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【最終章】怪奇討伐部Ⅶ-Star Handolle-  作者: グラニュー糖*
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【R-15】青のノート編3

第十四話 被愛のノート




 体が冷たい。

 魔力が満ちてきているというのに、どうしてか体が冷たい。

 理由は不明だ。体の中で魔力が活発になると、それをどうにかして動かそうと神経やら代謝やらが動きまくり、発熱するはずなのに。

 ドラゴンがいい例だ。大きな体を動かすのに膨大な魔力が必要となる。ドラゴンが炎を吐くのはそのときに発生した熱を外に出すため。圧倒的な熱量は炎となり、近寄る者を焼き払うのだ。


 [……あれ?暗いなぁ……。]


 前が見えない。真っ暗だ。それに、体の自由が利かない。ぼくはどうなっているの?ぼくの体はどうなってしまったの?ねぇ、教えてよ……教えてよ。


「!?どうなってやがる……」

「ヘラ……」

「……皮肉なものだな。ノート……」


 何?何が起こっているの?お願いだから教えて……お願い……お願いだから……。


「……!来るぞ、ヘラ!」


 想いが通じたのだろう。ぼくは自分とは思えないほどのスピードで悪魔たちのところへと『飛んで』いた。


「っ!避けきれない……!」


 なぜか彼の動きはスローモーションだった。まるでぼくが彼のスピードを奪っているようだった。


「ヘラ!もっと速く動け!」

「ダメだ……!重力みたいなの、で……」


 ぼくは彼の後ろに回った。


「□゛?」


 重々しい声が出た。

 もしかすると文字通りの言葉じゃないかもしれない。ぼくの声じゃないかもしれない。

 彼は顔を真っ青にして避けようとした。が、動けていない。金縛りにあった人みたいだ。動きたくないのならぼくを愛してくれなきゃ。だってここにいるということはぼくを愛したいからでしょ?


「……ノート……」

「ヘラだっけ?ふふふ……やっと避けなくなったね」

「避けられないだけだ。なぜかな」


 ぼくはなぜか飛んでいた。でもそんなことはいい。この悪魔……ヘラがぼくのことを見て話してくれている。それだけで、ぼくは……。


「……油断しすぎだ」


 ヘラがかざした手から炎が出た。そんなものは利かない。利かな……。


「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!?」


 ボコボコボコボコ!!と体が熱を持って沸き立つ。地獄のようだ。

 地獄には煮え立つ窯があって、死んだ罪人はそこに放り込まれて出られないまま罪を償うそうだ。まさにそんな感じ。

 髪の先から靴の先まで、体の内側から破裂しそうな痛みが広がった。


「っ?!」

「やりすぎだっ、ヘラ!」

「ち、ちが……俺、ここまで……するつもりじゃ……」


 断末魔。断末魔。痛い。痛いよ。ヘラ。ヘラ。どうして炎でここまで痛みが出るの?


「そ、そうだ……!ノートだ!ノートが『水に変わった』から!水の体になったから、炎で沸騰したんだ!!」


 耳元でボコボコジュワジュワ鳴っているから何を言っているのかわからない。


 ぼくは、そのまま蒸発して消えてしまった。


「うっ……そだろ……」


 ヘラが愕然としているが、ぼくの意識はまだ消えていない。むしろまだまだ元気がある。

 そうだ、もう一度ヘラの元に行こう。ぼくが生きているとわかればヘラは喜んでくれるかな?ヘラは愛してくれるかな?インキュバスなんだもん、愛すのは得意でしょ?


「!!」


 気づいたらもう一度ヘラの背後に回っていた。金髪の彼もついて行けていないのか、驚いている。


「ねえ?どうして寒いの?冷たいの?ねえ?どうして?どうしてなの?教えてよ、ねぇ」

「うるさい!うるさいうるさいうるさい!黙れ……黙れ!」


 ヘラが両耳を塞いで叫ぶ。

 どうして嫌そうにするの?


「お前はさっき死んだ……俺が、俺が殺した……殺したんだッ」

「ヘラ、落ち着け!あいつは水だ!何度でも蘇る!」

「殺した……殺したんだ……」

「クソッ……!」


 ヘラはなぜか動けなくなった。代わりに金髪の彼がこっちを睨む。

 睨まないで。ぼくはただ愛してほしいだけなんだ。ねぇ、ヘラ。ヘラが自分から動けなくなったのなら、ぼくはどんな手を使ってでもぼくを愛してもらうよ。たとえ、ヘラ、君を殺してでも……ね?


 ぼくはヘラの首に手を回す。そして力を加えた。

 ヘラは震えたまま何も仕返しをしてこない。何もしてこないなら、このまま呑み込んでしまおう。このまま罪悪感に苛まれたままではかわいそうだ。

 ぼくは君の友達になれなくて残念だ。だから、せめて『友達になりたかったぼくからのプレゼント』をあげよう。

 当然、死のプレゼント。


 そうだな……ぼくがどれほど願っても貰えなかったもの。


 “溺れるほどの、愛”を、君に。


「ごぼ……!?」


 金髪の彼の言うとおりなら、ぼくは今本体の力によって水になっている。水が嫌いなら、ずっと水に触れてもらって好きになってもらわなくちゃ。


 今、ぼくの心臓が『あった』辺りにヘラの顔がある。ああ……今、ぼくとヘラは一体になってるんだ。


「お前っ!さっきから気持ち悪いんだよ!ヘラから離れろ!!」


 金髪がぼくに向かってお札を飛ばしてきた。結界の力が込められている、自分が害あるものと定めた相手を封印する、もしくは力を弱めるもの。


 無駄無駄!

