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吸精魔の歩き巫女 玲奈の天下創世記  作者: 羽柴藤吉郎
第2章 尾張のうつけとの邂逅
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信長と三河の孤児

熱田神宮の巫女として奉仕する玲奈は、共に従軍していた大宮司を救い信頼を得る。

 天文15年(1546) 織田吉法師は13歳で元服し、織田三郎信長と名前を改めた。


 そこで元服の儀式を祝う為に父親の信秀は、熱田神宮の巫女を招いて祝賀の舞いを所望したので、玲奈達が那古野城まで出向くことになった。



 身を清める為に玲奈が、風呂場に置かせた盥に入りお湯をかぶっていると妙な視線を後ろから感じたので、見ると外壁に開いた穴から覗く目とかち合った。


「早熟のうつけ者め……女の裸などお前にはまだ早いわ」玲奈が叫ぶと同時にダッシュで走り去る足音が聞こえてきた。


「申し訳ありません……取り逃がしました」

追跡した巫女が謝るのを制止して、玲奈がニヤリとして「かまわない」と言った。


「目に焼き付いて離れない術をかけておいたから」


えっ!と驚く巫女を無視して玲奈が舌なめずりして「うつけのお初は私がいただきます」

きっぱり玲奈が宣言した。


近畿地方では動きがある。


 天文16年(1547)


播磨の姫路城にて、黒田官兵衛孝高が誕生する。


そんな官兵衛を幽閉する荒木村重はまだ10才。


 畿内では幕府管領の細川晴元に近江の日吉大社に、追放されている将軍義晴の息子で義輝が、11才で13代将軍に就任した。


その御側衆の1人として、13才の細川藤孝が仕えることになった。


 これから数年後には松永久秀も三好長慶のツテで幕臣として仕える。

ここに将軍殺しの松永久秀と、将軍の弟と出会う運命を辿る細川藤孝の運命がクロスした。


被害者と加害者と逃亡者と役者が揃ったと言えよう。


______


 尾張では、織田信秀が美濃に攻め込み、斎藤道三の稲葉山(岐阜)を攻めて、道三軍に翻弄されて損害を出して敗北し、和平交渉で体面を保つ努力を始めた。


ちなみに信秀軍に従軍していた熱田神宮の大宮司 千秋季光は危うく討たれるところを、供奉していた玲奈の魔道により命からがら助けられた。


 この合戦で敗北を喫した織田家は、その後平手政秀の働きにより信秀の嫡男・信長と道三の娘・帰蝶(濃姫)を縁組させることで、和睦を結ぶことになる。


この戦いの後、織田方の戦没者を弔うための「織田塚」が築かれ、後に円徳寺に改葬したと伝わり、岐阜市の指定史跡となっている。


そんなある日の熱田神宮。


庭先を掃き掃除していた玲奈が、ふと軒先でしょんぼり空を見上げている幼児を見つけて、大宮司の千秋季光せんしゅうすえただに気になって聞いてみた。


「大宮司様にお聞きしますが、あの幼児はどこかの家中のお子様ですか?」


「あの子は、三河岡崎の松平広忠の嫡子の竹千代(のち徳川家康)で人質として駿府に送られる途中で、三河田原の戸田康光に欺かれて尾張に送られてきたのだが、お館様(信秀)は松平広忠に服従を迫っているが、広忠は今川義元を恐れて未だに音沙汰無しゆえお館様も困っておられると聞く」


苦り切った顔でそう言った宮司がため息をついた。


その時、馬の嘶きと共に少年の甲高い声が響く。

「おい竹千代よ……しけた顔をしてどうした?母様の乳が恋しくなったのか?」


竹千代の母親は離縁されているのを、知らない訪問者は気安く幼児に近寄る。


幼児が嬉しそうに「あっ!吉法師様……ではなく信長様」と言った。

そんな幼児を見ながら信長は頭を撫でてやる。


茶筅髷に、着流し姿で腰縄に袋をたくさん提げている信長が瓜を取り出して、食えと言わんばかりに竹千代に突きつけた。

「先ほどまでそこらの百姓どもを、相撲で投げ飛ばして貰ってきた瓜だ」


そして言葉を続けた。

「さて竹千代よ、俺はもうじき嫁を貰うことになる」

キョトンとした顔で理解できない竹千代が首を傾げるのを無視し信長が言った。

「美濃の蝮の油売りの道三の娘でな……負けた親父の体面を守る為だけに嫁いでくるのだ」


何か勘違いした竹千代が嬉しそうに「嫁とは美味いのか?信長様」と聞く。


その答えに信長は爆笑して言った。

「竹千代よ……お前は、俺を笑い死にさせるつもりか?」

信長は息を整えてからまた話し出す。


「さよう上手く手懐ければ美味しい思いは出来るが、しくじると手酷い目に合わされると平手の爺が言っておったわ」


そんなやり取りをニヤニヤ見ていた玲奈は、お茶を出し忘れたことすら忘れて笑っていた。


信長が玲奈に声をかけてきた。

「そなたの初陣祝いの半裸舞いのおかげで初陣は成功した……礼を言う」

「こちらこそ、これが巫女の勤めでございますので、おめでとうございます」


「よし竹千代よ……俺は巫女と大事な話があるゆえ、奥で菓子でも食って参れ」

空気を察した他の巫女が、竹千代の手を引いて去っていくのを見送る二人だった。


続く。


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