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開拓のアリカ  作者: 菊日和静
第1章 少女は開拓士を志す
19/56

第19話 ただいまを言えない。

大変お待たせしました。

仕事やら何やら忙しくて執筆時間が取れませんでしたが、これからぼちぼち再開していきたいと思います!

 お父さんが死んだ。

 言葉にすればただそれだけで、私はまだ何の実感も湧かずにいた。

 葬儀の日は知らされた当日に執り行われ、私もお父さんに最後のお別れをした。

 イリスはわんわんと泣いていて、お母さんは一番辛い立場のはずなのに気丈に振る舞っていた。

 何もかもが突然で、何が何だかわからないうちに終わった。

 唯一印象に残ったのは──お父さんの死に顔は安らかそうであったことだ。

 それだけは良かったと思えた。

 葬儀の後も、私は失った体力を回復すべく寝る時間が多く夢現を彷徨っていた。

 夢の中ではお父さんのお説教がいつものように行われていて、そのせいで、私はお父さんがいなくなったことが夢なのか現実なのか判別できなかった。

 葬儀から数日経ち、ようやく体力も回復した頃にクオンから事情を教えてもらった。


「バランは俺たちが害魔と戦っている間もずっと村人の避難誘導をしていた。だが、猛獣たちに襲われた村人を助けようとして身代わりになったらしい」

「……お父さんらしいや」

「そうだな。バランは──お前の親父さんは立派な男だ」

「うん。知ってる」


 そうだ。お父さんは立派な人だった。

 いつもは口やかましく鬱陶しく思っていたはずなのに、村人のみんなからの信頼は厚く、何かあれば相談に来る人も多かった。

 知っていたはずなのに、誰よりもわかっていたはずなのに。

 私はお父さんに親孝行の一つでもちゃんとできたのだろうか?


「あのさ師匠。話、聞いてくれる?」

「……おう、いいぜ」

「ありがと」


 他愛もないことから話始めた。

 お父さんは説教くさくてうるさいこと。神官であるせいか礼儀正しさを求めて窮屈だったこと。

 それに反発して外に出てちょっとやんちゃしたこと。

 イリスが産まれたことで、イリスが今日どんなに可愛いかで話が盛り上がったこと。

 そんな思い出話をしてクオンは黙って聞いてくれた。


「私さ。お父さんにとって出来の悪い娘だったと思うんだ」

「あん? なぜそう思う?」

「だってさ、よくお説教されたし心配かけてばっかりだったから……」

「はっ、そりゃ確かにそうだな。短い付き合いだが俺もそう思ってんよ」

「むぅ」


 はっきり言われるのもそれはそれでムカつく。

 そこは多少なり持ち上げても良さそうだが、クオンにそんな気遣いをするだけ無駄か。


「今失礼なこと考えてなかったか?」

「え、気のせいじゃないの?」


 危ない危ない。

 気遣いはできなくとも察知がいいのがクオンであった。


「ったく、いいかアリカ。お前は確かに無知無謀無茶の三拍子が揃ったバカだ」

「それは言い過ぎじゃない!?」

「アホか。言い足りないぐらいだ」

「ひどっ!?」


 身に覚えがあるとはいえひどすぎる。

 もう少し傷心の弟子に優しくしてくれてもいいのではないだろうか。

 話して損したと思って立ち去ろうと思った時、


「だがまぁ──バランにとっていい娘だったと思うぞ」

「え……」


 クオンはそう言った。


「あいつが俺と夜酒盛りしていた時はいつもお前や妹の話をしていたよ」

「……本当に?」

「こんなことで嘘ついてどうすんだよ」


 そして、クオンはお父さんと話したことを教えてくれた。


 ──心配ばかりかけるが元気に健やかに育ってくれてうれしい。

 ──日々、姉として頑張る姿が愛おしい。

 ──無茶をしすぎていないか心配だ。

 ──精霊術の使い手になったことで辛い思いをしていないだろうか。

 ──ただ娘には幸せに……生きてほしいと願っていること。


 知らなかった。

 お父さんがそんなことを思っていただなんて。

 手に力が入って震える。


「もう一度言うぞ──お前の親父さんは立派な男だ」

「……うん」


 クオンの一言一言が私の心を震わせる。 


「そんでお前はただの子供(ガキ)だ」

「……うんっ」


 夢から覚めたかのように、我慢して見て見ぬ振りをしていた現実を痛感する。

 自覚したらもうだめだった。


「だから──泣いてもいいんだよ」

「……うぁっ!」


 目から涙が溢れ、口から勝手に嗚咽が漏れ、手が顔を覆う。

 最後にお父さんと交わした約束を思い出す。


 ──イリスと一緒に帰ってくることは約束する。


 帰ってきたよって。

 二人とも無事だよって。

 私はお父さんに「ただいま」って言いたかったんだ。

 でもそのお父さんは─もういない。

 口やかましく説教するお父さんはいない。

 よくやったぞって褒めてくれるお父さんはいない。

 だから、


「──────────────っっっっ!!!!!!」


 今だけは「姉」という立場を忘れて「娘」として泣いた。

 師匠は泣き止むまで何も言わず寄り添ってくれた。


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