第39話 色の適正
■前回のあらすじ
霊操法という力を教えられて特訓が始まりました。
「ふむ──大体の傾向は見えてきたな。エバは遠近両用のバランス型、アリカとボッシュは近距離、セネムは遠距離が得意ってところだな」
霊操法を教えてもらってからやったことは適正の判別についてだ。
何でも練精法は身体強化なので適正も何もないが、霊操法は力を操る関係上で主に距離で適正を分けるそうだ。
その名の通り、近距離型は霊力を操る距離が近いほど力が出やすく、逆に遠距離になると途端に操ることができなくなる。逆に遠距離型は遠い距離にあっても近い時と同じように霊力を操れるといったものだ。
でも、それだけを聞くと──
「アドレット教官。近接と遠距離あるのはわかりましたが──それだと遠距離の方が有利じゃないですか?」
「はっはー! いい質問だボッシュ!!」
ボッシュの言う通りだとアリカも思った。
アリカ自身も狩で弓を使ったりすることもあるので、遠距離の有用性はわかっている。
近距離ならば己が力を十全に扱える一方で危険度が増す。
しかし、遠距離の方は安全な位置から戦うことができるし、戦い方によっては距離を保てばいいので遠距離の方が有利に思えた。
「その答えは当然ながらノーだ! 正しくは『目的』によって変わるだ」
アドレットはそれを否定した。
「例えばだ。戦闘においては距離が近い状態で始めれば近距離型が有利だし、遠ければ遠距離型の方が有利だろう。それにお前ら何か勘違いしているかもしれんが、霊操法は何も戦闘に限って使うものじゃないぞ」
いやいや何を言っているのだ。
戦闘訓練のために学んでいることなのに、それ以外に何かあると言うのか?
「おいおいお前ら。開拓士だろう? 開拓士が戦う相手は──未知なる環境全部だ」
アリカは言われてみてハッとした。
そうだ。最初からずっと言われていたではないか。
開拓士は生き残ってこそだと。
「誰も入ったことがない原生林、足場の悪い大地、寒暖差のある気温、人体に有毒なガス、凶暴な生物。精霊術で霊操法を学んでないと、どれもこれも危険で仕方がねーぞ」
その言葉だけでどれだけ危険なのかがわかる。
これでもクオンと旅をして修行をしてきたのだ。
環境そのものが危険であることなんて百も承知である。
「例えば俺の色性の一つである『風』の場合、洞窟での空気の確保に役立つし、凶暴な生物に襲われた時にも匂いを拡散することができるな」
具体例を挙げられてようやくアドレットの言いたいことがわかった。
遠近に有利不利などない。
むしろ、目的に応じて使いこなすことが肝要なのだと。
「何度も口を酸っぱくしていうが、お前らが精霊術を学んでいるのは戦うためじゃない。生きるためだ」
そうだ。忘れてはいけない。
生きるために──学んでいるのだ。
「それを忘れるんじゃねーぞ!」
『はいっ!!』
威勢よく全員が気を引き締めて返事をした。
「よーし、じゃあ次はお前らの『色性』について調べんぞ」
その後は、いつもの調子に戻って次なる霊操法の特性についての説明を聞く。
「アドレット教官。またさっきの精霊具で調べるんですか!」
「いんや。次はこいつを使ってもらう」
先ほどはアドレットが持ってきた精霊具と言われる道具を使って計測をした。
近距離は歯を潰したナイフに霊力を込めて岩を試し切り、遠距離ならば杖型の道具に霊力を込めて光の球が出て放てるかを試した。アリカはナイフでスパッと岩を切れたが、遠距離型では光の球出るには出たが、せネムやエバと比べると球が小さく光が鈍かった。
「じゃじゃーん! これが『精霊石の腕輪』だ!」
宝石がいくつも散りばめられた腕輪を見せられた。
こう言っては何だが、さほどかっこいいとは思えないデザインだ。
「いや、じゃじゃーんって言われても何なんすかそれ?」
「ったく情緒がないねぇボッシュは。思春期か?」
からわれてボッシュはプイッと顔を逸らした。
「ま、やるこた簡単だ。さっきと同じく霊操法で霊力を込めるだけ。それで腕輪の宝石が光った色がお前らの適正になる」
「へぇー面白そう! 私やりたい!」
「よし。じゃあアリカからやってみな」
