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開拓のアリカ  作者: 菊日和静
第二章 開拓士養成学校編
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第27話 根性ではどうにもならないこともある

「もうダメ……挫けそう……」

「だ、ダメだよ。私に諦めないことが大事だって教えてくれたのはアリカでしょ?」


 そうだった。

 あれだけセネムに根性が大事で諦めなければ何とかなると言ったのにこの体たらく。

 情けないと反省したいが今のアリカは何も考えられない。

 まぶたは重く垂れ下がり憔悴がひどい。

 そんなアリカをセネムは優しく励ましてくれる。


「ごめんね、セネム。開拓士になるのがこんなに大変だなんて知らなかったんだ……」

「大丈夫だよ。私がついてるから。もうちょっとだけ頑張ろう?」

「セネム……! ありがとう。でも、ごめんね……私は、もう……」


 クオンとの修行の日々でも決してへこたれることはなかった。

 ピスコルでもやっていける自信はあった。

 だが、ここはそんなアリカの自信を粉微塵に打ち砕いた。

 思っていた以上にピスコルは手強く、今のアリカでは手も足も出なかった。

 そして今──アリカは力尽きようとしていた。


「アリカ。アリカ! いや、目を開けて!?」

「──いや、そんなんじゃ起きないだろ。こいつ。ほれ、さっさと起きろ」


 ポカーンと、いい音が頭に響いた。


「いったぁ!? ボッシュ! ちょっとは手加減してよ!!」

「アホか。勉強教えてほしいって言った張本人が真っ先に寝て手加減なんぞするか!」

「うぅ……ご迷惑をおかけします」


 シュンとした様子で、勉強を教えてくれる二人にアリカは頭を下げる。

 そう今この部屋にはボッシュとセネムがいて、3人で勉強会をしていたであった。

 勉強会という名を冠しているが、実際は勉強についていけないアリカに二人が教えてくれる形だ。

 しかも、その本人が真っ先に寝ようとしているのだから叩かれても文句は言えない。


「体動かすのは得意なんだけど、どうもお勉強は苦手で……」

「そりゃ見てればわかる。こっちだって訓練でクタクタだっつーのによ」

「ぼ、ボッシュ君もそれぐらいで。ほら、人には得て不得手ってあるから」


 セネムに悪気がないのはわかっているが、ちょっとだけ言葉が胸にちくりと刺さった。

 わかってはいたが、勉強は不得手なアリカであった。


「わかってるけど、アリカの場合は極端すぎるんだよな〜。すでに1週間で四分の一は逃げた訓練でピンピンしているのがおかしいんだよ」

「むしろ、あの程度で逃げる奴なんて根性が足りないのよ!」

「お前それブーメランだからな。だったら、この程度の量の勉強を投げ出すなよ」

「はい……」


 ボッシュの言った通り、アリカ達がピスコルに入学してから1週間が過ぎようとしている。

 そして、すでに全体の4分の1は振るい落とされ、逃げ出したのであった。

 あまりの訓練量に根を上げて。


「まさか、早朝・朝・昼で訓練して、夕方と夜は詰め込み式の授業があるだなんて……」

「最初のうちにとんでもない量の課題をかけさせる負荷訓練と冷やかしをふるい落とす試験を兼ねているんだろうな……にしても疲れが抜けん」

「うん。さすがに大変だよね」


 開拓士養成学校(ピスコル)の敷地はとてつもない広さだ。

 少し走れば山があり、森があり、川がある。

 早朝はそんな敷地を巡る軽いランニングという名の長距離マラソンがあり、それが終われば朝の筋力トレーニングを経て、昼には開拓士として必須となる野外で過ごすサバイバル実技がある。

