第33話 彼女は振り返らない
久々の更新です。GWを駆使してエルデンリングをクリアしました。長かった…。
というわけで前回のあらすじ。
リーダー決めで議論した結果、アリカがエバに勝負を持ちかけた。
まったく面倒なことになった。
リーダー決めなんてすぐに終わるものかと思っていたのにとため息をつきたくなる。
アリカ・アンゲルと勝負することに決まった。
自分への敵意丸出しで感情を隠そうとしないところは逆に好感すら覚える。
神宮院家の名前を出しておけばある程度はスムーズに進むと思っていたが、権力関係にあそこまで疎いとは思ってもいなかった。
とはいえ、
「想定の範囲内。いえ、むしろ予定が早まったと考えるべきでしょう」
いつか意見が衝突するなんて目に見えていた。
折を見て意図的にやろうと思っていたので手間が省けたぐらいだ。
最悪なのは、チームとしての行動中に決定的に意見が衝突して失敗すること。
それならば最初にガツンと揉めて後腐れなくしておいた方が良い。
そう考えながら廊下を歩いていたら、
「ははっ。それなら俺も教えた甲斐もあったってもんだ」
「──アドレット教官」
驚きは顔に出さなかった。
さすがは現役の開拓士の教官とでも言うべきか。
声をかけられるまで足音一つ聞こえず呼びかけられるまで気づかなかった。
担当教官であるが飄々としていて中々に油断できない。
「私に何か用でもありますの?」
「そう邪険にしなさんな。ただのちっとした雑談だよ」
「あら私とお茶会でも希望でしたの」
「さすがはお嬢様。そこまでかしこまったもんじゃねーよ」
話を切り上げるふりだったが、どうしても話したいようだ。
仕方がないとエバは歩きながら話に付き合うことにした。
「あいつらとは上手くやれそうか?」
「上手くやりますわ。私がリーダーになりますので」
「かっかっか! すげー自信だな」
何が面白かったのかアドレットは笑った。
少なくともあのメンバーとチームを組もうと考えたのは、相性や実力を全て考慮したからだ。
上手くやれないはずがないが──アリカのことを考えると胸が若干ざわついた。
これ以上考えると変な方向に行きそうだったので話を変える。
「私からも質問がありますわ」
「おう何だ?」
「先ほどのリーダーの資質──どうして全てを語りませんでしたの?」
「あぁ、それか」
リーダーに必要な能力を『生きて帰る能力』とはよく言ったものだ。
あの時は誰もが納得して聞いていたが、アドレットは全員で生きて帰るとは言っていない。
そのことにエバだけは気づいていた。知っていた。
誰かを犠牲にしてでも生きて帰る可能性を──選ぶ。
その覚悟もリーダーには必要となる。
エバはそれを含めリーダーになることを選んだ。
立場ある者が責任を負うのは当然だからだ。
だから、アドレットが何故あの場でそれを言い出さなかったのか少し気になった。
そして、
「ひよっ子がまだそんな先のこと考える必要ねーからだよ」
アドレットはあっけらかんと言う。必要がないと。
「知識と経験は違うんだよ。お前さん含めてな」
「私を愚弄する気ですの?」
「突っ掛かんなよ。ただの事実だ」
むっとしたエバを嗜めるようにアドレットは続ける。
「お前さんらが他人の命を勘定して動くのはもうちっと先の話ってだけだ」
先というのはつまり、開拓士になってからということだろう。
「どうせこの先嫌が応にも経験することになるからな」
「経験ではなく歴史から学ぶことだってできますわ」
「かっかっか。俺もそう思ってたよ」
そう思っていた。
アドレットの顔は笑っていたのに少しだけ寂しさが滲んでいた。
そのせいでエバは自分の言葉の浅さを恥じて口をつぐんだ。
「見習いの内は自分の命を優先でいいんだよ」
きっと、アドレットはこれだけを言いにきたのだろう。
経験ではなく知識でしか知らず、気負っていた自分に教え諭すために。
本当に腹立たしい。
「期待してるぜ。リーダーさん」
「……言われるまでもありませんわ」
それだけ言ったらアドレットは手を振って去って行き、エバは振り返らず先を歩いた。




