第53話 焦る心
「ボッシュ、セネムは手筈通りに!」
「わかってる!」
エバの指示に従い、事前に打ち合わせた作戦通りにボッシュとセネムは動いた。
あの短い時間で詳細な作戦なんか立たれるわけがないので大まかな方針だけだ。
機動力と戦闘能力が高いアリカとエバは【泥塗れの狼】を抑える役目。
ボッシュとセネムはエリック隊を助ける役目だ。
「おい、動けるか!?」
「ぐっ……僕は大丈夫だが」
「負傷者三名! 内二名は意識なし。一名は軽傷で意識があります!」
セネムがテキパキと報告を上げてくれる。
いつものおどおどとした様子はなく、人の命がかかった場面だというのに頼もしさすらある。
「荒っぽくて悪いが応急手当をしたら担いで行くぞ!」
「すまない。僕は自分でできるから他の皆を頼みたいっ……!」
「──わかった!」
少しだけ驚いた。
ボッシュの目から見てもエリックは鼻についたところがある男だった。
身分を笠に着て居丈高になるというか。
だが、今はただメンバーの身を案じているリーダーとしての姿がそこにあった。
死なせたくない。
助けたいと素直に思えた。
「セネム! こっちは終わった!」
「私の方も大丈夫!」
「……僕の方も大丈夫だ」
応急処置を終えた二人は意識がない負傷者二名を担ぎ、意識のある一人とエリックは移動できる状態であった。
アリカとエバは戦場をうまいこと移すことに成功したようだ。
今ならば無事に逃げられるだろう。
そして、ボッシュたちは走り出した。
「……この後はどうするつもりなんだ?」
「ハッハッ……基本通りだよ!」
走りながらボッシュとエリックは情報交換を行う。
命が懸かっている緊張感で息が苦しくても必要なことだ。
「この先に狼煙を上げられる開けた場所がある。俺とセネムは火の精霊術使えないから、あんたの力で教官たちに知らせてほしい!」
「承知した。そのぐらいなら、今の僕でもなんとかっ……!」
火起こししている間すら惜しい最中。
負傷者に頼るのは情けないかもしれないがこれが最速最善だろう。
「あんた達をそこまで送ったら俺たちはエバたちの所に戻る! 何か情報があったら助かる!」
「……あれが【泥塗れの狼】とういことは?」
「知ってる!」
ハイ領域に生息する精霊でひよっこの自分たちには荷が重いこともわかっている。
それでも目ぼしい情報が今は一つでも多くほしい。
「他には!?」
「──おそらく、もう一体得体のしれない何かがいるっ……!」
「はぁ!?」
何を言っているのかとエリックを見る。
だが、彼の真剣な顔を見る限り何一つ嘘がないことが嫌でもわかる。
「そいつに僕たちはやられたんだ……!」
「嘘だろ! 最悪な情報だ!!」
ただでさえ【泥塗れの狼】だけでも荷が重いのに、他にも何かいるだなんて予想外もいいところだ。
この情報を早く二人に教えなければと焦ってしまう。
「……本当にすまない。僕たちはここまでで十分だ。君たちは早く戻って彼女たちの助けに戻ってくれっ!」
「あぁ、わかった!」
自分たちの方が辛いだろうがエリックの厚意に甘えることに決めた。
助けに入った自分たちが仲間を失う痛みを負うわけにはいかない。
「セネム! 二人の援護に戻るぞ!」
「うん!」
──二人とも無事でいてくれよ!
ボッシュとセネムは戦場へと向かった。