 ボッシュとセネムは、多少なりとも精霊術の心得と普段から鍛えていたおかげで乗り越えられているが、それでも日々の疲れが溜まっていっている模様だ。


「まぁな。だが、こう言っちゃ何だがセネムがこんなに食いつけるとは思わんかったわ」

「えと、地道に努力するのは好きだから。ボッシュ君は大丈夫なの?」

「アリカほどじゃねーが体力自慢だからな。それにこう見えても勉強は得意な方だ」

「ずるいぞボッシュ! 私と同じ体力バカじゃないのかぁぁぁぁ!?」

「一緒にすんな! お前が極端すぎるんだよ!」


 アリカはクオンとの修行の結果、体力的な意味で化物となっている。

 体感的にはいい汗をかいた!みたいな気分だ。

 しかし、夕方以降の勉強においては劣等生そのものであり、びっくりするぐらい出来が悪かった。


「うぅ……地理とか生物についてはまだわかるけど、数学が必要なのは何でなんだよぅ〜……数字とか式とかワケガワカンナイ……」

「数字は大事だろうよ。測量とか生物の分布の統計にも使うし、旅の道中の日程計算、食料の分配やら使わない理由の方がねーよ」

「ゴフっ……せ、セネムは勉強大丈夫な人?」

「う、うん。故郷ではよく本も読んでたし、計算の手伝いもしてたから」



 勉強においてアリカ側にいる人は誰もいなかった。

 こんなことなら真面目に勉強しておけばよかったと本気で後悔をした。


「開拓士の道はかくも険しいとは……」

「だな。だがまぁ、これぐらいは開拓士の必要最低限なんだろうよ」

「はぁ、がんばるしかないかー」


 雑談で気が紛れていい感じに眠気がなくなった。

 再び、アリカは机に向かい座学の勉強を再開することにした。


「そういやアリカ。まだ1週間しか経ってないが、他に見込みのありそうな奴っていたか?」

「ん〜、どういうことさ?」

「ちょっとした雑談つーか相談だな。開拓士やるからには、チームを組むのが普通だろ?」

「え、そうなの?」


 その情報は初耳であった。


「これも知らんかったのか……。セネムはどうだ?」

「うん、私は知ってるよ」

「ならアリカ向けに説明しておくか」


 ボッシュ曰く、開拓士というのは通常チームを組んで旅に出るらしい。

 道中の安全や睡眠時の見張り、暖を取るための木の枝拾い、動物の狩りなど。

 一つ一つは難しくがないが、積み重なれば一人だと負担は大きく厳しくなる。

 だからこそ、開拓士というのはチームで動くことが多いのである。


「へぇ、そうなんだ」


 アリカの知っている開拓士はクオン一人だけなので、開拓士の常識的なものを知らないのでためになる。

 本来こういうことはクオンが教えてくれればいいのに、クオンは一言「めんどくせー。実際にピスコル行きゃわかんだろ」と教えてくれなかった。

 その代わり、精霊術や強くなることに関してはみっちり教えてもらった。


「チームを組むなら4人1組が基本だ。俺としちゃ組むならお前らがいいんだがどうだ?」

「もちろん大丈夫よ。せっかく仲良くなったしね!」

「わ、私も二人がいいかな」

「決まりだな。んで、そうすっと人数が一人足りない計算になるんだ」

「そういうことか。でも、めぼしい奴なんて──」


 言いかけた時、一人だけ思い当たった。

 まだ1週間足らずで人数も多いせいで誰が誰だが把握してないが、一人だけ印象に残っている。というか、出会いがアレすぎてどうしても視界に入ってしまうのだ。


「……あのエバとかいう子」

「あ〜、確かに優秀だよな。体力でも座学でも両方でトップクラスだもんな」

「ふんっ。両方ともできるなんていけ好かないわね!」

「ただの嫉妬じゃねーか」

「なにおう! じゃあ、ボッシュは他に誰かいるってーの!?」

「噛みつくなよ。何人かはいるが反りの合わない奴といてもろくな結果にならんから相談してんだよ。セネムはどうだ?」

「えと、日々の訓練で一杯一杯だから誰かを気にしてる余裕はなくて」

「わかった。まぁ、いい奴がいたら教えてくれ」

「うん」


 その後もボッシュとセネムと一緒に話し合った。

 体力の訓練ではアリカが二人に精霊術を教え、二人はアリカに勉強を教える。

 村を出てからは考えられなかった目まぐるしい日々。

 少しずつではあるが、開拓士になる道が見え始めてきた。

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