自分の『色性』が何なのかわからないアリカは真っ先に立候補した。
アドレットから腕輪を渡されて装着する。
そして、先ほどと同じように霊力を込めてみた。
「ふん!」
「どれどれ──」
霊力を込めた瞬間、すぐに宝石から光が溢れた。
アドレットがどれが光ったのかを見て、
「宝石の色が赤・緑・白だから、アリカの色性は『火・風・陽』だな!」
「おぉ〜そうなんだ!」
アリカの色性を教えてくれた。
アドレット曰く、宝石の色は次の色性に対応しているとのことだ。
赤(火)、水(青)、風(緑)、土(茶)、陽(白)、陰(紫)、命(金)。
火の精霊信仰をしていた村で暮らしていたので、火に適正があってちょっと嬉しかった。
その次はボッシュに腕輪を手渡した。
「俺は茶色だから『土』であってますか? てか、一色しかないのかよ……」
「何落ち込んでんだよ、ボッシュ。一色ってことは、その色のスペシャリストになれる可能性があるんだぜ。むしろ、やることが定まっていいこと尽くめだろうが!」
「うーん、そんなもんすかね」
単純に色がたくさんある方がいいと思っていただけに、そういう考え方もあるのかと目から鱗だ。
とはいえ、ボッシュはもっと色が欲しかったらしくちょっと落ち込んでいた。
「えっと次は私だね。私は青・緑・金だから、水・風・命ですね」
「これまたセネムらしい感じだな! 優しく穏やかな色性だ!」
「あ、ありがとうございます」
セネムは命育む森のようイメージなのでぴったりの色性だ。
宝石が光って安心したのか、セネムはホッとした様子を見せている。
「最後はエバだがどうする?」
「私は不要ですわ。すでに自分の色性はわかっていますもの」
「ふーん。あんたのことだから、どうせ何色もあるんでしょ?」
あれだけ色々なことができるのだ。
エバなら全色光ってもおかしくはないと思っての発言だったが、
「残念ながら外れですわ。私の色性は『無色』ですもの」
「は……?」
アリカの予想は大いに外れた。
無色とは色がないこと……で合っているのか?
それとも精霊術の分野において何か特別な意味があるのだろうか。
「なるほどな。無色とはまた珍しいことになったもんだ。となると、お前の特訓メニューを見直す必要ありそうだな」
「えぇ、お願いしますわ」
わかっている二人は説明を省いて話を進めていた。
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ。無色って結局何なのよ!」
「その名の通りですわ。無色とは色の適正がない者、つまり、霊操法の色性付与ができないのですわ」
「えっ……?」
頭が打たれたかのような衝撃を覚えた。
そんな馬鹿なと反射的に思った。
傲岸不遜で自信満々を絵に描いたような女。
それがアリカが思うエバという人間である。
なのに無色だなんて。
それじゃあ、まるでエバが──
「アリカの思っている通り、私は精霊術の使い手として他の人より劣っています」
「……っ!?」
いけない。顔に出ていたかと顔を背けた。
まさかエバ自身の口から『劣っている』発言が出るとは思わなかった。
それを聞いて、アリカは嫌な気持ちになった。
聞きたくないことを聞いたような。
認めたくない。受け入れたくない。信じたくない。否定したい。
お腹の中で気持ちがぐるぐると回る。
何かを言おうとしても言葉にならず空回りしていた時──
「──ですが、開拓士として劣っているとは思っておりませんわ」
真っ向からエバ自身がそれを否定した。
精霊術の使い手としては劣っていても、開拓士として劣ってはいないと。
そんなエバは挑発的な笑顔でアリカに向かって言う。
「だって、その証拠に試合の勝率は私の方が上ですもの」
「んなっ!?」
「悔しかったら私より強くなることですわ」
ふっと鼻で嗤われた。
忘れていた。
こいつはこういういい性格をした女であることを。
エバが無色であるとか適正とかもうどうでもいい。
ぷるぷると震え、怒りに燃えてアリカは指を突きつける。
「絶対あんたより強くなってやるっ!!」
「期待しないで待ってますわ」
決意を新たにアリカは強くなろうと決めた。




