第28話 訓練の日々:ボッシュ
あけましておめでとうございます!
更新頻度を上げることが今年の目標です。笑
ボッシュ・グラハムは苦労人である。
少なくとも本人ではなく、周りはそう思っている人が多いだろう。
出会った期間こそ短いが、ボッシュは気が合いそうなアリカとセネムとチームを組むことができた。
二人とも女の子であり、思春期真っ只中の青年になりたての男子としては多少なりドギマギするが、そこはあまり気にしないことにしている。開拓士で一緒に旅するならば、男女の差など気にしていたら身が持たないと教えられたからだ。
といっても、アリカは地元の田舎特有の空気を感じて気安いし男友達といる感じに近い。セネムは物怖じする性格なので、どっちかといえば妹の世話を焼く感覚に近い。
それに開拓士の訓練も相まって恋などに現を抜かしている場合ではないのだ。
──むしろ、そんなことを考えている暇がねえぇぇぇぇ!!!
本当その通りである。
開拓士養成学校の入学を無事に終えて、すぐさま訓練が始まった。
普通の学校ならばセレモニー的なものがあるのだろうが、そこはいわゆる職業訓練学校。見栄えより効率重視で、衣食住が揃えば十分だろと言わんばかりである。
ピスコルは1年に1回だけ入学する時期があり、おおよそ1000ぐらいの人数が入学する。
犯罪歴があるなど経歴でよほど問題がない限りは門戸が広く開かれている。
開拓士になって一山当てたいと願う者、家庭の事情から目指す者、未知の世界を知りたい者。様々な人間の夢と欲望が集うのがピスコルなのである。
そして、訓練が始まり1週間が経ち──300人ほど辞めた。
最初の3日間ぐらいは酷い有様であった。
早朝のマラソンと筋肉トレーニングで嘔吐し、昼の野外訓練では一歩も動けない屍が続出。
その上で夕方以降は座学まであるのだ。
予想していた以上の過密っぷりに、事前に知っていたボッシュでさえ弱音が出そうになった。
辞めた300人はいわば開拓士の夢のある面だけを見て、実体を何も知らずに来た連中なので辞めて当然である。
中には訓練に嫌気をさして「こんなの何の意味があるんだよっ!?」と教官に食ってかかる者もいたが、そんな半端者はすぐに制圧されて退学の烙印を押された。
教官は現役の開拓士、一線から退いた開拓士が勤めているのでチンピラ風情程度ではまるで歯が立たないことがわかった。
残った連中は、1週間の訓練で乗り越えられる体力がある奴であるが、それでも格差は存在する。
中でもピスコルで出会ったアリカは凄かった。
早朝から訓練しているのに未だにピンピンしているのだ。
本人曰く「師匠の修行の方がきつかった」と言っていて、ボッシュはドン引きした。
だが、アリカは頭の方は弱くて座学で泣いていた。
逆にセネムは座学は得意な方であり、体力面においては一定のペースを守ることで最後までやり遂げているようだ。セネムの見た目には似つかわない体力には意外と驚いた。
その答えはすぐに判明した。
「えと、私は精霊術で身体強化してるから」
なんと既にセネムも身体強化は習得済みであったらしい。
アリカも使っているとのことなので若干焦りを覚えた。
すぐさま教えを請いに行った。
「アリカ。俺に『練精法』を教えてくれ!」
「いいけど、私に勉強を教えてちょうだい〜……!」
「お、おう?」
逆に請われる結果になった。
話し合いの末、空いている夜の時間の半分を練精法と勉強それぞれをすることになった。
「練精法は兎にも角にも『調身・調息・調心』! 腹に精霊を溜め込んで!」
「ぬぐおぉぉぉっ! これ、きっつ……!!」
「がんばれボッシュ! 根性よ根性!!」
根性でどうにかなるならやっとるわ!
今までぼんやりと意識していた精霊を腹に溜め込み留めるも、これが中々どうして上手くいかない。アリカは根性しか言わないし、これ以上どうしろというところで救いの手があった。
「ボッシュ君。精霊を留める時、力を回転させるとか、蓋をするみたいなイメージするとやりやすいと思うよ」
「な、なるほど」
セネムが的確な助言をくれて、何とか不格好ながらも『練精法』に成功した。
終わった後は汗だくになり、体力とはまた違った部分の力を消費したようで疲れた。
数日間かかったが、ようやく形になり始めた。
「やったわね。ボッシュ!」
「アリカ……。おう、ありがとうな」
「あとは最低1時間は保たせるようがんばろうね!」
「は……?」
今なんて言ったこいつ?
こんなキッツイのを1時間とか無理だろ。
「そんなんできるか!?」
「できるよ。私は少なくとも起きてる間ずっとやってるし。眠りながらはまだ無理だけど」
「えぇ……」
改めてアリカがどうしてあんなに体力自慢なのかがわかり引いた。
「せ、セネムはどれくらいできるんだ?」
「えと、私はアリカほどじゃないけど連続なら2時間ぐらいかな」
「お、おう。そりゃすげーな」
それでも十分すぎるほどすごい。
1年目の訓練の過程では『練精法』が最低ラインなのだ。
この二人は既に合格していることになる。
負けてなどいられない。
「よし、それじゃ引き続き『練精法』を──」
「ちょいちょい! 次は私の勉強でしょ!?」
「あぁ、そうだった。ほれ」
「え、何これ……?」
もうアリカの勉強の時間が来たので、前もって用意していた教材を渡した。
このピスコルには図書館も建てられていて、座学の参考になるものも多かったので借りてきたものだ。
「とりあえず、ここに書いてある内容を全部覚えろ。あと計算問題は一問でも多く解け。参考になりそうな本もあるから、わからなかったらまず読んでみるといい」
「ボッシュ!? なんかそれずるくない!」
「ずるいわけあるか。こういうのは、自分で調べたりしないと身につかないんだよ。いわば勉強の基礎だ。アリカはまずそこが足りん」
訓練の隙間を縫って図書館へと赴き、司書に参考になりそうな教材を事前に探しておいてもらった。
あとはアリカが寝ないように注意と間違った部分を解説すれば、その分だけ時間が浮く。
「あとセネムにもこれ。この辺の地理知りたいって言ってだろ?」
「あ、ありがとう」
「なーに、いいってことよ。さっき教えてもらった礼だ」
そしてまたボッシュは練精法を再開した。
ボッシュは気づいていなかった。
(えーと、アリカの勉強用の資料はまた司書さんに相談すればいいだろ。今後のチーム編成を考えるとセネムとも上手くやれる奴じゃないとダメだな。とすると女子の方がいいか? うーん、男が俺一人だけってのも何だしな。まだ先のことだし、もう少し後でもいいか。それよりは有望そうな奴を──)
普通ここまで世話を焼くお人好しはそういないことに。
アリカとセネムからは『お、お母さん!』と内心思われていることに。
ボッシュ・グラハムは苦労人である。
しかし、彼は自分が苦労をしていると全く思っていなかった。




