第46話 勝負の結末
エバの目論見通りの順当な結果になった。
こちらのチームの収穫物はアリカが狩ってきた≪将角鹿≫に、ボッシュが採集した山菜やキノコ類。持ち帰りの都合上、獣は一頭だけに留めておいたが、ボッシュの類まれなる選別により価値の高いものが採れた。
持ち帰った時、アドレット教官からは将角鹿は「お、よく狩れたな」と一言だけあり、ボッシュの山菜類には「え、マジ。こんなに?」と軽く引かれていた。
教官目線からでもおかしいのかとボッシュの凄まじさに戦慄した。
何か精霊術の色の適性が『土』であることに関係しているのかと、まじめに思ったぐらい凄いと成果だと思う。なのに、ボッシュは「大したことないだろ。お前の方がすげーよ」の一点張りだ。
アリカから見てもボッシュはどこかずれているとしか思えない。
とはいえ、これで結果は出たことだろう。
「そんなバカな……」
信じられないようにはエリック・ガーランドは呟いた。
落ちこぼれである私たちが、こんなに成果を上げられるわけがないと思い込んでいたのだろう。あちらは、サランクィラ地域で人を襲う狼を2匹と割と簡単に採取できる花、野草を少々といった成果だ。
結果は火を見るより明らかだ。
さらに駄目押しと言わんばかりに。
「アドレット教官。この付近の地形、植生、獣の種類を発見できたレベルで起こしたデータになりますわ。確認お願いできます?」
「おういいぜ。どれどれ」
エバやセネムは安全が確保できた後、チームで割り振られた区域の調査を担当していた。サンクィラ地域は情報が出そろっている場所であるが、こういったデータは1年ごとに変化があるものなので、こういった訓練と一緒にデータも集積している。
「及第点だ。帰ったら学校の調査課に提出していいぞ」
「承知しましたわ」
ぐぅの音も出ないのかエリックは絶句していた。
あちらは調査まで手が及んでいなかったようで、狩猟・採集・調査といったどの面でも負けていると突きつけた形になる。
「さて、エリック。賭けの勝敗についてどういたしますの? 必要でしたら教官たちに裁定してもらってもよろしくてよ」
「……こちらの負けでいい」
「あら素直ですのね」
「……あの成果を見て勝負に異論をつけるほど落ちぶれてはいない」
これはちょっと意外だった。
エリックはこれまでのことから軽薄で意地悪な奴という印象だ。
この勝負に関してもわーわー言われるものと思っていた。
「では、勝者として願い事を聞いてもらいますわね」
「っつ! ……もちろんいいとも」
びくっと肩を震わせるエリック。
当たり前のように勝つものだと思っていたのだろう。負ける想定もせずに「願い事を聞く」と大口を叩いたのだ。
いやはや全くご愁傷様という他がない。
あのエバのことだ。
一体彼らにどんな無理難題を突き付けるものか。
「女遊びに現を抜かさず、もっと強くなりなさい」
毅然とそう言い放ったエバ。
エリックはもちろんアリカ達も唖然とした。
てっきり、こっちに二度と手を出すなとか不快にさせた分殴らせろとか、そんな感じのことを言うのかと思っていた。
いや、女遊び云々に関してはそうなのだが、言いたいことはそうじゃない。
関係を断つというより、むしろ。
「あなた方に望むのはそれだけですわ」
「……僕たちに情けをかけているつもりか?」
「あら、情けなんてとんでもありませんわ」
「だったら!」
「エリック・ガーランド。私たちは──何ですの?」
「っ!……開拓士だ」
「わかっているではありませんの」
そういうことかとアリカ達は納得した。
そうだ。エバの言うとおりだ。
私たちは開拓士で、しかも、たかが見習いにすぎないのだ。
やるべきことは相手を陥れるとか、関係を断つとかそんなことじゃない。
大切なのは──未知の世界を切り拓くことだ。
「エリック。私たちは先に進み続けますわ」
それ以上、エバは何も言わずエリックの横を通り過ぎた。
多分、その後に続く言葉は「あなた方はそのままで良いんですの?」だろう。
まったく、アリカの予想以上にエバはきついことを言ったものだ。
「エバ。あんた最初からこうするつもりだったの?」
「もちろん」
当たり前のようにエバは言う。
「エリックはあれで貴人としての誇りは高い方ですもの。自分の驕りを反省すれば今よりもましな開拓士になることでしょう」
「ふーん、あんなのがねぇ」
アリカとしてはあんな優男が師匠であるクオンやアドレットのように、開拓士として実力を身に着けている未来はあんまり思い浮かばない。
「ねぇ、エバ。あんたに前から聞いてみたかったんだけどさ」
「急になんですの?」
「開拓士になって、あんたは何をしたいの?」
「あぁ、そういえば語ったことはありませんでしたわね」
大抵の開拓士を目指す人間は一攫千金を狙うとか、冒険したいとか、そんな感じの動機になるだろう。
自分は過去に村が害魔に襲われた事件のせいで、みんなが安心して暮らせることができる世界を見つけることを夢見ている。
それでふと気になったのだ。
この苛烈な性根をした仲間が開拓士として何を目指しているのかが。
「未知領域の踏破ですわ」
アリカの背筋がぞくっとした。
現存する開拓士の誰もが足を踏み入れたことのない領域。
それは師匠クオンすらも立ち入ったことがなく、あまりにも情報が少なく謎に包まれている場所。
エバはそこを踏破すると言っている。
つくづく、この女は面白いやつだ。
「あんたには絶対に負けないかんな。エバ」
「そのセリフは私に勝ってからにしなさい。アリカ」
改めてアリカはエバに勝ちたいと決意を新たにした。




