第7話
試験終了後、 受付のお姉さんからは試験合格の証として、 校章の刻まれたバッジと制服を渡され、その日の宿用として国が合格者用にホテルを貸し切っているらしく、 1人ずつ違う番号の書かれた鍵を渡された。
「そういえば、 モノ。 俺が試験受ける直前何か言おうとしてたけど…」
全ての手続きを終え、 あとは指定されたホテルへ向かうだけとなったので、 制服と一緒に渡されたホテルの地図を片手に試験会場を後にしながら思い出したかのようにモノに問いかける。
「…"縮地"だけど、 あれは剣士じゃ…覚えられない…」
「………………え?」
う、 嘘だろ…?
だが、 『研究者』であるモノが言っている事だ、 間違いないのだろうが…。
「じゃあ、 俺は今まで剣士とか自分で名乗りながら堂々と観察者スキルを使ってた…てことか」
こくこくと頷くモノ。
…そりゃあ、 あの試験管も驚いたり紋様を見せろと言ってきた訳だ…。
「はぁ、 縮地は封印かぁ」
人の目、 それも生徒や教師がいる前での使用は出来る限り控える事にしよう。
俺は落胆したため息を吐きながら、 頭を掻く。
「…ゼン、 モノは家が近くだから、 1度家に帰る…」
「そっか、 先に行ってるぞ」
軽く挨拶を交わし、 モノと別れた後、 受付に渡された地図を頼りにホテルを目指していたが、 思っていたよりも近く、 既に何人もの生徒が入り口付近に溜まっていた。
その中にはなんと無事に試験を通過した様子のカインの姿があったが、 絡まれると面倒なので無視をし、 見つからないよう生徒を掻き分けながらホテル内に入る。
ホテルの受付に言われるまま、 校章のバッジと『405』と書かれた鍵を見せ、 指定された部屋へと向かう。
「…あっ! ゼンくん!」
4階へ向かう途中の階段で、 上からちょうど降りてきていたキアラとばったり出会した。
「キアラも無事に合格出来たんだな…良かった」
「はいっ! あの時ゼンくんとカインくんが居てくれたお陰です!」
「カインもこのホテルの外にいたから、 全員合格だなっ! 学校では宜しくな」
「はい!」
こうして無事3人とも試験を受けられたのも、 俺の職業を受け入れ、 特訓してくれたじいちゃんとばあちゃんのお陰だ。 あれで心配性なので、 盗賊の事を話してしまうと2人してこの国の盗賊を根絶やしにする勢いになるだろう…。 なので、 盗賊の事は伏せておくとして、 合格した事はすぐにでも報告しておきたい。
キアラとの立ち話も程々にし、 俺は今日の宿である『405』号室で、 盗賊との一戦と試験での疲れを癒す。
──────次の日。
受付のお姉さんに言われた通り、 朝の8時には聖職業学校の校門前の掲示板には、 合格者の名前、 職業名、 クラスが貼り出されていた。
『観察者』ならばSクラスなら入れたかもしれないが…今回俺は『剣士』で受けているので、 合格したとして、 せいぜいCクラスか、 良くてBクラスだろう。
遠目でCクラスの名前を順々に見ていく…が、 そこに俺の名前は乗っていなかった。
あんな試験結果でも奇跡的にBクラスになるとは…。
Aクラスでは無いだろうと、 Bクラスの名前を見ずに校舎に入ろうとした時、 俺はそこでようやく辺りが騒がしくなっていたことに気付いた。
「…おい、アイツ何者なんだ…!?」
「…あ、 ありえないだろ」
ザワザワとした雰囲気が伝染していき、 今や掲示板の前に集まっている生徒は、 Sクラスの掲示板に集中している。
俺も覗こうと少し後ろから掲示板を見る。
1番上が今年の生徒代表らしく、 なんと1番上には『モノ・バエル』という名前の横に『職業・研究者』と書かれていた。
あいつは自分の職業を隠していないんだったな…。
本人曰く、 このグロリア王国の中でも随一と名高いバエル家に手出し出来る人間等そうそういないらしく、 それによって隠す必要も無いのだとか…。
そして、 2番目には『アラン・シュートデル・ディッフィ』、 そして『職業・勇者』。
流石勇者様といった所だろう、 ぶっ壊れチート職業のモノの次に名前が上がるということは、 それ程の実力を持っているということだろう。
この生徒達の騒がしさは、 聞いた事のない職業、『研究者』に向けられたものだと知り、 俺は閲覧をやめ、 校舎に向かうことにした。
だが、 1人の声が耳に届いてきた時、 俺の全身は硬直した。
「勇者の下のあいつだよな?」
「えぇ、 みんなその人が気になっているらしいわよ」
「…おかしいよな、 何故試験管達は……『剣士』をSクラスに入れているんだ…?」
『剣士』が…Sクラス…?
