第32話 命の責任
大変お待たせしまして申し訳ありませんでした。
3月は私事で立て込んでいたのと、4月はエルデンリングってやつが悪いと思います。
■前回のあらすじ
リーダーを決める話が出て、ボッシュが胃痛になった。
チームリーダーは誰かと問われてアリカは真っ先に思いついたのはただ一人だ。
そんなもの考えるまでもない。
「ボッシュでしょ」
「私ですわ」
「まだ決まってません」
「あ、あはは……」
順にエバ、アリカ、ボッシュ、セネムが言った。
全員がバラバラな答えだった。
「おいおい、お前ら。ま〜だリーダー決めてなかったのかよ?」
その答えに担当教官になったばかりのアドレットは呆れる。
アリカたちがチームを正式に組んで日が浅いどころか昨日発足したばかりだ。
当然ながらリーダーが決まっても仕方がないのだが、
「は? 何であんたがいきなりリーダーやるつもりでいんのよ?」
「私が一番適任だからですわ」
一人だけ自分がやるのが当たり前とばかりにエバは言う。
あまりにも太々しい態度にまたもアリカはカチンときた。
「そうじゃなくて私たちに相談もなしに何決めてんのって言ってんのよ!?」
「今聞かれたから答えただけですわ。どちらにせよ私がやるから安心なさい」
「どこに安心できる要素があんのよ!?」
──本当に何なんだこいつは!?
人の話を聞かないどころか、聞いてなお自分の意見を押し通してくる。
開拓士養成学校に来て以来、勉強以外で初めて頭が痛くなった。
「大体ねぇ。今までボッシュが仕切ってたんだからボッシュがリーダーでいいでしょ!」
「本人がやるとは言ってないようですけど?」
「はっ、聞かなくても今までの付き合いでわかるわ。ボッシュは──やる男よ」
「待て待てアリカ。勝手に決めるな!? 俺はやるとは一言も言ってねーよ!」
ボッシュの答えに、むしろアリカの方が「えっ!?」と驚いた。
「え、ボッシュはリーダーやんないの!?」
「雑用とかそういうのはともかく指揮をするとなると話は別だ。俺がアリカがリーダーをやった方が良いって言っても納得できるか?」
「む、むぅ」
正論を返されて言葉に詰まった。
自分がリーダーをやる。
そんな姿を想像したが微塵もできる気がしない。
師匠であるクオンとの修行の日々は、個人鍛錬のみで集団を率いることなんてしたこともない。
「だけどアリカの懸念もわかる。俺らはエバについてはまだ適任かどうかの判断材料がない」
「当然の懸念ですわね」
「アドレット教官。リーダーはすぐ決めないとだめですか?」
「んにゃ。数日間なら待てるぜ!」
「わかりました」
さらりとこういうことができるボッシュ。
場を丸く収める能力──いわゆるお母さん力が凄まじい。
リーダーに向いていると思うんだけどなぁと心の中で思った。
「じゃあ、エバ含めて誰がリーダーが適任か話し合おうぜ。それなら納得できるだろ?」
「ま、まぁ、それなら私もいいけどさ」
「うん。私もそれでいいよ」
「不要ですわ。私がやる。それで十分ですもの」
そして、またもやエバからの反論というか主張。
納得できる方法を提案したボッシュも、これにはさすがに唖然としていた。
──本当いい加減にしなさいよ!
「あんたねぇ……!?」
「はい、お前らストーップ。ったく、若いってのはいいねぇ」
一触即発の空気。
見兼ねたアドレットがすかさず止めに入った。
「話し合いすんのも結構だが、ボッシュ。今回のはお前が悪いぞ」
「お、俺ですか!?」
まさか提案したはずのボッシュが教官から責められた。
「話し合いは大いに結構だが、そもそもお前ら何でリーダーが必要かわかってんのか?」
「う……それは」
エバ以外の全員が言葉に詰まった。
複数人で行動をするにあたりリーダーが必要なのはわかるが、確かに何となくでしか理解してなかった。
「わかってねーだろ。この中でわかってんのそこのエバだけみたいだからな。だから、真っ先にやるって言ったんだろ?」
「教官が簡単に答えを教えるのは感心しませんわよ」
「言うね〜! だが、俺は教官だから教える立場にあるんだわ」
責めるように言うエバに、「かっかっか!」とアドレットは気にせず笑った、
「じゃあ、ボッシュ、アリカ、セネム。お前らリーダーやんのに必要なもんって何だと思う?」
わかってないアリカ達に向けてアドレットは聞いた。
三人は「うーん」と悩み、まずアリカが答えた。
「みんなをグイグイ引っ張る力!」
「情報処理と指揮能力だと思います」
「えと、皆からの信頼かな……」
各々が抱くリーダーとしての能力。
見事にバラバラな物であった。
「うんうん。確かにその辺りも必要なとこだな。だが、残念ながら不正解だ」
アドレットから不正解を突きつけられる。
では、何が正解なんだと不満顔を浮かべるアリカ。
そもそも、こんなのに正解なんてあるのかとすら思う。
そして、
「答えは至ってシンプルだ──生きて帰る能力だ」
アドレットは開拓士としての正解を言った。
「リーダーは隊員の命を背負ってんだよ。自分の指揮一つで隊員が死ぬかもしれない。生きて帰るにはどうすればいいか。それを一番に考えられる奴がなるべきなんだよ」
あまりにも重い言葉。
なのに軽々しく言うアドレットのそれが真実であることを教えてくれる。
「んで、お前ら──仲間の命の責任取れるか?」
シーンと静まり返った。
もしも自分の指揮一つでみんなが死んだら。
そう思っただけでゾッとする。
「そ……んなの。取れるわけない」
「おう、その通りだ。命の責任なんて誰にも取れない。わかるか? 責任ってのは取るもんじゃねぇ。果すもんなんだよ」
今度はその通りだと言う。
リーダーは命の責任を思わなければならない。
けれど、誰にも命の責任なんて取れない。
みんなを生きて帰すために責を任され果たすもの。
一見、矛盾している答えなのにしっくりきた。
「だから、リーダーは隊員の命を背負ってやれる奴がいいんだよ」
ハッとアリカはエバを見た。
彼女は何も言うことなく佇んでいた。
「エバが言ってたのはそういうことだ。話し合ってリーダー決められるのか?」
つまり、そういうことか。
初めからエバは重たい責任を全てわかった上で──やると言っていたのか。
確かに話し合いなんかで決められるわけじゃない。
だが。
だがしかしだ。
それでも──アリカは思う。
「おい、エバッ!!」
考える前に叫んでいた。
「はっきり言って私はあんたがいけ好かないし信用もしてない!」
この胸に抱いていたモヤモヤがわかった。
何にも言わなかったエバに、何にもわかっていなかった自分に。
心底、怒りを抱いていたのだ。
「あんたが命を預けるに足るか──私と勝負しろ!!」
自分は馬鹿だから。
ぶつかることでしかわからない。




