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世にも奇妙なリメイク

作者: 鶴一声

「くだらない毎日。」

毎日毎日同じ電車に乗り、死んだような眼をして会社に向かう日々。朝早くから人込みの電車に乗り、夜は終電間際に飛び込む。部屋に帰ってくだらないテレビを流しながら夕飯を済ませ、疲れから死んだように眠る。そしてまた人込みに揺られる。

終わりのない地獄のような環境で情熱や生きている意味さえ忘れた。

「飛び込んだら、楽になるな…」

ふと気づいたらホームの端で線路を見ている。死んでしまいたい気分だが、その勇気さえない自分の精神を疲れた笑いで現実に戻る。

「…白線の内側にお下がりください。」

列の先頭でまたくだらない仕事の事を考え始め、ホームに電車が近づいてくる。


激しい電車のブレーキ音が止まり、遠くで悲鳴と怒号が聞こえる。

徐々に静かになるなか人生で一番気持ちよく眠れそうな気がする。

「…眠い。」



「カット!!何やってんだよ!」

まどろみの中から急に眩しい光と怒声で起こされる。

「ここはタイミングが命だって説明したよな?」

見覚えのある光景で皆が俺を見ている。

「助監督!!聞いてんのか!」

「ハイッ!すみませんでした!」

混乱する頭を必死で整理しながら返事をする。なんだ?俺、ホームにいたよな?

「じゃあもっかい!シーン16…」

「すみませーん。雨降ってきました。」

「あーもう、いったん中止!道具濡らすなよ!」

皆があわただしく動き撤収している中、必死で考える。服装もスーツではない、なんだか見覚えのある服を着ている。周りを見渡し、ふと思い出す。

「…大学の映研か」

「助監督!!その葉っぱ濡らしたら殺すぞ!」

「ハイッ!今片付けます!」

バケツに入った葉っぱを機材置き場に運びビニール袋をかぶせているとヒロイン役の子に

「疲れてる?」

心配そうな顔で話しかけてきた。

「えーと…なんだか夢を見てるみたいで…」

「大丈夫?編集大変みたいだもんね」

夢にしては感覚がはっきりしすぎている。まるで昔に戻ったような…

「大変なのはわかるけど、無理してまで頑張っちゃだめだよ。」

持ってるお茶を渡しながらやさしく微笑んでくれる彼女。軽く礼を言いながら受け取り、お茶を飲みながら頭の中を整理していく。

ここは大学二年の10月。秋のフィルムコンテストに間に合わせるために皆必死になっている時期だ。

隣で一緒にお茶を飲んでいる彼女は、同じ講義を受けていてこの映画にぴったりだと思い、ひと月かけて説得したヒロイン役の子だ。部内での評判も良く、そのおかげで助監督に任命された。

「助監督君はマジメだからなぁ。」

とりあえず大丈夫そうだと思ったのか彼女がからかいながら言う。

「マジメっていうか…」

「マジメだよ。じゃなきゃヒロインなんてやらないし。」

「それに、皆の熱意もすごかった。私にはそんなものないからなぁ。」

言われてハッとした。確か昔もこんなことを言われたような。

「じゃあもう行くね。無理しちゃだめだぞ。」

笑顔で去っていく彼女に手を振り、後姿を見ながら昔に戻ってきたんだと確信する。しかし冷静に考えると、こんな話をしたのは映画が完成した打ち上げだったはず。


そして徐々に思い出していく。

この映画では佳作がとれた事。次の年監督になった俺は、彼女で映画を撮った事。撮影期間中に恋人になった事。

だが、俺の作品は入選しなかった事。その後微妙な距離感になり別れた事。そのままズルズルと就職し今に続く惰性の毎日…

この頃からの落ちぶれに笑いが出てくる。

夢も情熱もあったこの頃に戻ってきたんだ。今度こそ掴んでやる。



俺はまず、結果のわかっている次に撮るはずだった映画の見直しをした。だが代わりのいい案が思い浮かばない。焦った俺はまだこの時にはなかった小説のワンシーンを元にプロットを書き上げた。死んだような会社員時代に唯一癒され、楽しみにしていた作家の作品だった。

