第35話 トライアンドエラー
■前回のあらすじ
エバとの戦い条件について話し合いました
様子見なんてアリカはしない。
初手全力がアリカの信条であり、今まで生きてきた上で心がけていたことだ。
半端に様子をしようものなら痛い目を見てきたのだ。
主に師匠であるクオンのせいで……。
そんなクオン曰く「アホか。分析能力がない、それを活かす頭もないお前が様子見したところ何の意味もねーだろ」と言いたい放題言われたものだ。
しかし、全くもってその通りだったせいで反論もできなかった。
距離をとって相手の出方を伺う?
とんでもない。
相手が何をするのか予測がつくか、何かしてきても対処できるのかなんて今のアリカにはできない。
だから、結局のところアリカにできることは限られている。
全力全速で相手の距離を詰めて戦う。
それだけだ。
「ハッ──!!」
一歩目から自慢の脚力を活かして一気にエバに迫る。
そのスピードを乗せたまま上から下へと木剣を振り下ろす。
並の獣ならばこの一撃で昏倒して終わる。
お互いに精霊術の身体強化ができているのならば、これで判断できるはずだ。
目の前の相手が全力を出して問題ないのかどうかを。
そして、
「私も舐められたものですわね」
アリカの耳元にだけそっとエバの声が届いた。
ぬるりとした感触が剣を通して伝わった気がした。
エバはアリカの剣を受け止めるでもなく、優しくそっと受け流した。
空を斬るかの如くアリカの渾身の一撃が外されたが、アリカには驚きはなかった。
むしろ、こうなる予感すらあった。
(──そうこなくっちゃね!)
無意識のうちにアリカは笑った。
全力を出すのに足り得る相手との戦い、その高揚感に体が歓喜した。
「今度はこちらの番ですわ」
エバはアリカの剣の技後硬直の一瞬を見逃さず、剣を的確に胴に打ち込んできた。
だが何一つ問題ない。対処法は心得ている。
「甘い!」
アリカは振り下ろした剣を切り上げてエバの剣を止めた。
この五年間の修行ではクオンに何度もやらてきたパターンの一つであり経験済みだ。
しかし、エバの追撃は止まらない。
カンカンカンと何度も木剣の撃ち合う音が響く。
どれもこれも鋭い一撃であり、一つ間違えばアリカの体に打ち込まれてもおかしくはない。
だが、身体能力に一日の長があるアリカの方が肉体能力的には上であり、エバの攻撃を防いでいる。
最後にカン!と大きく響いてお互いに距離を取る。
(やっぱり強い、か)
あれだけ大口叩いて弱いわけないとは思っていたが、ここまでとは思わなかった。
これでもアリカは修行の仕上げに王角鹿といった、凶暴な大型獣を単独で狩るまでには成長している。
開拓士養成学校に入学して、多少なり時間も経てば自分がどの程度の位置にいるのかもなんとなくはわかっている。
その上で、アリカはエバを自分と同等かそれ以上の強さを持っていると判断したのだ。
だが、その強さの性質はまるで逆だ。
アリカが燃え上がる炎のような強さであるのに対して、エバは静謐で理性的な強さ。
剛に対しての柔といった感じだ。
(でも私の方が速いし一撃の強さなら上だ)
この短い間だけでわかったことはエバは戦闘技術や思考で自分より上であること。
であれば自分の長所で戦った方が勝ち目がある。
そんなアリカの考えを見透かしたようにエバは言う。
「接近戦なら私に勝てる──とでも思ってそうですわね?」
「思ってるけど、それがどうかした。あぁ、私にビビってるなら距離とって戦ったらどう?」
「その思い違いを正して差し上げますわ」
言うなりエバは先ほどのアリカと同じく一直線に向かってきた。
速い──がこの程度ならばクオンや獣との戦いで経験済みだ。
今度は逆にエバの一撃を捌いて決めてやると息巻く。
だが、
「なっ!?」
エバは剣を振り下ろそうと足を止めた瞬間──そこからさらに移動をした。
スーッとまるで氷の上を滑るかのように。
完全に虚をつかれアリカは、エバの木剣の一撃を受けてしまった。
「これで終わりじゃありませんわよ」
「ちっ!!」
考える間もなくエバの攻撃が続く。
何が何だかよくわからないが木剣で防ぐタイミングがことごとくずらされる。
相手が立ち止まったのに合わせて防ごうとしたのに、さらにそこから一歩滑ったかのようにエバが動く。
かと思いきや、アリカが思った通りにも動き、実際と予想がごっちゃになって混乱が加速する。
エバの木剣が当たり、防ぎが繰り返され着実にアリカにダメージが積み重なっていく。
このままではジリ貧だと、クオンが言っていたことを思い出す。
相手が予想もつかない動きや攻撃をしてきた時は──距離を取って逃げろだ。
エバの攻撃の隙を掻い潜ってアリカは脚の身体強化を上げて一瞬で距離をとった。
「多少は頭も働くようですわね」
「当たり前だごらぁ!」
ダメージはあるが動けないほどではないが、これ以上積み重なるとまずい。
エバのあの謎の動きにアリカは翻弄されっぱなしだ。
(まず間違いなく精霊術が関係してるでしょ。多分、身体強化とは違う別の力。地面の上を滑るみたいな力だ)
でなければあんな動きに説明がつかない。
どうやっているかはわからないが、そう結論づけた。
問題はどうやってあの動きに対応するかだが、全く思い付かない。
しかし、アリカの顔には悲壮感や悔しさはない。
むしろ──笑っていた。
なぜなら、
(まっ、つまり、いつも通り失敗しろってことでしょうが!)
アリカは様子見や分析なんてできない。
アリカにできるのはいつだってトライアンドエラーだからだ。
脳筋は失敗をしまくっていつか成功するんです。
そう、エルデンリングのボス戦のように。