 お札はぼくの体をすり抜けていって、川の向こうの木に突き刺さった。確かにこの勢い、この強さのお札が命中すれば、ぼくはひとたまりもないだろう。でも今は水だ。君が教えてくれたんじゃないか。次は君のもとへと行くよ。……いや、次じゃなくてもいいかもね。


「うっ……!?オレも、動けな……」


 水瓶が魔力を放つ。放つというのは比喩じゃなくて本当に放ったんだ。あの水瓶は無限に水を生み出すんだから。


 あの川を氾濫させさえすれば、近くに住んでいる悪魔が止めに来るはずだとノートに言われたからやっていたんだ。水はどこから持ってくるんだと聞くと、この水瓶に魔力を込めればいくらでも水が出せると言っていた。なら、たくさんぼくの分身も作れるじゃないか……!


「ーーっ!!」


 金髪は水中では目を開けていられないのか、目を閉じて口に手を当てている。

 そんなことをしても無駄だよ。いつかは限界が来るんだから。


「……ご、ぷ……」


 少しずつ口から空気が漏れていく。彼の体は水中で浮いている。体を固定する手段を失い、踏ん張ることができなくなっている。


「ぐ……」

「さぁ……もうすぐ……もうすぐぼくが愛してあげるから。愛してくれないなら、ぼくが愛すしかないでしょ……?」


 彼の口から漏れる空気が増えてきたその時だった。

 ぼくの体が水瓶に引き戻された……!!


「っあ……!?な、に?」

「……終わり良ければすべて良し、ではないんですよ。お二人とも」


 水瓶から出ると、赤い服の女の人が立っていた。居心地が悪かったな、と水瓶を見ると、ヒビが入っていた。しかもかなり大きめの。この人が攻撃を入れたのか?なんで。なんでこんなことをするの?もう少しでこの人たちはぼくを愛してくれるところだったのに。


「ゴホッ、ゲホッ……!タイミングバッチリだぜ、スグリさん!」

「はぁ……褒めて許されることではありませんよ。あれが例のノートの分身ですね?レインさん、あなたはヘラさんを連れて逃げてください。ここは私がなんとかします」

「……すまん!」


 金髪の彼は、溺れて気絶しているヘラを抱えて木々に紛れ、飛び去ってしまった。


「初対面ですが、あなたを許しません。お覚悟を」

「ふ、ふん……!どうせあなたもわからないんだ……!ぼくの苦しみを!愛を知らない悲しみを!」


 そしてぼくは両手を広げて言い放った。


「寒くて寒くてたまらないんだよ。はやく抱いてよ。抱きしめてよ。そして一緒になろうよ。ぼくと、わたしと、ボクたちと、我らと……ふふふ、あははははははははは!………………は?」

「……隙だらけです」


 ボソ、とそれだけ言うと、世界が真ん中から上下にズレた。……いや、世界がズレたのではない……“ぼくが真っ二つに割れて、上下に分かれた”んだ。


「あ……ぁ、あ……うわあ゛あああああっ!?」

「あなたの弱点は先程判明しました。なら先手必勝……戦場では気を抜かない。当然のことですよ。それもわからないようであれば、後ろで指揮でもしておいてください」


 ちょっと……待って。待ってよ!?さっきいたところから水瓶まで、川の端から端まであったよね!?さっきは水瓶の後ろから攻撃して川を渡って二人のところに来てたけど……そんなスピードで行き来する!?普通!


「体が、体が元にッ……あ゛あ゛、あ゛ああっ!!?」


 振り向いて確認してみた。……水瓶は粉砕されていた。見事に粉々。破片などそういうものではなく、砂。もはや砂になっていた。殴ったか何かをした衝撃波でここまで粉々になったのだろう。


 彼女は両手をパンパンと叩き、ぼくの方を見た。水ではなく、元の姿に戻って真っ二つに引き裂かれたぼくを眉一つ動かさずに見下した。


「……私もここまではしたくありませんでした。どうもリーバトラーの私には『手加減』というものは不可能のようです。……ノート。あなたの負けです」

「い、やだ……ぼくは、まだ……愛されて、ない……」


 蚊の鳴くような声しか出ない。

 ああ……悪魔だし、願いなんて踏みにじるんだよな。ノートが言ってたもん……。


「……人は愛されて育つだけではないと思います」


 ぼくの血で濡れていない場所に座った彼女はそう言った。


「私も一人で生き、殺すか殺されるかの環境で過ごしてきました」

「殺すか……殺されるか……」


 返り血かは知らないが、彼女の赤い服から目が離せない。


「力こそ全て。信じても裏切られるか破滅の道に追いやられるか……その二択でした」

「……嘘だ……」

「嘘ではありません。私がここまで強くなれたのは、一人で生き抜くためです。ノート……確かに愛されて育ってきた者もいるでしょう。ですが、覚えておいてください。愛だけでは生きられないと」


 愛だけでは生きられない。

 それはもう指一つ動かせないぼくの心に深く突き刺さった。


「……おねえ……さん、は……ぼくを……愛して……くれないの……?」

「……ごめんなさい。愛せません。……あなたのためです」

「……あは……ひどい……なぁ……」


 そこでぼくの命は終わりを告げた。

挿絵(By みてみん)

どうも、グラニュー糖*です!

現在、「怪奇討伐部完結直前・pixivと同じところまで進める祭り」を開催しております!

こっちでは表紙を載せられないことが本当に残念ですが、楽しんでいただけると幸いです。

本当はイラストを見て読むほうが良いんですけどね!


なお、pixivからそのままドンしてるのでルビやら何やかんやがpixivのコマンドのままになっている場合があります。それを見つけた際はお手数ですがお知らせしていただくととても嬉しいです。もちろんコメントなどもお待ちしております!


ではでは〜

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