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【最終章】怪奇討伐部Ⅶ-Star Handolle-  作者: グラニュー糖*
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【R-15】黄色のノート編

第十八話 黄色のノート




 __________


 カランカランとカフェに来客を知らせる音が鳴った。


 客の正体はスーだった。彼女は泣きながら戻ってきた。後ろには……あの男がいた。そう、ノートだ。ノートは誰かをお姫様だっこしていた。


 行ってしまったスーはどうしたものかと思いつつ、さっきと同じカフェでアイスティーを飲んでいた俺とメリアは思わず吹き出した。


「ごほっ!?ごほっ、うぇ、え!?」

「な、なんでさっきの高笑いがいるのよ!?」

「いやそこかよ」


 ノートは俺とメリアのやり取りを苦笑いで返すと、店の床にところどころに火傷の跡がある少女……勇者スクーレをそっと寝かせた。彼女は意識を失っているようだ。


「ひゃっ……!?」

「おっ、おい!どういうつもりだよ?」

「お前たちに任せる」


 ノートは冷たい眼差しで口を押さえて驚くメリアと、突っかかる俺を見下ろした。


「そうじゃなくてっ!どうして敵に塩を送るようなことをするんだよ!」

「ボクの聖域に穢れは置きたくないのでね。それとも何だい?君を仲間に引き入れるという願いを受け入れてくれるのかい?」

「……遠慮する。だがスクーレを穢れなんて言うのは許せねぇな」

「フ……勝手にしろ。宇宙人風情、神に勝てるなんて思わないことだ」


 そう言ってノートは踵を返す。泣きじゃくるスーの背中に手を当て、共に行くことを勧めた。彼女は泣き腫らした目でこっちを見たあと、ノートに連れて行かれた。


 ……俺は止めることができなかった。

 宇宙でムジナやヘラより弱いことを実感したからでもあった。俺はあの時の俺とあの二人を呪いたい。だが、もし今ノートに突っ込んでいったらこの店ごと消し炭にされていただろう。だから命を助けてもらった恩人でもある。今魔界で暮らせているのもヘラのおかげなので、もうすでに命の恩人ポジションなのだが。


 ……俺は敗北感に襲われた。


 あんなヒョロヒョロの男なんて一発殴ることができたはずだろ?サメ!お前はサメだろう!恐ろしいサメ。そうであれと定められた存在。それが今、守るべき者を守るために動けないなんてサメ失格だ!

 こんなの、ただの優しいジンベエザメと何ら変わりないじゃないか!


 しかし現実はあまりにも無情だ。

 相手はノート。ヘラでも力は未知数だと言っていたし、少しだけタイマンしたレインだって手も足も出なかったのだから。魔力も力もある悪魔が手も足も出なかったんだ。ただの魚が勝てるわけがない。


「……サメクン。まずはスクーレの傷の手当てを手伝ってくれない?包帯が足りないの」

「……すまない」

「スーちゃんを取り戻せなかった悔しさはわかるわ。だけど反省会はあとにしましょ。先に助けられる人から助けようよ」

「……そうだな。……ってメリア。お前包帯巻くのヘタクソだな」

「ヘタクソで悪かったわね!!」


 __________


 世界とは何だろう?

 それを考えるのが我が使命。我は安寧を統べるもの。邪魔をするものを排除するのは当然のことだ。


 ……とはいうものの、実は私はもう別個体として動いている。だからノートの分身とかじゃなくて、自分を手に入れた。


 だからノートのためにどうこう動く必要はない。ただ、恩返しとして動く可能性はあるだろう。あの女はどうかわからないが、少なくとも私はそうするのです。


 私を見た者は死ぬとかそんなこと言われてるけどふざけんな、勝手に能力が発動するだけなのよ!


 ……パッシブスキルというやつでしょう。たとえば死神。死神には永遠の力が備わっている。インキュバスには……まぁその、アレよ。口に出すのは憚られるからやめとこう。それが私の場合、相手が眠ってしまうのです。


「逃げるなら今ですよ。青年」


 目の前にいるのは、たまたま私の前に現れた不幸な青年。エルフ族の青い髪の青年。

 かわいそうな青年……早く逃げないとあなたも死んでしまうわ。


「……お前。サニーが言ってた奴だな」

「あら……あの子の友達ですの?」

「患者の親族だ。……この先患者が増えても困る。お前はここで倒す……!」


 青年の周りで風を切る音がした。さすがエルフ族。自然の操作はお手の物……。


「でもすべて私の力の前では無力……」


 一歩前に出る。


 ……と、目の前に妖精が飛び出し……ポトリ、と落ちた。


「……」

「身代わり、ですか。自然を大事にするエルフらしからぬ行動ね」

「その『自然』はお前を敵と認識した」

「……あら、そう。……まぁ妖精みたいに自我がない自然発生のものなら私の能力で死ぬことはない……考えたものね」


 私の力は一度につき一人のみに発動する。彼が一歩、また一歩と歩くたび、周りで妖精が山積みになっていく。


 サニーが言っていたのを聞いたというなら、あの子は何らかの方法で助かったのだ。大体は予想できる。

 それは『サキュバス』や『インキュバス』の存在。ここは魔界だから彼らがいても何ら不思議ではない。あの種族は夢に入り込み、悪さをする。何をするのかは彼ら次第だが、サニーが生きているなら助けたのだろう。まったく、厄介な悪魔……。


