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開拓のアリカ  作者: 菊日和静
第1章 少女は開拓士を志す
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第4話 姉妹の語らい

 森から帰ってきてご飯を食べた後、私は力尽きたように寝床についた。

 普段から森に入って山菜を採りに入ったりしているが、クオンから学んだ『練精法』のせいで体感的に倍以上に疲れている感じだ。


「あーつかれたぁ〜……」

「おねえちゃん。大丈夫?」

「うーん、どうにもだめっぽいなぁ」

「そうなの?」

「そうなのだ。修行で体がバッキバキな感じー」

「大変なんだね。……えっと、わたしに何かできることある?」

「あるある。よし、こっちにおいで──おりゃ!」

「わっ!」


 イリスを抱き寄せてぎゅーっとする。

 お布団の上で私の腕の中に収まるイリス。私より4つほど歳が離れているだけあって小さくて温い。イリスとこうしてじゃれあってるだけで今日の疲れが吹き飛ぶ気分だ。


「もう、おねえちゃん!」

「あはは、逆らっても無駄だぞー。お姉ちゃんは修行で強くなったのだ!」


 力を込めて抜け出そうとするイリスの脇をくすぐる。脇に弱いイリスはすぐに笑ってしまって力が抜けてしまうのだ。

 今日は仕事と修行もあってイリスに構ってあげられなかった。

 せめて眠る前にはこうして遊んであげたいと思っている。

 お姉ちゃんとしては当然の役目だ!


「ねぇ、おねえちゃん。今日はクオンさんと何してたの?」

「今日はねぇ」


 イリスに寝物語の代わりに修行や森の話をする。

 妹はまだ6歳になったばかりの可愛い盛りだ。私が外に出て活動的に対して、イリスは性格的には内向的な傾向にある。といっても、私が外に出過ぎるだけで、もしかしたらこれぐらいが普通かもしれないが。

 話しながらふわふわの桃色の髪を手で梳かす。こうして見ると姉妹といっても違いは結構ある。私は赤みがかった髪をしているので、よく炎みたいだねと村のじいちゃんばあちゃんたちによく言われる。あとはイリスは可愛いが私は男の子っぽいなんかも言われる。

 失礼な。私はお姉ちゃんだぞ!


「──やっぱりおねえちゃんはすごいね!」

「ふふーん。そうでしょ?」


 クオンの出した試練に突破して弟子入りになったことや、修行はとっても厳しいく大変だったことを話した。ほんのちょっぴり誇張しているかもしれないが、それはご愛嬌というものだろう。


「でも、あんまり危険なまねしちゃだめだよ?」

「わかってる。師匠もついているからだいじょーぶ。それに、お姉ちゃんがめっちゃ強くなって今度こそ守ってあげるからね!」

「守らなくていいから危ないまねしないでね……」


 妹の心配は嬉しいがさすがにそれは無理だ。

 だって私は妹を守って尊敬されるお姉ちゃんに目指しているのだから!


        ◆


 子供たちが部屋へと戻り夜も更けてきた頃。

 クオンは世話になっているアリカの父であるバランと酒を酌み交わしていた。


「クオン殿。村の名物の酒ですがどうですかな?」

「お、ありがたくいただきましょう」


 トクトクと酒を注がれ、舌の上で転がすように酒を味わう。

 香りと色を味わう酒で飲み込むのがもったいないと思えるほど深く美味いと感じる。ナッツ類と合わせて飲むとより一層酒が美味くなる。

 酒は命の水とはよくいったものだ。

 開拓士として各地を回る楽しみの一つなのは間違いない。

 酒が回り始めると口も回り始め、バランと共に色々な話をする。

 村を救ってくれた礼から始まり、クオンが旅してきた話、近隣の村々の状況などが話題に上がる。打ち解けてからは命の恩人であるので敬語は不要とも言われたので敬語なしで話をするようになった。

