表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
開拓のアリカ  作者: 菊日和静
第二章 開拓士養成学校編
23/56

第23話 田舎者同士が出会う

 開拓士養成学校(ピスコル)を目指す者は数多くいる。

 動機として一番多いのは『家族のため』という理由だ。

 といっても、一口に家族のためといえど開拓士という職業で一発当てれば家族に仕送りができると考える者、実家の畑や職を長男が継ぐため財産を相続できない次男三男、少ないところでは新しい土地を求める者など、それこそ多種多様な理由で志望する。


 あとは単純に適正(・・)があるかどうかというのも大きい。


 そういう意味では、新しく開拓士養成学校に入ることを志したボッシュ・ブラハムは家族の仕送り、次男で実家からの財産を期待できない、適性があったという実にありふれた理由から開拓士を目指した者の一人であった。


「ここがピスコルのある辺境都市ファーゼストか。わかっちゃいたけどでっけーなぁ……」


 噂には聞いていたがここまでとは思っていなかった。

 開拓士養成学校(ピスコル)と銘を打っているものの、元々は開拓士の活動を支援する機関が始まりであり、そこから開拓士が持ち帰ってきた植物・鉱物・動物の育成や研究を行う機関と次第に活動が拡大してきた。

 建物だけでも敷地内に研究棟がいくつもあり、人の食用に向いているかを研究する畑も景色一杯広がっており、希少な動物を飼っている畜舎と放牧する草原などもある。

 そのどれもこれもが大きく広い。

 ボッシュもまた田舎からの出なので、畑なんて見慣れたものであるが、研究所のような建物があるとガラリと景観が変わるものだと感じた。

 学校はその建物の内の一つにあり、来る前から大きな看板の案内図がなければ迷っていたに違いないと確信できるほどであった。


「さすがは辺境最大と言われるだけのことはあるか」


 人が集まる場所にこそ需要が生まれる。

 この場所にどれだけの人間がいるのかわからないが、おそらくは万単位だろう人々が暮らしており、必然的に食い物や服屋など生活基盤を整える店を営んでたりもする。

 雄大な自然に囲まれながらも、先進的な人工物との共存。

 開拓によって始まり、開拓によって発展し、開拓を目指すものを育成する。

 まさしく開拓士を目指すものにとっての第二の故郷ともいえる場所だ。


「う……気後するな俺。こんなところでビビってたら田舎者だってバカにされちまう!」


 実際田舎者であるが田舎者扱いされるのは別だ。

 ボッシュはふんっと荒く鼻息ひとつ立てズンズンと前に進む。

 すると、


「──ねぇ、あんた。ちょっと聞いていい?」

「んぁ!?」


 気合を入れた矢先のことだったので驚いて変な声が出てしまった。

 振り返った先にいたのは炎のような色の髪をした女の子だ。


「ピスコルがあるのってこの先でいいの?」

「お、おう。案内図を見た感じだとこっちでいいはずだぜ」

「そうなんだ。ここでかすぎて案内図あってもよくわかんなかったのよね」

「その気持ちはよーくわかるぞ」


 案内図があるから迷わないわけがないと思いたいが、ここまで広すぎると本当にこの道であってるのか心配になるレベルなのだ。

 この赤毛の少女もそうだったのだろう。


「せっかくだからピスコルまで一緒に行かない?」

「あー、旅は道連れって言うしな。別に構わないぞ」

「ありがと。私はアリカ・アンゲル。よろしくね」

「俺はボッシュ・ブラハムだ。こちらこそよろしく」


 ひょんなことから一緒に行くことになった赤毛少女アリカ。

 道中一人で寂しかったので話し相手が増えるのは歓迎だった。


「アリカも開拓士になりにきたのか?」


 道すがら念の為に聞いてみた。

 アリカの姿を見る限りでは女狩人みたいな感じであり、年季を感じさせる靴は旅慣れた者のそれだ。極め付けは背中に担いでいる背の丈ほどもある大剣。

 こんな格好していて開拓士を目指していないわけがない。


「まぁね。てか、それ以外の目的でここに来る人いるの?」

「結構いるはずだぞ。ここ研究施設やら畜舎ともあるから、人手は年がら年中募集中って聞いてる」

「へぇ〜そうなんだ。初めて知ったわ」


 話をしてなんとなくわかったが、アリカは同じく田舎出身でこうした情報には疎いらしい。そのおかげで、シンパシーを抱いて話しやすさを感じてしまう。これが、身分の高い人や高級な服を纏った女性なんかだと緊張して萎縮してしまうことだろう。