「さっさと終わらせるぞ」


 彼は手のひらに魔力を集めた。

 ノートが狙っているあの死神が氷または闇属性で、その死神にまとわりついているインキュバスが炎属性、ハレティが水属性だとしたらこの人は風属性と言ったところだろう。


「来るなら来なさい」

「なら遠慮なく!!」


 私と彼の間に妖精がボトリと落ちる。

 重力、存在、無情。全てを感じた。


 ……そのヒドさは、計算のうちだった。


 私は体を動かせなかった……!!


「っは……!」

「うあああああっ!!」

「っふ、ぐっ……ぅううっ!!」


 体が引き裂かれる。これは比喩ではない。本当の話……。


「な、ぜ……」

「こっちこそ。なぜ動かなかった……避けられたはずだろ」


 彼は私の耳元で不機嫌そうに言った。


「……私と……その辺に転がっている妖精は……繋がっている……」

「繋がっている?」

「私が妖精を眠らせている限り……私は妖精全てに魔力を注いでいる……だから動くための魔力は残されていないの……ゴホッ」


 口から血がボタボタと落ちる。


「誰に……この作戦を聞いた?」

「…………サニー」

「そう……あの子……あんな涼しい顔して、えげつないことをするのね……」


 視界が揺れる。


 私を倒すのにはいくらでも手段はあっただろうに、どうしてこんな回りくどいことをさせたのか、理解できた。


「どういうことだ」

「彼の……いえ、彼らの妹に呪いをかけたのは……私よ。誰でもよかったのよ。でも、たまたま『呪術師』のところに呪いが行ってしまって……。彼らには悪いことをしたわ。サニーは……さすが呪術師といったところ……私のことを相当恨んでいたんでしょうね」


『デストロイヤー』のリボンに封じられてしまった呪い。彼らは『化け物さん』と呼んでいるようだが、あのリボンに封じるまでの段取りを組んだのは私……。あれはその気になれば封印が解けるように設計してある。が、あの呪いたちは出ようとはしないようだ。


 彼らに懐柔されたのかと思ったが、そんなことはなかったらしい。むしろ彼らは振り回されているようだ。


『面白い』。その気持ちだけで動いているとしたら、やはり魔法生物は浅はかだ……。


「ならレインが苦しんでいるのはお前のせいか?」

「そうよ。ラプル家の長男が薬が必要になって、あなたが表舞台に立てるようになったのは私のおかげよ」


 その言葉に彼は震えた。

 感激で打ち震えているのかしら?と思ったがそうでもない様子……。せっかく神が教えてあげたのに、何なのよ。


「……俺が……俺が病院を許可したのは、悪魔はみんな自然回復できるからやることがなくて誰も姉ちゃんに会いに来ないだろうと思ったからだ……。誰も姉ちゃんのところに来なかったら、姉ちゃんが暴走することもない……誰も傷つかない……!それなのに……それなのに、お前ときたら!!!!」

「…………」

「うわああああっ!!!」


 彼は絶叫し、私のお腹を思いっきり殴りつけた。メキメキと骨が鳴り、風の魔法で切り裂かれた私の内臓をその拳が抉った。

 逆流した血や中のものが口から吐き出された。


「ガ、フ……」


 そこで、私の中で何かが目覚めた。決してドMとかそういうのではない。『秘められた力』……俗に言う『覚醒』ってやつ……でしょうね。私にもそんなものが仕込まれていたなんて。ノートは初めから私を殺すつもりだったのかしら。


 正直、彼には逃げてほしい。彼の人生はよく聞いた。彼のとっておきのナイトメアを用意してあげる。あなたは絶対に起きていて。夢に負けちゃダメ。トラウマから逃さない。


 頭がはちきれそうな、意識が持っていかれそうな、自分を失いそうな痛みを受け、私は…………………………。

どうも、グラニュー糖*です!

現在、「怪奇討伐部完結直前・pixivと同じところまで進める祭り」を開催しております!

こっちでは表紙を載せられないことが本当に残念ですが、楽しんでいただけると幸いです。

本当はイラストを見て読むほうが良いんですけどね!


なお、pixivからそのままドンしてるのでルビやら何やかんやがpixivのコマンドのままになっている場合があります。それを見つけた際はお手数ですがお知らせしていただくととても嬉しいです。もちろんコメントなどもお待ちしております!


ではでは〜

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