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吸精魔の歩き巫女 玲奈の天下創世記  作者: 羽柴藤吉郎
第3章 今川との戦い
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清洲城 乗っ取り

村木砦で、大損害を出したという虚報を、真に受ける清洲城の坂井大善に対し、信長は叔父の信光を抱き込んで清洲城攻略の謀略を繰り出す。

 天文23年(1554)3月末。 尾張国 清洲城。 


 尾張国守護の斯波義統(しばよしむね)と、守護代の織田彦五郎信友は、清州城と支配下の尾張南4郡の統治を家老の坂井大膳に、取り仕切らせていた。



尾張の南4郡の内訳は、海東・海西・愛知・知多郡を清洲の織田氏。


丹羽・葉栗・春日井・中島郡の尾張の北4郡を岩倉城主の織田氏がそれぞれ二分していた。


織田信長が属する織田氏は、清洲織田氏の家老にすぎなかったのだが、祖父の信定が津島の港を押さえて東国や西国との商品流通センターを掌握して経済力を蓄え、父の信秀の頃には、清洲の守護代と肩を並べる勢いを見せて、尾張を掌握する。


しかし信秀が亡くなり、あまり評判が良く無い信長が、家督を継いだ途端に清洲の守護代が巻き返しを企むようになる。


清州城の本丸の居間に坂井大膳と、お飾りの守護代が密談を交わしていた。


坂井大膳が信長の近況を語る。


「うつけの信長めが無理をして村木砦を攻略して、兵力を消耗して戦すら出来ない有様で、やけくそになり踊りにうつつを抜かしていると風の噂に聞いております」


織田信友「攻めるならば今が絶好の機会と言うのだな、坂井」


坂井大膳「はい、今こそうつけを血祭りにあげて、商業盛んな津島や熱田を支配して我々が美味い汁をたらふく吸う番ですぞ、殿」



「そうと決まれば、早いうちに信長を殺ってしまうか」

ニタリとほくそ笑む信友に同調してニヤつく坂井大膳だった。



同じころの那古野城。


「旦那様の思惑通りにいきそうですわね」

玲奈が膝に頭を乗せて腕組みしている信長に話しかける。


「村木の戦いで、俺が大損害を被り、やけくそだという噂をまんまと真に受けたようだ、清州城の連中の頭は弱いようだな」


つまらなそうに言うと、信長は無造作に玲奈の乳をつつく。

「お戯れは夜になされませ」



そんなお惚気をしていると足音が慌ただしく響いた。


河尻秀隆が膝を着いてしゃべる。

「殿 一大事にございます、清洲方が松葉城と深田城に攻め入り、人質をとって立てこもりました」


「であるか」

そう言うと信長がゆっくり起き上がる。

「玲奈よ、お前の撒いた噂が効いたぞ」


「御武運をお祈りいたします」


「あぁ、約束通り来年の正月元旦は清州城で雑煮を食う、楽しみにしておけ」


「楽しみですわ、清州城の姫初め」

あっけらかんと言い放つ玲奈に対して信長がニヤリと笑いうなずく。

「ならば次は嫡男を産ませてやるからな」





 天文23年(1554)4月1日 

 

尾張那古野城から直属軍一千を率いて信長は、意気揚々と庄内川を押し渡り、後から駆けつけた守山城の叔父・織田信光軍200と合流した。


「叔父どの、此度もかたじけない」


「なんのこれしき、甥の助けになるならば、いつでも呼んでくれ」


気安く答える信光に対して信長は愛想よく振る舞う。


「ではいつも助けてくださる叔父どのに、この信長も何か報いて差し上げねばならぬ……海西・海東の2郡でいかがかな?」


持ちかける信長の目が、笑っていないのを見て信光が生唾を飲み込む。

「あそこは清洲の守護代の領地だが、まさかお前」


思いもよらぬ提案に信光もそれ以上の返答をためらう。


「さよう……この戦いの勝利の報酬に、我が居城と先ほどの2郡を付けて叔父どのに譲り渡したく思うております」


慇懃に頭を下げて見せる信長の態度に信光も安堵の笑みを漏らす。


「よし承知致した。ではその手順を教えてもらおうか」


「窮地に陥った坂井大膳めは、必ずや俺と叔父の関係を切り崩そうとするはず、そこで叔父どのには、その策略に乗った振りを装い清州城にお入りいただき、時期を見計らって守護代を追い出し乗っ取りをしていただきます」


