青のノート編
第十二話 青のノート
スクーレにスーを渡したあと、俺達は江戸組に連絡を入れた。店の人に電話を借り、魔王城に電話をしたのだ。店主は「魔王様に頼まれているなら」と快く電話を貸してくれた。
『そう。わかったわ。伝えておきます。……魔界への不法侵入の件はその時に。わかりましたね?』
「う……その時までは見逃してくれよ」
『当然です。……頑張ってね。応援してるわ』
俺が何か言う前に電話が切れた。
切れる前に後ろの方でガヤガヤと音が聞こえた。
『怪我人をあっちに!』
『物資の補給に向かいます!』
『嫌だ、死なないで!』
聞き慣れた言葉が耳に入った。
知らない言葉なら「何て言ったの?」程度だろう。しかし、俺には理解できる言葉だ。
ヌタスから魔王ライルは優しい子だと聞いていた。だから自分の部屋を貸し出したのだろう。何に対して戦っているのかはわからないが、きっとノートの何かだろう。
もう戦いは始まっているんだ。
「あとはヘラたちを見つけて手を貸すだけね」
「ああ。もう大人たちが戦ってるみたいだから早くノートを倒そう」
……って、あれ?さっきは『今集めてる』って言ってなかったっけ?
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「ヘ、ヘラ!大変だ!」
「え?何?」
部屋から出ると、レインが慌てて叫んできた。慌てすぎて階段で転倒している。
「川がっ……川が氾濫してるぞ!!」
「……は?!」
一体何が起こったのか確認しようと外に出る。玄関からではなく、武器庫の扉から出た。こっちの方が川に近いからだ。
なぜ俺が飛び出していったかというと、川の下流に妖精の泉があるからだ。ついでにサメの家にもなっている。川が氾濫すれば周辺はもちろん、泉はさらに大変なことになる。俺はもう二度と妖精を失いたくない。
扉を出て、トンネルを無視してそのまま地上を走る。トンネルとはリメルアの館まで一直線に行けるトンネルのことだ。姉ちゃんにバレないようにリメルアの館に行くにはこの方法しかなかった。
好奇心旺盛だった俺とムジナは姉ちゃんの目を盗んで何日もかけてトンネルを掘った。掘り切って、乗り込んで……リメルアに捕まっていた皇希とキリルに出会ったんだ。今となってはそれが全てを狂わせ、そして繋いだ。あの行動は正解だったんだって思うようにしている。
「はぁっ、はぁっ……ほ、本当だ……」
飛ぶことも忘れ、草木をかき分けた俺の目に飛び込んできたのはまだマシな氾濫だ。
少し荒れているが、流れが早くなって濁っているくらい。崩壊はしていなかった。
しかしなぜだ。俺が生きている間は一度も氾濫なんてしなかったのに。どこかに原因がありそうだ。とりあえず上流に行くことにしよう。
「おい、待てよ!一人で行くのは危険だからスグリも呼んできたぞ」
「勝手にしろ。……お前、飛んでるってことは置いてきたのか?」
「まぁなんとなくわかるだろ」
「適当なのか信用の証なのか……」
はああ〜と力なく腕をだらんとさせながらも俺は振り向かずにそのまま歩き続けた。
レインは飛ぶだけの大きさの翼があるからいいが、俺のはそんな大きさではない。手のひらサイズの、まさに『小悪魔』と言える大きさだ。レインのように路地裏を通せんぼできるレベルの大きさではないのだ。
そんな大きさの翼で飛んでみろ。レインの何倍もの魔力が必要になる。そうなると戦うどころじゃなくなる。だから歩くしかない。最悪テレポートするという案もあるが、どこが原因かわからない以上、テレポートも不可能だ。
「……に……」
ザブザブという音が近くなっている。その合間に聞こえた声のようなものに意識を集中させた。こいつが犯人なのか?
「……ために……」
……ために?誰かのためにやっているのか?
