本物の帰蝶は、以後ぷっつり消息不明になり、歴史の闇の中へ永遠に消えていった。










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