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開拓のアリカ  作者: 菊日和静
第1章 少女は開拓士を志す
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第5話 目指すべき強さ

「アリカ。お弁当作ったから持っていきなさーい!」

「ありがとうお母さん!」


 森の探索をすることになって、お母さんがお弁当を作ってくれることになった。

 初日はいきなりで用意ができなかったが、二日目からは野菜とお肉を挟んだパンを用意してくれた。その他は森の果実を調達すればいいので何とでもなる。


「クオンさんもどうぞ」

「助かります。アンゲル夫人」

「いえいえ。娘の面倒を見てもらっているのですから当然のことです」

「今日も娘さんをお借りします」

「お願いします。アリカもしっかりとクオンさんの言うことを聞くのよ」

「はーい」


 お母さんの作る料理はすっごく美味しいのでお昼が楽しみだ。

 イリスはお母さんと似た顔立ちをしていて、綺麗というより可愛らしいと村で評判の美人さんだ。逆に私は髪色なんかはお父さん寄りで、昔はお母さんにちょっとでも似ないかなと内心期待していたものだ。イリスが生まれてからは特に気にしなくなったが。


「それじゃ師匠。今日もがんばろー!」

「あいよ。今日も案内頼むぞ」

「任せてよ! それじゃ、お母さん行ってきます!」

「はーい。いってらっしゃい」


 お母さんの見送りの元、私たちは家を出た。


「それで師匠。今日はどこから案内する?」


 一口に森の探索といっても採取場所によって大分違ったりする。森に詳しい私でも1日で全部を案内し切れるわけがない。それに単純に進むだけでなく調査も兼ねているので必然と1日で調査できる範囲は限られる。


「その前に村の案内を頼んでいいか?」

「いいけど……何で?」

「村の地理を覚えておきてーんだよ。目立つところを2、3箇所頼む」

「わかった!」


 クオンに言われて村の案内をする。

 もちろん、その間も精霊術の鍛錬を行えと言われ練精法を歩きながらする。昨日より多少負担は減ったが、それでもきつい。森に入る前に力を使い果たさないように気をつけないとダメだ。


「昨日よりは時間が増えたな。1分だけだが」

「むぅ〜明日は5分まで増やしてやる!」

「その意気だ。今は練精法の状態と解除した時の反動がきついだろうが、やればやるほど反動が減るから地道に続けることだ」

「が、がんばります……」


 地道とかコツコツとか一番苦手もかもしれない。

 でも、これも精霊術の制御を得るための修行と思い我慢しよう。


「あ、師匠。ここが村のみんなで育ててる麦畑なんだ。私も手伝ってる!」

「ほう。立派なもんだな」

「でしょ!」


 村では色々な作物を育てていて、個人所有の畑もあるが村全体で育てているものもある。麦畑なんかはその一つだ。黄金色に輝く畑は風に揺られながらすくすくと育っていて、もうすぐ収穫期を迎える頃だ。

 村のじっちゃんやばっちゃん達が畑仕事をしていたので、道すがら挨拶したりして見回った。目立つところといってもそう多くはない。村の大人達が集まる集会所とか畑に水をやるための川とか思いつくところを案内した。


「目立つところだとこんなもんかな?」

「なるほどな。他に村で有事が起こった際の避難場所とかはないのか?」

「あるよ。お父さんが働いているお(やしろ)が避難場所になってる」

「どの辺だ?」

「あそこらへん」


 私たちが住む家は村寄りにあるが、お社は山の小高い場所に建っている。雨で洪水が起きた時とか何か災害があればそこに避難するよう言われている。

 私が指差す場所あたりを見て師匠は「あそこか」とわかったようだ。


「そういや神官の家系と聞いていたが、アリカは巫女になるのか?」

「うーん、どうだろ? お父さんからは好きにしろとは言われてる。どうも私ってばああいう畏まった空気苦手で。逆にイリスなんかは期待されてるかなー」

「……確かにお前さんが巫女になってる姿なんかは想像できんな」

「でしょ?」


 自分で言うのも何だが巫女なんて絶望的に向いてない。

 巫女として祭事を取り仕切ったりなんてできる気がしない。


「この村は『精霊信仰』が盛んなのか?」

「うん。特に火の精霊様を祀ってる」

「うん? この村なら水とか土ならわかるが何で火なんだ?」

「えっと、たしかこの辺の土地は豊かだから、それを狙う魔を祓うための『火』を信仰しようってことになったみたい」

「なるほどな」


 これでも神官の家として最低限のことは教えられてきた。

 ……ぶっちゃけ勉強とか嫌で逃げてきた過去は内緒だ。


「アリカはこの村が好きか?」

「好きだよ。当たり前じゃん」

「ははっ、当たり前か。そりゃそーだな」


 クオンは私の答えに笑う。

 どうして笑ったのかはわからないけれど、答えは変わらない。

 村のみんなが好きだ。

 家族みんなが好きだ。

 時々口やかましい時もあるけど、村のみんなは優しいし、一緒に農作業すると楽しいし、時々口やかましいけど家族といると心が温かくなる。


「改めてお前に聞きたいことがある」

「う、うん」


 急にどうしたんろう。

 さっきまでとは打って変わった雰囲気になって、クオンは私を見る。

 目を逸らせない。

 逸らしたらそこで何かが終わる気がした。


「強くなりたいか?」

「うん」

「どうして強くなりたい?」

「妹を──イリスのことを守りたいから」

「どこまで強くなりたい?」

「………っ」


 そんなのわかるわけない。

 クオンぐらい強くと言ったところで、クオンの強さなんかわかりっこない。一生かかって追いつけるかもわかんない。

 じゃあ、私はどこまで強くなりたいんだ?

 わかんない。

 わかんないけど──目指している強さならある。



「理不尽に襲ってくるもの全てから守れるぐらい強く──なりたい」



 イリスを襲ってきた灰色猪がいた。

 あれを倒せるぐらい強くなりたいとは思う。

 けど、あれよりも強い獣が現れたらどうする?

 もっと強くなればいいなんて言うのは簡単だ。

 だから強さに終わりなんてないし、終わり方がわからない。

 それでも私が目指すべき強さは『それ』だ。


「はっ、上等な答えだ」


 クオンは笑った。ただし、獰猛な獣の笑いだった。

 私の背筋が雪が入ったようにぞくっと凍った。


「この村にいる間、みっちり修行つけてやんよ」

「はい、お願いします師匠!」

「……だから師匠はやめろって」

「嫌です」

「何でそこだけ師匠の言うこと聞かねーんだよ」


 何でだろ?

 でもそれ以外の言葉を使うのは何となく嫌だ。

 だから師匠のことは師匠っていう。

 それだけは譲れない。

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