赤のノート編3
最後のイラストは、この話を描く少し前に描いたものなので少し違うところがあります。ご了承ください。
第三話 正偽のノート
仲間。見ているだけで温かい気持ちになる。こんなに笑顔が溢れているなんて。
……俺みたいな作り物の命には、仲間なんていないのだろうか。
「……ト……ノート!!」
カンッ!と音が聞こえた。振り返ると、さっきまで下にいた着物の男が後ろまで来ていた。こんな短時間で登ってくるなんて。
「俺のことは放っておいてくれ」
「ダメだ。お前は牢屋で反省しろ」
「……そういうわけにはいかないようだ」
もう手足の感覚がない。
さっきのが間際の一撃ってやつだろう。
「お前っ……体の端が……消えて……」
そうだ。白い光となって、消えていっているんだ。
昨日の敵は今日の友。
せっかく友達になれそうだったのに。
ああ……現実は残酷だ。
「俺の体は魔力でできているようだ。その……ノートの本体が、俺が負けると思って俺に魔力を回さなくなった結果だろう。……お前らの勝ちだ」
「そんな……そんなこと」
「……最後に、お前たちの名前が知りたい」
ずっと『お前』というのもどうかと思っていた。
俺の下半身は消えかかっている。まだ、話が聞けるうちに……。
「……オレは『リスト・ウルム・ラーン』。本名は『獅子ヶ鬼剣一』。あいつは『黒池皇希』だ。……おい?」
心配そうな顔をこっちに向ける。俺はもう、腕までもが消えていた。
「聞こえている。……リスト……黒池。いい名前だ。覚えておく」
「お前は?」
「俺には名前がない。ただ、正義を騙り続けた哀れな男だ……」
「……標的さえ間違えなければ、お前は立派な正義の味方だった。お前のこと、忘れない。正義を目指し続けた男のことを。だからゆっくり眠れ……『後のことはオレたちに任せろ』」
「……は。はは……言われてしまったな。頼んだぞ……リスト、黒池……人間たち、よ……」
__________
「師匠!」
ガバッ!と起きた黒池はあれ?と周囲を見渡した。
「ここにいる」
「ああっ……よかった!……戦いは?」
「勝ちだ」
「……そうですか……」
とは言ったものの、煮え切らない戦いだった。あの正義の味方は勝手にノートに作られて、勝手にノートに殺されてしまった。
ノートは透明と聞いているが、あれは赤かった。赤いノート……か。もしかして別の色もある?
「……ここは救急車ですか」
「そうだ。お前が無理をしたからな。命に別状がないと願いたいが……とにかく、目が覚めてよかった」
「師匠……師匠っ」
ぎゅうっと担架の上から抱きしめられる。そして子供のようにわんわん泣き叫んだ。
「生きててよかった……!勝ててよかった……!うわぁああんっ!!」
「ちょ、おいっ!そんなに大声出したら傷に響くぞ!聞いてるのかっ、黒池!」
「そんなの後でどうとでもなります〜っ!!」
……こいつというやつは。だが、悪くない。オレは黒池の長い髪を、そっと撫でた。血のせいで固まってはいるが、洗えばどうとでもなるだろう。黒池……次はお前の番だ。お前がお前の人生の行き先を決めるんだ。オレも精一杯手を貸す。だから、勝ってくれ。お前の弱さに。
「あー、はいはい。オレはどこにも行かない。オレはお前の師匠だからな」
「うぐっ……ひぐっ……はいぃ……」
よく見ると担架の紐が千切れている。そうでもないと起き上がれないか……。……ん?……なんで?
……何かがキラリと光った。
「痛い痛いっ!」
「わっ!?師匠に切り傷がっ」
「これぐらいどうってことない……。レインに斬りつけられたときよりマシだ。それより、お前のそれは?」
「わかりません……でも、あのチェーンで叩かれたあとから意識が途切れたりして……おかしいんです。僕……」
黒池は怯えた顔で自分の手のひらを見る。しかしどこにも異常は見受けられなかった。
「……存在を縛るチェーン、か」
アレ以外考えられない。もしかすると、あいつの力が不完全な状態で黒池を攻撃したから……イレギュラーな能力が発動してしまった?
たとえば……そうだな。
『どちらかに縛るのではなく、二つを一つに融合させてしまう』、とか。
「チッ!厄介なことを」
冗談じゃない。オレのかわいい弟子になんて事をしてくれやがる!だが、それはあいつの意志じゃない。あんな能力を作ったのはノートだ。
混ざったのが剣であれば、黒池は誰かを守るどころか触るだけで誰かを傷つける、文字通り諸刃の剣となってしまうだろう。そうなれば、黒池の夢を守ってやることができない。それだけは避けたい。
面狐がやってくれたように、次はオレが黒池を見守るんだ!
「僕は……僕はどうなっちゃうんですか……?」
黒池は背中を丸め、顔に両手を当てて……泣いた。さっきのは嬉し泣きだが、今回は嘆きの涙だ。今、オレにできることは一つ。安心させてやることだけだ。
「……大丈夫。必ずノートを倒して、元に戻してやる。それまでの辛抱だ……」
「師匠……これは神の遣いを妨害したことの天罰なのでしょうか?だから、僕はこのようなことになってしまったのですか?」
「そんなことはない!……そんなことは、無いんだ……」
チラ、と隣を見る。
同乗している上原はスマホをいじるふりをして聞きながら頷いた。マリフもどうやって戻すか必死に能力をフル活用して探してくれている。……二人にも迷惑をかけてしまっている。早く……ノートを倒さないと。
「……なぁ、黒池……どうしてあの時飛び込んできた?」
「……師匠が心配でした。タイマンで敵の前に居ようとするなんて、それこそ自殺行為です。警戒がなされていないです。……なので……無意識に体が動いてしまったんです。師匠の体はほぼ悪魔と同じくらい丈夫なのはわかるんです。……ですが……ですが……」
黒池の目に大粒の涙が溢れた。
「師匠には、僕の前では人間のままでいてほしいのです。僕は師匠の体が人間の子供と同じくらい弱いと認識してしまっています。なので……大人として。警察として、師匠を……キミを助けたかった。それだけなのです」
意外だった。
黒池が剣を手に取ったのは、ヘラという『悪魔』に近付きたかったから。それは知っている。でも今はどうだ?オレに憧れの悪魔ではなく、人間でいてほしかったって?
黒池の口からそんな言葉が出てくるなんて、夢にも思わなかった。
「……あまり無理はしない。だから心配するな。今はゆっくり寝て、休んでおけ」
「ふふ……そうさせてもらいます。……師匠、ありがとうございます。そして……ごめんなさい」
黒池は横になって目を閉じた。
それを見届けたオレはマリフの方を見た。
「魔界へは?」
「行ける。でもキミだけじゃ心細いだろ?だから戦力をまとめてから行こうか」
「……あぁ。…………絶対に許さないぞ、ノート」
どうも、グラニュー糖*です!
現在、「怪奇討伐部完結直前・pixivと同じところまで進める祭り」を開催しております!
こっちでは表紙を載せられないことが本当に残念ですが、楽しんでいただけると幸いです。
本当はイラストを見て読むほうが良いんですけどね!
なお、pixivからそのままドンしてるのでルビやら何やかんやがpixivのコマンドのままになっている場合があります。それを見つけた際はお手数ですがお知らせしていただくととても嬉しいです。もちろんコメントなどもお待ちしております!
ではでは〜