第45話 自分の凄さを知っているのは背中を見る他人である
お待たせしました。4月が忙しくて更新できなかったので、また執筆頑張りたいと思います!
それにしても、こいつらは平穏という言葉を知らないのだろうか?
つくづくボッシュはそう思った。
思い返せば開拓士養成学校の入学当初からそうだ。
顔を合わせればケンカをするわ、何かと張り合おうとするわ──まぁ、主にアリカからだったりもするがエバも煽るのでボッシュの中では同罪だ。
それでもチーム内で互いの技術の切磋琢磨にもつながっている面もあるので、今までは変に止めることもなかったが、さすがに他チームとの競争となると苦言の一つも呈さずにはいられない。
「なぁ、エバ。アリカじゃねーけど、このまんまで本当に勝てるのか?」
「あらボッシュまでどうしましたの?」
いつもながらの澄まし顔でエバは言う。
この勝負に何一つ不安要素などないように。
「そりゃ俺だってチームメイトを見下されたことはむかつくが、相手は開拓士として幼いころから教育を施されたエリートで実力は本物だろ。不安になるなっていう方が無理だ」
主に自分が足を引っ張っているのを自覚しているだけ特にだ。
精霊術では色なしとはいえエバの制御力はずば抜けているし、威力や持続力ではアリカは意味が分からんほど凄いし、二人の影に隠れるとはいえセネムもまた自分よりも精霊術において長けている。
勉学の面でもエバはトップレベルであり、かろうじてセネムとボッシュはそれに食い付く形だ。アリカは勉学面においては劣等生なので言うことは特にない。
そのため、このような実技演習では自分が劣っていると分析し自覚しているのだ。
「ボッシュが何を不安になっているかわかりませんが、私はそう思っていませんわ」
「どういうことだ?」
「私たちは強い──そういうことですわ」
「そ、そうか……」
だから、その理由が知りたかったんだが……。
エバはどうも自信家な面がある。自分の実力に裏打ちされているものとは思うが、それがチームにまで拡大されている節がある。
「セネムはどう思う?」
「えっと、エバが勝てるって言ってるんだから、大丈夫だと思うよ」
「……驚いた。セネムまでそういう認識なんだな」
「うん。だって、エバって考えなしに勝負を挑むような子じゃないから」
「まぁ、それもそうだな」
言われてみれば確かに。
訓練時におけるエバの姿勢を考えれば、事前の情報収集も怠っているわけがないし、今日の演習に向けても個人技以外にもチームワークも磨いてきた。
不安になるよりもまずセネムのように仲間のことを信じるべきだった。
反省せねばと改めて自分の仕事に集中する。
この実地訓練は狩猟と採集がメインであり、ボッシュは採集を担当している。
アリカは斥候として周囲を探索に出ており、エバとセネムは周囲を警戒しつつ時折見つけた小動物を狩っている。
(本当は俺も狩猟をしてみたいが適材適所だよなぁ)
行動範囲や精霊術の適性を考えるとベストな配属だ。
採集より狩猟の方が偉いとかいうわけではないが、女性ばかりのチームで一番弱いのが男である自分というのが何となく情けなくもある。
とはいえ、そんな心情は表には出すことはしない。
(えーと、この山菜はギモヨだろ。こっちは紛らわしい毒草があるから根っこで見極めてと……あー、これは毒草のトトリブカだな)
そんな風に黙々と採集を続けていたらアリカが戻ってきた。
「おーい、みんな! 大物取ってきたよ!」
そう言うアリカを見ると両肩に狩猟した獲物──≪将角鹿≫を担いでいた。
一見すると獲物が大きいのでアリカがつぶされているように見える。
というか、そもそもだ。
「アリカ……。お前斥候してたんじゃねーのか?」
「いやさ、地形把握している最中に丁度出くわしちゃってさ。見逃すのももったいないし、折角だから一狩りしとこうと思って」
「そういうことじゃねーよ!? 危険な獣を一人で狩るなよ! 危ないだろ!?」
「危なくないって。だって、こいつの上位種の≪王角鹿≫も狩ったことあるんだから」
「マジかよ……」
王角鹿といえば学校で読んだ資料によると、大型の体躯に加え、角は鋭く巨木すら貫く大変危険な獣だ。自分たちのような見習い開拓士であれば安全に狩ることを考えれば3人体制ぐらいで狩る獲物である。
「気にしても無駄ですわよ、ボッシュ。アリカを斥候に出した時点で、狩れそうな獲物いたら狩ってよいと許可しましたもの」
「それでこれかー」
だからといって普通はもっと手ごろなサイズを想像するはずだ。
断じてこんなでかい獲物を一人で狩ろうという発想はない。
自分の中の常識が一つ崩れていくのを感じた。
「だから言ったではありませんの。普通にやっていれば私たちは勝てると」
「確かにこれ見たらそう思えるわ」
というかもうアリカだけでいいんじゃないかとすら思えてきた。
「それでそっちはどう? ボッシュの背中の籠の中いっぱいなんだけど」
「あー、こっちはボチボチってとこだな。とりあえず、目につく範囲で見極め方が簡単な山菜とかキノコとか色々採集できたわ」
「さっすがボッシュ!」
「いや、どう考えてもお前の方が凄いからな?」
エバやセネムが周りを警戒してくれていたし、地元の村でも山菜取りは頻繁で行っていたのでお手の物である。見知らぬ薬草とかも学校の資料に見極め方が書いてあったし、先生方にも実物を見せてもらったこともある。
この程度は学校の開拓士見習いなら誰でもできることだろう。
「……自己評価低いのも考え物ですわね」
何か後ろでボソッとエバが言ったが、風の音に紛れてよく聞こえなかった。
◆
その後、ボッシュが取っていた山菜やキノコに間違いがないかを3人で確認していたところ、アリカは冷汗をかいていた。
「ねぇ、セネム。この山菜とかキノコの見極め方の違いってわかる……?」
「うーんと、こっち、いやこっちが毒がない方?」
「……エバはわかる?」
「特徴的にはこっちだと思いますが自信はありませんわね」
「え、エバもわかんないの?」
「資料には書いていたので知識としてはありますわ。ただ、知識と実践がまだ紐づいてないといったところですわね」
「だよね。私も自分のわかる範囲なら自信あるんだけど、初見のものだと自信がないよ」
「……なんでボッシュはあんな簡単に見極められるの!?」
「私が聞きたいぐらいですわ」
女子三人がボッシュの眼力の凄さに震えていた。
ただ当のボッシュは今も黙々と採集を続けており、そのことに何も気づいていなかった。
自分の凄さほど自分が知らないことは多々ありますよね