以前撮った作品の時より部員の評価も良く、俺はこれに賭ける事にした。


狙いは的中した。俺たちの作品は最優秀作品に選ばれ、有名な映画会社への道も開かれた。

以前は就職前に別れてしまった彼女ともうまくいっている。


何もかもうまくいっている。作品に行き詰った時には、何度も助けられた小説を思い出しながら作品を作り上げていった。そのうちの何作かは賞をとったりもした。

何年か経ち、いよいよ監督として一本の長編映画を任された。

だが俺は焦っていた。自分から生まれた作品は、どこかで見聞きした物を作っていたに過ぎなかったと気づいてしまった。それから自分が思いつく作品は面白いのかどうかさえ分からなくなっていた。

そんな時、ふと昔こんな時に癒してくれた作家の小説が読みたくなった。

だがネットで調べても出てこない。おかしい。会社員時代にはすでに何作かの小説は発売されていて、ベストセラーにもなっていたはず…


作品も作れず、癒してくれる小説もない事のストレスで不眠症になっていた。

「ねぇ、きっと大丈夫だから少し休んで…」

「うるさい!お前に何がわかるんだ!!」

やっとつかんだはずのやり直しの人生。その幸せが両手からすり抜けて落ちていくような感覚。

「これまでいい作品が出来てきたんだもの。またすぐにいい作品が…」

小説にすがっている自分を馬鹿にされているような気がした。

「うるさい!!こんなもの幾らあったって意味ないんだ!!」

額縁に飾ってある賞状を叩きつけようとする。

「やめて!」

「離せ!こんなもの!!」

「きゃっ」

振りほどいた反動で突き飛ばしてしまい、棚にぶつかった衝撃でうずくまっている彼女を見て我に返る。

「ごめん。危害を加えるつもりは…」

「大丈夫。わかってるから…」

腕を抑えながらよろよろと立ち上がると棚から紙の束が落ちる。古い原稿用紙だった。

「あなたが今度の作品にどれくらい本気かもわかってるつもり。だから私も協力するから!」

そういいながら古い原稿用紙を拾いながら俺に見せてきた。

彼女の差し出す原稿用紙から目が離せなかった。

「この原稿…どうしたんだ?」

「あなたと出会う前、小説家を目指してて書いたものよ。何かいいネタになるかもと…」

そこには見覚えのある名前が書いてある。何度も読んだから見間違うはずがない。何度となく助けてもらい、何度も映像化したあの小説家の名前が書いてあった。

「…俺の映画を見て何も思わなかったのか?」

「あなたの作品は素晴らしかった。私が考えていた物語を作ってくれているような感覚だったわ。そんなあなただから今まで…」

「馬鹿にしてたのか…?」

「え?」

「パクリでしか評価されない俺のことを馬鹿にしてのか!?」

「何を言っているの?パクリなんかじゃ…」

「うるさい!!一人にしてくれ!!」

手が出そうな自分をギリギリのところで抑える。

「…少しでも役に立てるかと…」

そう言い残して泣きながら彼女は出て行ってしまった。

散らばった原稿用紙を見ながら、自分のしてきたことは何だったのか。彼女の才能を奪ってつぶしてきただけだったのか?

「…クソ。やってやる。絶対に成功させる。」

自分だけの力でもやれることを見せつけてやる。



しかし作品は失敗した。

何度も差し伸べてくれた彼女の手を振りほどき、結局手に入れたのは失敗と借金だった。

それでも傍にいてくれる彼女の才能をつぶして、自分の存在がわからなくなった。

「…白線の内側にお下がりください。」

「…そういえば。今日だったな。」

読み物として成立しているか、ベタな展開に対する感想などくれるとうれしいです。

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