青のノート編2
第十三話 悲哀のノート
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世界とは何だろう?
それを考えるのが我が使命。我は悲哀を統べるもの。
目の前で剣を構える悪魔には愛なんてわからないだろう。
ぼくの悲しみなんてわからないだろう。
ぼくは愛情を受けたことがない。だから今を生きる生き物全てが憎い。
例えば今ぼくと交戦している悪魔。こいつらもいい見本だ。男同士だから関係が無いことはない。
友情も立派な愛だ。この人が大事だから守ろう。手を貸そう。お互いに助け合おう。そんな考えはその人への愛がなければ成立しない。
だからそこにも愛はあるんだ。
ぼくの関係者にはノートの本体がいる。だがあれは『ぼく』だ。ぼくがぼくを愛すなんて、ただの慰めにしかならない。いや、慰めにもならないだろう。ただむなしいだけだ。
生きとし生ける者全てが愛を受けねばならない。愛を受けたからこそここまで希望を持って成長してこられた。少なくともぼくはそう思っている。
……ぼくの記憶には『愛された』記憶なんてない。ずっと一人で何もかもこなしてきた。
そんなぼくに言い渡された『悪魔を滅ぼしたら、ご褒美としてよくできたねと言って愛してあげよう』という言葉。
それは愛に飢えるぼくにとって、地獄に垂らされた蜘蛛の糸だった。愛を得るためなら、どんな物にだって縋ってやる。それがぼくだ。
「愛……か」
ぼくの水弾を避けながら赤い悪魔は呟いた。
愛は受けている者には理解できない。当たり前だから自覚がないんだ。ゼロから始まった人にしか愛の大切さは理解できないんだ。
「確かに俺には愛する人がたくさんいる」
その中に当然ながらぼくは入っていない。
その人たちが羨ましい。恨めしい。
「俺はお前のことを愛しはできない」
そんなにキッパリと言うな。
「だがお前のために、お前を楽にすることはできる」
それは死ねと言っているようなものだ。
愛とは正反対の言葉だ。
まずぼくの目的は悪魔を倒すこと。悪魔を倒したら愛を得られるんだ。だからそう言うべきなのはぼくなんだ。
「ぼくは死にたくない……!愛されたいんだ!!」
「俺はお前を愛せるものなら愛してやりたいんだがな」
「………………え?」
ぼくは上を向いて素っ頓狂な声を上げた。悪魔から愛なんて言葉が出るとは思わなかったというのもある。悪魔が愛するなんて聞いたことないからというのもある。
でも……その『愛がぼくに向いた』だなんて、想像もしていなかったから。ぼくは悪魔であるあなたを殺そうとしているのに。
剣を掲げた彼を見て『綺麗だ』と思ってしまった。
夕日の光が剣で乱反射しているから。夕日と同じ色の炎がその剣の周りで渦を巻いているから。
そして、彼の種族が魅了の塊であるインキュバスだから。
……悪魔についてはノート本体に聞いている。正確には生まれたときにノートの偏見がインプットされていたのだが。
悪魔は極悪非道で、道徳がわからないと聞いている。当然、ぼくが欲しがっている愛の話なんかすればそれを嬉々として破壊しようとしてくるとも聞いていたのだ。
でも実際は違った。悪魔の彼はぼくの話を聞いて、考えてくれている。本当は彼は良い人なのかもしれない。後ろの金髪はわからないけど、この人ならもしかして……。
「むっ……!水が止まった!」
「よしっ!」
金髪が飛んで寄ってくる。しまった、集中が途切れたから水瓶への魔力が切れたんだ。
ぼくは再び水瓶に魔力を込める。しかし、金髪が飛ばしたお札がグルグルと周囲を回り始めた。これは……結界か!
結界を破るために水を出す。しかし先程作り出していた炎が結界の内側で渦を巻き、水は蒸発してしまった。
「……すまんな。本当は近距離で攻撃したかった。だが……」
彼は枝から飛び降り、ぼくの方へと歩み寄る。そして悲しそうに目を細めた。
「俺は水が苦手なんだ」
「……………………………………………………は?」
いや、意味がわからない。ここまで引っ張っておいて、それ?
いやいやいや、ぼくが重い水瓶を上に向けて発射できないという唯一の弱点を見切っての『空中攻撃』だと思っていたのに。まさかただの『水から離れたい』一心での攻撃方法だったなんて。
「いやー、卑怯だと怒るのもわかる。すまんな。俺の愛する土地を守りたいからって早く終わらせようとして」
「……ぼ……」
「ぼ?」
わなわなと震えるぼくの言葉をリピートする。
「ぼくは地面以下かーーーーーっ!?」
怒りで魔力が最高潮になる。
わかった。もうわかった。悪魔は悪い。悪い魔だから悪魔なんだ。良魔なんて聞いたことないけど。とにかくぼくは悪魔を倒します。倒すことにしました。もういいです。ノート、結局お前の言ったとおりになったよ。ぼくが悪魔に愛を求めても意味がないって。今わかった。今からこのカナヅチ悪魔を水責めします。さようなら、ぼくの健全ライフ。水責めにハマってしまったら悪魔のせいだから。全部お前らのせいにするからな!!
「な、なんかやべぇぞ!?ヘラ、なんか怒らせてるぞ!?」
「おっかしいなぁ……俺は親切に教えてやっただけなのに……」
「お前の親切はやりすぎなんだよ!」
親切と愛は違うもの。ぼくは薄っぺらい親切は望んでいない。むしろ全力で立ち向かってもらいたいものだ。
「一瞬でも心を許そうとしたぼくが馬鹿だった!許さない……!悪魔は殺す!滅ぼすんだ!!」
どうも、グラニュー糖*です!
現在、「怪奇討伐部完結直前・pixivと同じところまで進める祭り」を開催しております!
こっちでは表紙を載せられないことが本当に残念ですが、楽しんでいただけると幸いです。
本当はイラストを見て読むほうが良いんですけどね!
なお、pixivからそのままドンしてるのでルビやら何やかんやがpixivのコマンドのままになっている場合があります。それを見つけた際はお手数ですがお知らせしていただくととても嬉しいです。もちろんコメントなどもお待ちしております!
ではでは〜