赤のノート編
第一話 赤のノート
世界とは何だろう?
それを考えるのが我が使命。我は正義を統べるもの。邪魔をするものを排除するのは当然のことだ。
「撃てェい!!」
醜い号令とともに砲台が火を吹く。そんなものじゃ痛くも痒くもない。避けるまでもない。
「命中!……何っ!?効いていないだと!?次だ!浴びせ続けろ!」
ドーン!ドーン!と続けざまに撃ってくる。ああ、もう。無駄だというのに。
「状況は!?」
「誰だ、お前は」
「警視庁特別能力推攻課の黒池皇希と獅子ヶ鬼剣一です。援護要請が来たのでここに参上致しました」
人が増えたところで何も変わらない。我が正体を知らない限りは……。
「特別能力推攻課ァ?あの『タブー』がか……誰が要請したかわからんが、ここは俺たちでも十分だ。さっさと帰りな」
「……大口叩いていられるのは今のうちだ……あとでどうなっても知らんぞ」
「ちょっと、師匠!そんなこと言ってはいけません!」
「……チッ」
こっちを無視して話し続けている……。今、ここで正義を執行しているのはこっちなのになぜ無視をする?アイツらだ……あの黒髪と着物のアイツらを殺せば少しはこちらに気が向くだろうか。
「……こっちを向け、貴様ら……ッ!!」
とりあえず軽く一発エネルギー弾でも撃っておくか。さっきは三発でビルが何本か壊れたが、一発だと何本なのだろうか。
「!?高エネルギー確認!総員、衝撃に注意しろ!!」
……そうだ。ここは悪の巣窟。ここのやつらは一掃しなくてはいけない。これが正義のため。自分の身を守るためだ。
「師匠!」
「わかってる」
発射。眩い栄光の光が辺りを包む。輝きすぎてどうなっているのかわからないのが難点だが、大抵はこれで焼け野原だ。
光が消える。下界が見えるようになった。あの厄介者は消えただろう。楽しみだ。
目を凝らしてみる。
「!?」
どこも消えていない、だと!?嘘だ。誰がアレを消せる魔力リソースを持っている?!人間にはアレを消せる技術はないはずだ!
よく見てみると、中央にあの着物の子供がいた。奴は手をこちらに向けてシールドでも展開したかのようなポーズで立っていた。
本体が魔界と人間界の行き来をできなくしたおかげで悪魔はこっちにいないはずなのに!どうしてだ!?
「……お前は勘違いをしているな」
奴が呟く。帽子の下に怒りが見えた。
「お前の声が聞こえないと思っているが、そうではない。ノート、お前は油断をしたな。降りて、正々堂々と戦えコノヤロー!!」
「師匠!それじゃ背が低いことをアピールしてるみたいになりますよ!?」
「お前はちょっと黙っとれ!!!」
何だ、アイツらは。ふざけているのか。
というか聞き捨てならない言葉が聞こえたな。俺の名前を知っている?馬鹿な。人間界にいる奴らは誰一人として知らないはずだ。まさか悪魔がこちらに住み着いたというのか?冗談じゃない。人間ならまだしも、悪魔がこの世界にいるなんて。悪魔はその名の通り悪だ。最優先で滅ぼさねばならない。
「……正々堂々、か」
(あれっ乗っかってくれた……?)
「良かろう。悪の戦士よ……!正々堂々と『下界』で戦ってやる!」
(うわ)
痛いって顔しているだろう、そこの黒髪。
いいぜ、わかってる。お前が後衛で見ていることも。だが残念だったな、悪の手下よ……!お前の親玉は、俺が……この『正義の味方アストロ・ノート』が成敗してやる!!