俺はバケツのようなもので川に水を流している人影に見つからないよう、木の後ろに隠れて盗み聞きすることにした。
「認めてっ……もらう、ためにっ……ここにいるって……それで、見返してやるんだ……っ!」
俺やムジナと同じくらいの背丈の男の子が重そうな水瓶を傾けて大量の水をぶちまけている。大変そうで手伝ってやりたくなるが、俺はこいつを止めるためにやってきた。俺は新生・ヨジャメーヌを異界から引っこ抜いた。
「どうしたんだ?ヘラ」
レインが翼を閉じて空中一メートルほどから地上に降りた。
「あっ、バカっ!」
「え?」
降りた先には木の枝があった。そりゃあ森だからな。それを見事に踏み、パキッ!と音を鳴らしてしまった!当然水をぶちまけている男の子がこちらに気づいてしまった。
「……誰?」
「くっ……こうなったら……!」
最悪の場合を考えてヨジャメーヌを手に持っている。普通に見つかった場合は適当な理由をつけてヨジャメーヌを異界に戻す予定だったが、穏便に済みそうにない雰囲気なのでヨジャメーヌに魔力を込め、いつでも斬りかかれるようにした。
「……もしかして、聞いてた?」
「独り言のことか?……それは……すまなかったな」
「やっぱり聞いてたな!?」
男の子は血相を変えて水瓶をこちらに向ける。よく見ると水瓶の中には何もない。では、あの水はどこから来ていたんだ?
「お、おい、落ち着けって!」
「お前のその手を見て落ち着いてられるか!鏡見ろ!鬼!悪魔!」
「悪魔だよ!!」
悪魔にしてはどこか違和感がある。まるで皇希たち人間のようだ。だが、水を魔力で作り出しているのであれば人間ではない。……ならば、と一番最悪な結論に辿り着いてしまったようだ。
「……そういうお前は何なんだよ」
「ぼくは……ぼくには名前なんて無いよ。強いて言うなら『ノート神の端末』。悪魔を滅ぼして愛を手に入れる存在だよ」
ノート神の……端末?それに何だよ、愛を手に入れるって……。冷血非道なノートの脳内に愛なんて言葉があったことが一番の驚きだが、こいつが例の分裂したノートの一部なのだとしたら倒さなくてはならない。
「ヘラ、こいつは……」
「ああ、わかってる。ノート……こいつもノートなんだよな」
「間違っても友達になろうだなんて言うなよ。どっちにしろノートを倒したら消えると思うから」
「…………」
耳打ちしていたレインはお札を取り出す。今回は封印する方針のようだ。
「さあ……はやくぼくに愛をちょうだい……!」
愛が何の愛だかわからないが、ノートには変わりない。気になったら終わりだ。
「いでよ!水!」
ノートは水瓶の穴をこちらに向けた。すると……。
「うわ!?」
大量の水が発射された!
俺は急いで飛び上がり、木を利用して攻撃をかわす。
「何だ何だぁ!?どっからその水出てきたんだよ!?」
飛んで避けたレインも何が起こったかわからないようだ。
「これは愛の証。ぼくに託された神の道具さ!」
「神の道具ぅ!?」
「いちいち相手をするな!」
俺がイライラしている理由。それは俺が焦っているからだ。被害が大きくならないようにということと、俺が水が苦手だからだ。
俺の炎はムジナの水蒸気でしか消せないが、ドラゴンソウルを使いこなすにつれ俺自身が泳げなくなっていった。結果、水も苦手になっていったのだ。
「ぼくを見て!ぼくを見て!悪魔を倒すから!悪魔を滅ぼすから!」
狂っている。
愛のためにここまでするか……?いや、しそうだな……。
止まらない水。飛んでいたり、枝の上に乗っている限りは当たらないが、降りないと進まない。
ここの土地はリメルアの館の方が高くて、俺の家の方が低い。だからこれ以上水が流れてしまうと、泉どころか俺の家まで大変なことになる。これは早く倒して何とかしなくては……!
「水圧で潰れてしまえ!この悪魔!」
どうも、グラニュー糖*です!
現在、「怪奇討伐部完結直前・pixivと同じところまで進める祭り」を開催しております!
こっちでは表紙を載せられないことが本当に残念ですが、楽しんでいただけると幸いです。
本当はイラストを見て読むほうが良いんですけどね!
なお、pixivからそのままドンしてるのでルビやら何やかんやがpixivのコマンドのままになっている場合があります。それを見つけた際はお手数ですがお知らせしていただくととても嬉しいです。もちろんコメントなどもお待ちしております!
ではでは〜