 そして、ある程度経つと当然娘の話にもなってきた。


「アリカはクオン殿のお役に立ちましたかな?」

「子供だと思って侮っていたが、森にも詳しく俺の足にも着いて来られる。思っていた以上に探索が捗ったな」


 これはお世辞でもなんでもなく事実だ。

 森に入るまでは弟子にしろとうるさかったが、森の案内自体は子供ながらに詳しく当初予定していた調査が短縮できた。


「それは何より。あの子は昔から活発というかやんちゃで落ち着きが欠けていまして……。妹のイリスが生まれてからは良き姉になろうと努力はしているようですが、それで無茶することもあって心配しない日がない有り様でして……」

「苦労してんな。まぁ、ほれご返杯」

「ありがとうございます」


 短いながらもアリカの破天荒っぷりにはクオンも十分理解している。

 同情と労りの念を込めて酒を注いだ。


「それでバラン。あんたに一つ報告することがある」

「何でしょうか?」

「アリカは精霊術の使い手だ」

「何とっ──!?」


 やはり知らなかったか。

 まぁ、いくら親といえどアリカの全力を出した身体能力を見る機会など、そうはあるまい。それに、おそらく精霊術による身体強化が伸び始めたのはここ数年のことだろう。

子供には子供の世界があり、親が全てを知っているとは限らないものだ。


「事後報告になって悪いが、俺の方で精霊術の基本を教えている。強い力を持っている奴が使い方を知らないのは流石にまずいんでな」

「それは……大変助かります。恩人であるクオン殿にさらなる苦労を負わせてしまい何とお礼を言えばいいのか……」

「気にするな。これも開拓士の使命の一つだ。それに礼なら宿と飯の世話になっているから既にもらっている」


 開拓士は誰もが例外なく精霊術の使い手だ。

 いや、それだと少し違う。

 精霊術の使い手でなければ開拓士になれないのだ。

 この過酷な世界を切り拓くには──強き力が必要だ。

 そういう意味では、アリカが開拓士になる資格は有していると言える。

 ただし──本当の意味で開拓士を目指すのならば、それだけでは足りない。


「田舎の村でありますが開拓士の使命の一端ぐらいは存じております。不出来な娘でございますが何卒手解きのほどよろしくお願いいたします」

「あぁ、任せておけ」


 深々と頭を下げるバラン。

 娘のことを大事にしているのがわかる。

 それだけに、アリカには精霊術をきちんと教え込まなければならないと思う。

 

 なぜなら──アリカと精霊術の親和性は恐ろしいほどに高いのだから。


 物覚えの悪い者なら数週間はかかるだろう基本修行を数時間足らずで覚え、基本のことを何も知らずに身体強化を使っている子供。物心ついた時から我がことのように精霊を感じ、自分の力として認識していたのだから当然と言えば当然かもしれない。

 それだけに、親和性の高さがそのまま危険度の高さを指し示す。


「まさかアリカにそのような才能があったとは」

「使えるといっても所詮は子供だ。制御法を覚えれば特に問題ない」


 バランにはそう言っておいた。

 まさか娘の才能の高いが故に危険など知りたくもないだろう。

 安心させておくに越したことはない。


「──話は変わりますが、調査の方はどうだったのでしょうか?」

「まだ1日足らずだから何とも言えんが……」


 今日のアリカの驚きのせいで印象が薄れていたが、元々は森深くにいるはずの《灰色猪》が現れたことで、森に異変が起きていないかについてクオンは調査を依頼されたのだ。

 この手の調査は数日から1週間程度は様子を見るもので、初日から成果が上がるとは考えていない──のだが。


「いくつかの動物の巣を見つけたんだが、そのどれもが空だった」

「それは……巣立ったということでしょうか?」

「いや、最近まで巣で暮らしていた跡があった。おそらく縄張りを変えらざるを得ない事情ができたんだと思う」

「《灰色猪》もその一環であると?」

「おそらくな。縄張り争い程度ならいいんだが……」


 猛獣の縄張り争いならばいい。

 自然の営みの一部であり、どこでも起こっていることだ。

 一番最悪な状況。

 それは──


「《害魔(ガイマ)》が現れたのかもしれん。警戒だけはしておいてくれ」


 わかりましたと呟いたバランの顔は、すっかりと酔いが覚めていた。

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