__________
「ふふ……始まったね、アナスタシア」
「……」
ボクは今あの宇宙人や巫女に目くらましをしたあと、塔の上に戻っていた。隣にいるのはアナスタシア。同じ神だ。
「たまには寝ずに見てくれてもいいのに……」
「……起きてるわよ」
「起きていたのか」
常に目を閉じているか、寝不足で目が赤いかのどちらかだ。まぁ目を閉じられては大地の神とかぶるのでできるだけ目を開けてもらっている。
「それよりいいの?巫女ちゃん……あなたのことをすごく心配していたわ。相手をしているサメが不憫になってくるほど」
「大丈夫。あの子ならすぐ元に戻る」
「ふぅん……知らないわよ、あの子をあの男に取られても」
「……問題ない」
(ちょっと考えたわね……)
「ところで、どちらが勝つと思う?」
「人間……いえ、半人間に勝ってもらわないと面白くないわ」
「おや……応援してくれないのかい?ボクの『分身』を」
「あなたの分身とか気持ち悪くて目も当てられないわ」
「ふ……言ってくれるね。それはやっぱり____」
「それ以上言ったらハッ倒すわよ」
「おお、怖い」
肩をすくめたボクを見てアナスタシアはため息をつく。
「それにしても……あなたの分身、少し……いえ、だいぶ不気味ね」
「ひどいこと言うな」
「本当じゃない。認識機能が変だし、言動もおかしい。本当に神が作ったものなの?」
「あぁ。あの魔女の言う通りならばあれが完全体だ」
ボクはあの妙な帽子をかぶった魔女の姿を思い浮かべた。
「ふぅん……ならいいけど」
アナスタシアが塔の階段に向かう。
「もう行くのかい?」
「いつ悪魔が向かってきてもいいように待ち構えるのよ。誰かさんとは違って、ね」
「……大きなお世話だ」
__________
「はああっ!」
降りたらすぐに着物の男は鞭を持って向かってきた。下駄なのでカランコロンと音がする。うるさい奴だ。
「フン」
鞭の攻撃を軽々と避ける。大したことのない、緩い攻撃だ。そんなものでこの俺が殺せると思ったか。
「くっそー!ナメやがって!」
「いつまでその無意味な攻撃を続けるつもりなんだ?」
「お前に当たるまでいつまでもだっ!」
デタラメに攻撃する着物の男。大口叩いてそれか。口ほどにもない。
「師匠……っ」
「黒池は手を出すな……!あいつは……あいつは……」
「わかっています。どのような姿であれ、ノートですよね」
「人間のお前ではまず相手にならん……だから部隊に牽制を続けろと指揮を執れ」
「無茶ですよ!それでは砲弾が師匠に当たってしまいます!」
「これは最終決戦だ。こんなところで迷ってはいられない」
「……はい」
「……話は終わったか?」
変身シーンを待ってくれる敵にはこちらも誠意を見せねばなるまい。だから待った。他に理由はない。
「終わった。お前には消えてもらう!」
「その言葉、お前にそっくりそのまま返そうではないか!」
硬くなった鞭とチェーンがぶつかり合い、火花を散らす。なぜ鞭がこんなに硬くなって火花を散らすまでになったかは知らないが、そこまでの使い手なのだろう。
「お前の武器はそのチェーンかっ……!」
「悪は滅ぼさねばならない……悪は悪たらんことを……!これは存在を縛るものだ。善は善であれ。悪は悪であれ!グレーはいけない、白か黒に分けねばならない!」
「存在を縛る……だと?ハレティのように、か?」
「ハレティ。霊王ハレティか。そんな奴もいたな。……お前、人魔だろう?運が良ければ悪魔、悪ければ人間に縛られる。どっちつかずのお前にはピッタリだな」
「うるせぇ!オレはオレだ!誰にも縛られない、自由のリストだ!!」
下駄だとは思えないスピードで飛んでくる。いや、走っているのか!?ありえない、どこからそんな力が……!
「……っ」
「そこか!」
あの黒髪が着てるコートのポケットから高密度の魔力を感じる。アイツが持っているものが悪の力を増幅させているのか!
「させるか!撃てェい!!」
ドン!!と大砲が火を吹く。当たっても大したことないが、体のバランスを崩すのには十分な力だった。
「ぐっ……!」
「オラァ!!」
バランスを崩したところに鞭の一撃が脇腹に入る。奥歯を噛み、痛みをこらえた。
「フン……形勢逆転ってやつ、か?」
奴は、ニヤリと不敵に笑った。
どうも、グラニュー糖*です!
現在、「怪奇討伐部完結直前・pixivと同じところまで進める祭り」を開催しております!
こっちでは表紙を載せられないことが本当に残念ですが、楽しんでいただけると幸いです。
本当はイラストを見て読むほうが良いんですけどね!
なお、pixivからそのままドンしてるのでルビやら何やかんやがpixivのコマンドのままになっている場合があります。それを見つけた際はお手数ですがお知らせしていただくととても嬉しいです。もちろんコメントなどもお待ちしております!
ではでは〜