第55話 違和感と脅威
長らくお休みしてすみませんでした!
別の短編の方を書いたり、他の賞の短編書いていたりしていました。
また連載を細々と続けて行こうと思います。
最初に気づいたのはエバだった。
戦いの最中でありながら、かすかな違和感があった。
(──気に入りませんわね)
野性的な感が働くアリカと違って、エバは理屈や知識から答えを導き出すタイプだ。
【泥塗れの狼】はハイ領域に生息する。
先達の開拓士が残した情報は叩き込まれ、その情報を元に開拓士は計画を立案し行動する。無論、その情報が全て正しいとは限らない。下手をしたら情報自体に間違いがあり、後々正しい情報に上書きされることだってある。
なぜなら、その種族の生態を解き明かすには膨大な年月の観測が必要になるからだ。
それでも現時点で観測されたある程度高い信頼度のある情報。
その中の一つに、【泥塗れの狼】は複数匹での狩りを得意とするとあった。
チーム全体にその情報は共有され、他にも存在する可能性を考慮し警戒していた。
なのに、こうして戦っていても他の狼が表れる兆候がない。
(ハイ領域から抜け出したはぐれ個体──または他に理由がある?)
何にせよ答えは気に入らないだ。
警戒しすぎても、しなさすぎてもいけない。
今は目の前の脅威に全力を尽くすべきと割り切ることを決めた。
「アリカ。崩しますわ!」
「了解!」
前から練習していたフォーメーションの一つ。
多彩な精霊術を使用できるエバが敵の隙を作りアリカが仕留める単純なもの。
無色ゆえに精霊術の出力や威力は他の者より劣るが、精霊術を操る精度は誰にも負けない自信がある。
そして、相手の嫌がることを見抜きやることにも自信がある。
「私を甘く見たこと後悔なさい!」
アリカの攻撃のみを警戒していた泥塗れの狼。
自分の霊球は嫌がらせ程度でしかないと思い込ませた甲斐があった。
展開する霊球──その最大数50個。
大ダメージにならない霊球でも数が多くなればどうだ?
答えは今示される。
泥塗れの狼に多数の霊球が迫る。
主に顔の付近を狙った霊球は破裂し視界を塞ぐ。さらには破裂音により聴覚すら妨害するおまけ付きという凶悪な仕様。抜け出そうと走っても無駄だ。まだまだ残弾数はある。
「今ですわ!」
「任せとけ!!」
アリカが態勢を崩し足止めされた泥塗れの狼に迫る。
この状態で逃げ切るのは不可能。
「うおおぉぉぉぉぉ──────!!!!」
アリカの渾身の思い切り振りかぶった全力の斬撃。
首元まで食い込んだ瞬間、勝ったとエバは確信した。
だが、
「────────────────!!!!!!!!」
泥塗れの狼の咆哮がとどろき異変が起きた。
「んなっ!?」
アリカの足が脛まで地面に埋まった。
そのせいで首を切断すると思っていた一撃が止まる結果となった。
何が起きたかをすぐに推測した。
【泥塗れの狼】は水の精霊術を使用した結果、泥塗れとなることからつけられた名前だ。水の精霊術については、アリカもエバも知っている。水球や噴霧といったものがよく使用され、確かに使った後は水たまりができたりする。
だが、一瞬で液状化するほどの精霊術だと?
舐めていたつもりも油断していたつもりもなかったが、精霊獣の脅威がこちらの想定を上回っていた。
これがハイ領域に生息する獣。
「──アリカ!」
「足がっ!?」
泥沼化した地面に足を取られて抜け出せずにいた。
深手を負ったとはいえ泥塗れの狼は依然健在している。
泥塗れの狼が大きな口を開けた。
「やば──」
エバは反射的に駆け出した。
あの鋭い牙がアリカを嚙み砕くまで助けは間に合わない。
頭ではそう判断している。今の自分に助け出す手段はない。
だけど──立ち止まる理由など何一つない
「──ったく、つくづく危なっかしいな!」
一陣の風が吹き荒れた。
そう思った次の瞬間にはアリカともう一人がエバの隣にいた。
「はっ、お前らよく持ちこたえたな」
アドレット教官。
相変わらずにやついた顔で余裕綽々な様子が鼻につく。
だけど、今だけは助けてくれたことに感謝しよう。
「遅刻する男は嫌われましてよ?」
アドレットは何とも言えない顔をした。