 その点で言うとアリカは顔立ちこそ整っているが気安さの方が勝る。


「ボッシュは開拓士の試験って何やるのか知ってる?」

「まぁ、それなりには──って、アリカは何も知らずに受験に来たのか?」

「うーん。何も知らずってわけじゃないんだけどね」

「おいおい、マジかよ……」


 物知らずってレベルじゃねーぞと言葉を飲み込んだ。

 一応、事情を聞くと彼女の師匠の方針で試験については何も教えてくれなかったそうだ。そんなのが師匠をやっているのかと唖然とした。

 ボッシュとて田舎出身とはいえ、田舎の中では有数の地主の家系でありそれなりには裕福だった。家を出て開拓士になることを条件に、開拓士の試験対策の教師に師事をした。教師を雇う金がない場合は、自分なりに受験対策の情報収集をやるのが最低限の基本であり、開拓士を目指す人間は似たようなことを誰も彼もがやっている。


「まぁ、俺が知ってることでよければ教えてやるよ」

「本当! ありがとう、ボッシュ!」

「お、おう。いいってもんよ!」


 こういう風に誰かに教えてお礼を言われることがないから少し照れた。 

 ゴホンと咳払いを一つして仕切り直す。


「まず基本的なことだが開拓士養成学校(ピスコル)に入るのに試験は必要ない」


 知らない人が聞くと驚かれるが、実はピスコルは他の学校と違い入るのに筆記や実技といった試験を設けていない。強いていえば応募用紙を書いて提出するぐらいだろう。


「だが、開拓士になる試験がないというわけではない」

「どういうこと?」


 そりゃ知ってるわけがないよなと懇切丁寧に教える。


「開拓士ってのは【未開拓領域】を調べる危険と隣り合わせの職業だ。それだけにリスクも高いがリターンも大きい。昔は個人の能力頼みだったらしいが、国が支援するようになってピスコルができたことで開拓士は資格化されて平均的能力がグッと上がった」

「ほうほう」


 開拓士の来歴についてはざっくり教えればいいだろう。

 細かな歴史など歩いている最中に教えられるわけがない。


「んで、養成学校に入る前に落として稀有な才能を取りこぼすかもしれない。だったら育てることで才能を磨いた方がよいってのがピスコルの方針なんだ」

「なるほど。てことはピスコルを卒業したら開拓士になれるってこと?」

「まさしくその通りだ。そして、それこそが開拓士の試験でもある」


 アリカは正解を言い当てた。

 開拓士の試験とはつまり。


「ピスコルの訓練過程を全て達成すること。それが開拓士の試験だ」


 アリカを脅すつもりはないのでこの先のことは言わない。

 ピスコルに入って1年以内に辞める者は7割を超える。

 ただの冷やかしもいるだろうし、生活が困窮して来る者、訓練が厳しすぎてやめる者など様々な理由から辞める。

 結局のところ、強い意志と開拓士にある覚悟がないとやっていけないのだ。

 そして、


「開拓士になる最低条件ってのが──精霊術を使えることなんだよ」


 この適正こそが曲者なのだ。

 未開拓領域を探索する以上、最低限の強さが必要になる。

 そのために、精霊術の適性がない者は1年以内にピスコルを辞めさせられる。

 ボッシュとて自分に精霊術の適性があると知らなければ、開拓士を目指そうとは思わなかった。


「つまり、アリカはこの1年以内に精霊術を覚えないとダメだな」

「あぁ、それなら大丈夫よ」

「は?」

「だって、精霊術なら子供の頃から使ってたもん」

「はああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」


 ボッシュ・ブラハムはこれから先知ることになる。

 アリカという少女がとんでもない数々の出来事を引き起こすことを。

 そして、自分が巻き込まれることは──まだ知らなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