俺は首が取れてしまうのではないかと言わんばかりの勢いで再び掲示板を見る。
そこには、 『ゼン』という名前と、 『職業・剣士』とハッキリと書かれていた…。
「…ゼンってやつ、 一体どんなやつなんだっ!?」
「……く、 くっそぉー、 俺はCクラスかぁー…早く教室いこー…」
こんな所で大騒ぎになるとは思っても見なかった…というか、 俺がSクラスの意味が分からない…。
とにかくその場を誤魔化し、 決まってしまったSクラスの教室へと俺は重い足を上げながら向かった。
校舎の正面玄関には分かりやすく校内の地図が貼っており、 それによると真正面の通路を通ればSクラスのようだ。
校舎自体は5階まであるが、 1階は3年、 2階が2年、 3階が1年となっており、 それより上は室内訓練所となっているようだった。
正面廊下を進み、 階段を上がると突き当たりには『1-S』と書かれた札が入口に着いている教室に辿り着き、 戸を開けると5人の生徒が既に到着していた。
1人は見覚えのある顔、 勇者アランだった。
「およっ! 新しいクラスメイトがやってきたねぇ♪ おっはろ〜! あたしは『クロム・ロロシエル』だよっ!」
桃色の髪を後ろで三つ編み1本に纏めている少女は敬礼のようなポーズを取りながらウィンクをして来た。
「おはよう、 俺はゼン」
「おぉーっ! 君があの噂のゼン君だねぇ〜…いやいやぁ、 一体どんな手品を使ったら剣士の職業でSクラスに合格できたのか教えてよ!」
能天気な声を上げながら肘でつんつんと俺をつついてくる。
「その辺にしてやったらどうだ、 クロム君。 彼も実力を持っているからこそ、 このSクラスに決まったはずなのだから…直接話すのは初めてだね、 ゼン君」
既にリーダーシップを築きつつあるアランは、 クロムの俺への質問を止めるよう促してくれた。
「そうだぞ、 クロム。 そんなことばっかやってるから、 お前はいつまで経っても彼氏の1人も出来ないんだから…」
「あんたにだけは言われたかないねぇ〜、 ヴィクト」
ヴィクトと呼ばれた少年は、 茶色がかった髪に、 綺麗に整った顔立ちをしていた。
「…で、でも…私もきになります…うぅ、 ごめんなさい」
ボソボソと何か独り言のような大きさで喋っている少女は、 黒髪をショートカットにしているが、 前髪は目元が隠れる辺りまで伸ばしている。
「済まないね、 彼女は『スイレン・アスカ』だ。 出身が東の果てのようで、 少々変わった名前なんだ。 そして少し人見知りの様なんだ」
「…お、 おう…よろしく」
少しってレベルじゃないだろ。
1人で何かに謝ってんぞ。
「そんじゃ、 最後に俺ちゃんの出番かな? 俺ちゃんは『アインツィン・ベリアル』ってんだけどよ、 長ったらしーし、 言い難いからアインツって呼んでくれ!」
アインツと名乗る少年は、 金髪金眼をしており、 どこか人間離れした風を感じる…。
そんな話をしている中、 次々とクラスに人が集まっていき、 最終的には試験管を担当していた重鎧を身に纏っていた男性と、 魔術師ローブを羽織っている女性が教室へ入って来た。
「さぁて、 そろそろ全員集まったか?」
真正面の黒板には既に各席事に名前が記入されており、 俺の席は教卓真正面の最後尾だ。 各生徒も既に自分の席に着いている…が。
「……ん? 1人まだ来ていないようだが…」
確かに、 俺の席の左側は空席だ。
すると、 ゆっくりと戸を開ける音が静かになっていた教室に響く。
「…ゼン、 おはよう…」
俺の席を確認した際に気付いていたが、 左側はモノだった。
「おう…早く席つけ、 担任も来てるぞ」
ふわぁ〜、 と声が聞こえる程に大きな欠伸をしながら教室に入ってくるモノ。
「…あー、 ゴホンッ、 やっと全員揃った所で、 今日からお前らの担任をする『ガイル』だ。 急なんだか…。自己紹介がてら、 これから模擬戦を行う」
「「「「えーーーっ!!!」」」」
殆どの生徒が一斉に驚きの声を上げる。
無理もないだろう、 相手の実力も分からない、 ましてや初対面の相手と急に言われても、 どうすればいいか分からない。
だが、 そんな生徒達のも聞く耳を持たず、 話を進める。
「ルールは後で説明する、 とりあえず、 訓練所へいくぞっ!」
教室は生徒からのブーイングと担任の快活な笑い声がまるで地獄絵図だった。