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吸精魔の歩き巫女 玲奈の天下創世記  作者: 羽柴藤吉郎
第4章 織田と浅井の美濃攻略作戦
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忠臣 竹中半兵衛ぶちギレ

 永禄7年(1564)2月6日

その日も斎藤龍興は若さに任せた酒宴のあとで、稲葉山城の山頂に位置する千畳台のもう一つ奥にある中の曲輪(くるわ)で、床にて愛妾の竜子の乳を舌で弄り、淫靡な行為に耽っていた。


「酒だけは人を裏切らん、呑めば必ず酔わしてくれる聖なる物だ」

程よく酔っぱらう龍興に、竜子が妖艶な笑みを浮かべて股を広げてねだる。


「ならば子種も裏切らずにここで育ちますわ」

と言って、イヤらしい仕草で下腹部を撫で回す。


「クッ!……さすが竜子、名言を捻り、俺に子種をひねり出し、孕ませよと言うのか」


龍興がよほど気に入ったのか、下品に笑いっぱなしでズカズカと竜子に重なり合うと挿入した。


竜子が身を捩り、龍興の背中にしがみつく。



龍興と竜子がまぐわいを始めて間もなく、閉め切られた山裾の追手門にやってきて、大声で門番を叩き起した者がいる。


「頼もう開門なされ、我らは竹中半兵衛がもとから舎弟久作様への見舞いに秘薬と医者を連れてきた者ゆえ、即刻門を開けられたし」


悲痛な叫びに、門番が潜戸を開けた時に潜んでいた人数が現れ、門番に当て身を食らわして気絶させた。


「許せよ、これも我が斎藤家の為にやるのだからな」


やがて門が開けられ、17人が、稲葉山城に入っていく。


幽閉された安藤の娘婿の半兵衛は、わざと舎弟久作を人質に稲葉山城に出して変心無きを誓い、龍興と斉藤飛騨守を油断させて気が緩むタイミングを突いて、久作には仮病を演じさせて、城の乗っ取りを実行に移すのだった。


「ええい、何事か?」

時ならぬ騒ぎに龍興が酔眼をこすって跳ね起きた時にはもう、稲葉山城の城内は大混乱であった。


やがて人影がひっそりと浮かび上がり龍興の前に立ちふさがると、さすがの龍興も、相手が竹中半兵衛と分かっただけで(これは俺の最後が来たわ)

と直感した。


「竹中半兵衛重治、主君に諫言致したきことあってただいま登城仕った」

そんなことを言ったようだが、恐怖に震える龍興には、それはよく耳に入らなった。


「ぎゃあ〜」官能の甘い余韻が消し飛ぶ愛妾の叫びに、ふと我にかえった龍興は反射的に竜子の手を握りしめ、枕元の刀を忘れてパッと廊下に飛び出してバタッと大きく躓いたのだが、それが無惨に心臓一突きで死んでいる斉藤飛騨守の死体だとわかり、龍興は完全に理性を無くして愛妾の手を握りしめたまま、何か喚き散らしながら走り出した。


慌てて出てきた側近に護られながら、龍興は命からがら稲葉山城を出て、揖斐郡の小城に逃げ込む。


歩き巫女の通報で、稲葉山城の変時を知った織田信長は軍を総動員して、木曽川まで出陣して、すぐさま竹中半兵衛と交渉するべく手配りを始めた。


「猿よ、すぐに稲葉山城に参って竹中半兵衛と掛け合え、素直に稲葉山城を渡せば西美濃をそっくり半兵衛に遣わすと言えば良かろう」


「おまかせください」

 信長の命令で稲葉山城にやって来た藤吉郎は、竹中半兵衛と面会にのぞむ。



「お初にお目にかかる、それがし織田家に仕える木下と申す者、この度、我が主 織田尾張守の使いで参りました」


「それがしは竹中半兵衛と申す。貴殿が木下殿か、今日は何用で参られたかな?」


「我が主は竹中半兵衛どのが、龍興を見限り稲葉山を明け渡すならば、美濃半国をやっても良いと申しております、なにとぞお考えくだされ」


「木下殿……」


「なんでしょう」


「何やら勘違いされておられるようですな、宮仕えは互いに気苦労が多いですな、それがしは主君を見限り、城から追い出したのではござらん、よろしいかな、このまま惚けておっては、この城などすぐに落とされる、しっかり現実を見据えて外敵にあたって貰いたいと諫めただけのこと、織田様にも、よしなにお伝えあれ……次は戦場にてお相手いたすとのう」


「……」

さすがの藤吉郎も返す言葉が無くなった。






勇んで出向いた藤吉郎は手厳しく半兵衛に撥ね付けられて、しょげて帰って来て、信長に報告した。


「半兵衛め、我がしたことは謀叛に非ず、強諫したのだと小賢しく申しおったか」



「はい、尾張の織田に従う義理は無いゆえ、直ぐに兵をまとめて尾張に帰れと殿様に伝えて参れと……いやはやとりつく島も無い有様でございます」



藤吉郎の予想に反して信長はさほど怒り出さなかった。


「あの……どう致しますか?」


「フン決まっておろう我らは尾張に引き揚げと致す」


怒りに任せて力ずくで稲葉山城攻めかと思っていた藤吉郎はあっさりしている信長から小牧山城に帰ってから真意を説明されて膝を叩いた。

「わからぬなら教えてやろう、あ奴はやがて城を龍興に返すであろう、さてここからが本題よ」


信長がニヤリと傍らの玲奈にいたずらっぽい笑みを見せて続ける。


「世の中には諌められて眼の覚める人間と、眼の覚めぬ人間があるものだが、どうだ猿……龍興はそのいずれであろうのう」


「なるほど、これは眼が覚める器では無いですな」


「そうなると眼の覚めぬ龍興は、以前の腹立ちを思い出し、半兵衛に報復する、忠臣を切り捨てる龍興は、更に重臣達に見限られ美濃は内側からガタガタと崩れゆくしか無い、そこを我々が頂戴する……下手に手出しなどして結束を固めさせては、面倒が増えるだけだからな」


「旦那様はそこまで先を読んで帰る選択をなされたんですね」

玲奈が、信長を称える。


「褒めても何もやらぬぞ」


 半年間稲葉山城を占領し続けた竹中半兵衛は、あっさり龍興に城を返してやったが、怒り狂う龍興が刺客を差し向けてきた。


旧領の美濃・岩手城付近に、庵を構えて読書三昧の隠遁生活を送る竹中半兵衛の前に、浅井長政に仕える歩き巫女の朝香に雪乃が現れて、龍興の刺客をミイラに変えてみせた。


「我らは浅井長政公にお仕えする歩き巫女で、竹中半兵衛様を保護して小谷城まで連れて参れと命令されてまいりました次第です」


「おとなしく引きこもる俺に、刺客を向けてくるとは龍興には失望した」

静かに怒る半兵衛は美濃を捨てる覚悟を固めた。


これでは美濃にすら居場所は無い、かといって尾張に行くのも信長に頭を下げることに他ならないので、癪に触る半兵衛は遂に近江への亡命を決意した。


こうして竹中半兵衛兄弟は、浅井長政の客将という待遇で近江に逃れた。


市からの手紙を読んだ信長の感想。


「また出し抜かれたか」と信長。

「面目ないことになり、申し訳ありません」玲奈がしぶしぶ謝る。


続く。


竹中半兵衛は斎藤を見限り、織田は癪に触るので、浅井の家臣になります。




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