「ウム、それを成せば2郡を報酬にくれるわけだな」



信光の確認に信長は曖昧にうなずくだけだが信光は快諾と受け取ったらしい。


(この男もいつまで俺に好意的に協力するかわからんからな)


油断ならざる仮想敵と思われているなどと夢にも思わない信光は単純に喜ぶだけだった。



清洲方2千も信長を叩き潰す好機と見て出撃して来た。


4月2日 萱津かやつ(海東郡甚目寺町)にて両軍は睨み合う。



「玲奈、敵の様子はどうだった?」

空中偵察を終えて戻って来た玲奈に信長が尋ねる。


「約2千がこの萱津に鶴翼の布陣を敷いていましたわ、味方が突っ込むと同時に包囲殲滅するつもりでしょうね」


「なるほどそうくるか」信長が感心した様子で敵を評価した。


「総大将の清洲の守護代は後方にいるみたいね、坂井大膳の身内と坂崎が右翼に、左翼は佐々甚助が控えて、鉄砲隊までいる」


「ほう、清洲も鉄砲隊がいたか、ならば玲奈……手筈通り空から敵の火力を黙らせよ、我らは奴らが上に気を取られぬように、攻撃を繰り返す、やたらめったら死者を出すな」


「わかっております、少なくとも兵力は要りますからね」


「頼んだぞ、こんな戦で消耗戦を繰り返すは愚か者のやることだ、かえって今川義元を喜ばすだけになる」


玲奈以下魔道巫女の攻撃系魔力により、右翼を魔道巫女に潰され、左翼を初陣を迎える前田利家・丹羽長秀・佐々成政に突き崩され、戦意喪失した清洲方は、信長軍の執拗な追撃を振り切り、清洲城に逃げ込む。


追撃してきた信長は苅田(かりた)を命令して、清洲郊外の放火までやらせて悠々と撤退していった。


城方は虚しく見送り、守護代の権威は地に堕ちた。


7月12日。


追い詰められた坂井大膳は、守護の斯波義統を襲って殺害した。


名目は斯波の家臣が、信長に内通して清洲まで誘き出したことが発覚したためとされた。


更に人材不足を補うために信長と信光の分断を画策し、信光を清洲に招き入れる。



「清洲の坂井大膳……遂に己の首を締めるか」

しみじみとした口調で信長が玲奈に視線を向けた。


「何をしたのだ?玲奈」


「仲間を斯波の家臣に変身させて清洲に送り、わざとらしく坂井大膳に捕まり有りもしない守護様の裏切りを自白しただけですわ」


「聞くところでは、守護様は寝てるところを膾切りにされて凄惨な死に方をしたようだ、お前もけっこう酷いことをやらせるな」



玲奈は怒る素振りも見せずに、冷たく淡々と言い放つ。


「でもおかげで逃げて来た守護様のご子息を保護出来て、相手の非業を非難して成敗する口実にもなりましたし一石二鳥ではないでしょうか?」


「確かにな、やりやすくなったことは感謝している」


「あの叔父様は役に立つでしょうね」


「案ずるな、2郡の餌に食らいつく為なら何でもやる男だからな」


「まぁその言い方は、あまり良くありませんわよ」


「前にも言ったろう、俺はお前以外の奴は信用しないと」



そして事態は急展開を迎える。


10月15日。

信長を討つ為に武装を命じられた信光が、守護代の閲兵を受けると称して清州城を占拠して、守護代を追い詰めて自害に追いやったのだ。


坂井大膳は、危険を察知して闇に紛れて逃走したが、行方不明になった。



約束通り織田信長は清州城に引っ越し、叔父の信光は2郡の土地と那古野の城を受け取った。



天文24年(1555)正月を信長と玲奈は清州城で迎えることが出来た。



「どうだ玲奈……俺が言った通りになっただろ」

愉快そうに信長が玲奈を抱きかかえ、床に押し倒す。

「素晴らしいですわ旦那様」


そして10か月後。

待望の嫡男に信長は頬を緩めて命名を告げた。


「今年の干支は卯だったな?」

信長が産婆に尋ねると産婆がうなずく。

ニヤリとした信長が興奮を抑えられない感じで玲奈に告げた。


「干支は()ゆえ、幼名は吉卯丸(きちぼうまる)じゃ」


あまりの命名の乱暴さに玲奈がポカンと口を開けたまま絶句する。


「産まれた年がわかってちょうど良い、織田の飛躍に欠かせない存在となろうよ」

と豪快に笑い飛ばす。


玲奈も諦めて笑うしか無い。





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