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開拓のアリカ  作者: 菊日和静
第二章 開拓士養成学校編
36/56

第36話 少女たちは殴り合う

■前回のあらすじ

アリカとエバのリーダーを決める模擬試合が始まった。

 何度か攻撃を喰らっている内に何となくわかってきた。

 エバの攻撃を完全に躱すのは──不可能だということに。

 腹立たしいことにエバの地面を滑る精霊術を攻撃に織り交ぜられるとアリカは手も足も出ない。

 なまじ身体能力や動体視力に長けているせいで、反射的に反応してしまってテンポがずれてしまう。

 この一戦の間に対応するのは無理だ。

 ならば、やることは決まった。

 いや、覚悟が決まった。


「これでお終いですわ!」


 躱せないのならば喰くらってやればいい、だ。

 ダメージが足にきているふりをしてエバの渾身の一撃を誘う。

 そして、


「──あんたがね!」


 アリカの間合いに入ったエバの手をガシッと捕まえた。

 一撃を入れては離れるエバを捉えることは難しい。

 だが、渾身の力を込めたものは別だ。

 最大の力を出す代わりに隙もまた大きくなる。

 アリカはその一撃に耐えられるように身体強化の力を高め倒されないようにした。

 もしエバの力がアリカより上だったら、それで終わりになる博打。

 その賭けにアリカは勝った。


(これで決めてやる!)


 距離が近いため木剣を手放して拳を握る。

 エバの脇腹を目掛けて思いっきり殴ろうとする寸前──イリスの顔が浮かんだ。

 5年前に村が襲われてアリカが精霊術を暴走させ幼きイリスに怪我をさせた。

 アリカの──心の傷(トラウマ)


「────っ!!」


 当たる寸前にアリカは身体強化の力を解いてしまった。

 あれでは大したダメージになんてならない。

 事実、エバは両の足でピンピンとして立っている。

 しまった。千載一遇のチャンスを不意にしてしまった。

 すぐに体勢を立て直さないとエバはすぐさま反撃をしてくる。

 そう思っていたのに。

 予想に反してエバは立ち止まったまま、こちらを睨んでいた。


「──ふざけてますの?」


 エバは木剣を放り投げてこちらに向かって歩いて来た。

 そして、アリカの胸ぐらを掴んだ。


「私に手加減とか何様のつもりですの?」

「ちがっ!?」

「どういうことかと聞いてますの!」


 反射的に否定しようとしたが何も違わない。

 アリカはエバがイリスのように傷つくのを恐れて力を抜いたのだから。

 静かに怒るギラギラした瞳のエバを見て口籠る。


「あなたがどういうつもりか知りませんが教えて差し上げます」


 エバはアリカを離して数歩下がり、自分の胸を指差した。


「あなたがごときの一撃が当たったところで──どうということもありませんわ」


 先ほど手を抜かれた場面からやり直せとエバは言う。


「私に一発入れてごらんなさい」


 どこまでも上からで、どこまでも傲慢に。

 エバはアリカに言い放つ。

 お前より自分の方が格上であると。


「うぐっ……」


 頭ではわかっている。真剣勝負で手を抜いた自分が悪いと。

 だが、どうしても本能的な部分で怯えてしまっている。

 獣相手では問題なく力を振るえていたのに、人に対して力を使うことに躊躇している。

 また、イリスを傷つけた時のようになるのではないかと。

 そして、数秒後。


「──あなたにはガッカリしましたわ」


 エバはため息をついて力を抜いた。


「情けない。あなたが開拓士になりたい気持ちなんてその程度ですのね」


 興味を失ったかのような目をしてアリカを見る。

 まるで全てを見透かしたかのように。

 アリカにだって言い分はある。

 けれど、そのどれもが言い訳でしかなく、エバに言う気はなれなかった。

 それよりも。

 そんなことよりも。

 エバに失望され哀れまれた。

 その事実の方がアリカにとって重要であった。

 頭の中がカーッと血が上り、顔が恥で火照り、腹の中が怒りでぐつぐつと煮えたぎる。

 そもそもだ。

 どうしてこんなにも言いたい放題言われなければならないのだ。

 情けないだの。その程度の気持ちでしかないだと。

 本当に。本当に──ふざけるな。


「おい、待てコラ。誰が情けないだ」

「あなたのことですわ──ビビリのアリカさん」


 ピキピキとひび割れるのが感じる。

 心の傷が壁となり、無意識に感じていた恐れという壁。

 それが今──完全にぶち壊れた。


「絶対後悔させてやるっ!!」

「さっさと一発入れてからそのセリフ言ってもらえませんの?」


 先ほどと同様どころではない。

 それ以上の力を込めた身体強化を行う。

 昔の暴走とは違う意識的に制御ができたアリカの全力。

 その拳をエバに打ち込んだ。


「オラァ!!」


 エバは宣言通り防御も躱すこともすることなかった。

 結果──エバは吹っ飛ばされることはなかったが、それでも10メートル近くズザザっと身体ごと後ろに持って行かれた。

 恐るべきはどちらだろうか。

 人一人を拳だけで下がらせたアリカの力。

 その力を真正面から受け止めたエバの精神力。

 周りで見ていたボッシュやセリムはその様子をハラハラとして見ていた。

 さすがのエバでもこれを喰らって無事でいられるものか。

 これは勝っただろうと思いきや、エバは倒れることなく立っていた。

 だが、


「──ふん。やっぱり大したことありませんわね」

「嘘つけ!?」


 足が膝から震えているのはから大したことないわけがない。

 なのに、エバは持ち前の自尊心で態度に見せない。

 ここまで行くと敬服の気持ちしか湧かない。


「嘘ではありませんわ。さっさと続きをしますわよ。かかってらっしゃい」

「あーったくもう! 絶対負かしてやる!」


 木剣は捨てたので二人して拳の戦いに切り替わった。

 殴っては殴られ。

 殴られては殴りの応酬。

 アリカは今までの蓄積したダメージや先ほどの全力のせいで全開とは程遠く。

 足に来ているエバも精霊術の滑るような移動法はない。

 もはや、二人の意地の張り合いである。


「いい加減負けを認めなさいよっ!!」

「それはこちらのセリフでしてよ!」


 絶対にこいつに負けたくない!

 その一心で二人は戦い続けていた。

 そして、



「はーい。お前らそこまでな」



 アドレットが二人の間に入って拳を受け止めた。


「おいおい、模擬試合だって言ってんのにな〜んで喧嘩やってんだよ?」


 もはや模擬試合としての体をなしていない、二人の意地の張り合いの喧嘩。

 止められて当然であった。

 しぶしぶと二人は模擬試合をやめた。

 その様子が面白かったのかアドレットは笑っていた。


「くくく! 本当おもしれーな、お前ら。んで、アリカ。どうだったよ?」

「どうって……何がですか?」


 あまりにも漠然とした問いに返す。

 どうと言われても、ケンカが不完全燃焼で終わってしっくりしていない。


「おいおい忘れたのかよ。これはエバがリーダー足るかを知る試合なんだろ」

「あ」


 忘れてた。

 確かに最初はそういう目的で始めた試合だった。


「エバはリーダーでいいか?」


 そんなことを言われても。

 答えなんてもう出ている。


「いい……です」


 ぷくーっと頬を膨らせた顔でそう言った。

 アドレットは再度大笑いした。


拳系少女は好きです。

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