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世界最強の観察者  作者: 十卡一
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第6話



「まぁ、 今のところ観察者について分かっているのはそんな所だな…どう思う?」

俺は、 約束通りに観察者について知っていることは全て話した。スキルを使用する時に重瞳になってしまう事、 スキルによっては何度か見る必要がある事、 試験会場の道中で盗賊との戦闘で、 初めて実践でスキルを使用した事等。

「…重瞳になってしまう…だから、 目に認識阻害を…ただ…」

何か腑に落ちないことでもあったのか、 少しだけ眉にシワが寄っている。

「どうした? 俺は洗いざらい話してるから、 隠し事なんてしてないぜ?」

「…完全にモノの、 上位互換…。 くやしい…」

「完全にって訳じゃないさ。 さっきも言ったけど、 モノは見たことないスキルでさえ使えるんだろ? 俺はこの目で直接見たスキルしか使用出来ないから、 凄いところは両方ある。 それでいいじゃん」

「…むぅ、 そういうことに、 しておく…あと──」

「おぉぉぉい! 後はそこでバエル家の嬢ちゃんとイチャついてるお前だけだぞ!」

モノとの話に夢中で気づかなかったが、 俺とモノを残して他の生徒は会場から居なくなっていた。

…イチャついているという発言には触れないでおく。

「やべっ!? モノ、 話はまた後でな!」

「…あっ…」

何か言いたげだが、 早く行かないと試験失格になってしまうかもしれないので、 俺は急いで立ち上がり、 試験管の方まで走っていく。

「…『縮地』は剣士には使()()()()…それは、 『重騎士』以上の剣士系じゃないと、 覚えられないスキル…」

忠告に近いその声は、 もはや俺には届いていなかった…。



「…はぁ、 はぁ…お待たせしました」

「おぉ! お前で最後だ。 エントリーシートによると…剣士か。 ほれ、 こいつを使え」

試験会場の入口で、 専用武器以外は預かられているので、 試験管に渡された剣を受け取り、 構えを取る。

既にゴーレムは生成されており、 あちらは準備万全のようだった。

「行きます……はぁっ! "縮地"!」

「……っなぁ!?」

俺が縮地を使用した途端、 重鎧の試験管は驚いたような声を上げるが、 今は先にこのゴーレムを破壊することが先決だ。

縮地のスキルにより、 一瞬でゴーレムの背後まで移動する。あまりスキルを連発して破壊するのは得策では無い。いくつもスキルを見せ、 いつボロが出てしまうか分からない今はすぐにでも終わらせた方が、 合格率も高くなるに違いない。 俺が一瞬にして姿を消したかのように見えるゴーレムは、 当たりをキョロキョロと見渡すが、 後ろに回り込んでいるので見つけられるはずも無く、 こちらからしてみれば隙だらけだ。

「"斬鉄ざんてつ"…っ!」

鉄をも切り裂くことが出来る、 剣士の中でもあまり珍しくはない極一般的なスキルだ。

しかし、 すぐに破壊しようとしていた俺の考えも虚しく、 その一撃は剣戟けんげきを響かせるだけだった。

「…っち、 硬いな…」

弾いた俺の一撃で場所を把握したゴーレムは、 すぐさま俺の方へ方向転換する。今の一撃から察するに、 斬鉄では破壊することは不可能のようだ…。

方向転換を終えたゴーレムは拳を振り翳し、 勢いよく放ってくる。

それを俺は後方へステップし、 その一撃を回避する。

「こんな硬ぇやつをあの2人は一撃で破壊してたのかよ…」

他の生徒も大体8発で破壊していたが、 斬鉄だけでは破壊出来るビションが見えない。 しかも、 先程避けた一撃も素早いもので、 風圧から感じるものは村で修行していた時のばあちゃんから来るものと似ていた。 流石に拳聖けんせいと同じとは行かずとも、 生身で食らうとタダでは済まないだろう。

まずは一撃も貰わない事が先決…なら。

「… "暗肢あんし"」

以前撃退した盗賊のリーダーが隠密に使用していたスキル『暗肢』は、 意識した特定の相手にだけ姿が見えなくなるスキルらしい。 意識し、 特定する人数は特訓する事によって上昇するようなのだが、 初めて使用する俺はせいぜい1人が範囲内。 だが、 試験管には見え、 ゴーレムのみから見えなくなっていれば盗賊の『暗肢』スキルの使用はバレにくくなるだろう。

案の定試験管からは視認されている様子だ。 何かコソコソ話しているが、 しっかりと俺の事を見ている。 見えてさえいれば、 後でなんとでも理由は付け加えられる。

後は、 どうやって破壊するかだが…やはり『聖騎士』スキルを使用するしかないだろう。

覚悟を決め、 聖騎士スキルを使用しようとしていたその時だった。

「──そこまで!」

「っはぁ!?」

重鎧の試験管の鶴の一声により、 戦闘は中止され、 ゴーレムもボロボロと土に返っていった。

まさか、 制限時間でもあったのだろうか…。 いや、 しかし戦闘が開始されて差程時間は経っていない。 他の生徒よりも早い段階で止められている…。

「…な、 何故ですか?」

恐る恐る尋ねると、 魔道士系の先生が冷や汗をかきながら答える。

「わ、 私の調整ミスで…試験用の強度ではなく実践で使われる強度になってたわ…悪いわね」

「……確かに、 他の生徒のゴーレムよりも流石に硬すぎた気はしていたけど」

止められた理由に俺は安堵の息を漏らすが、 その安心も束の間だった。

「少年…君の職業は『剣士』だと言っていなかったか…?」

「え? そうですけど…?」

「……うぅむ」

重鎧の試験管は腕を組み、 何かを考えている様子だ。

「少年、 ちょっと()()()()()()()()()()()()()?」

「…っ?!」

これはマズい。

認識阻害のスキルは、 その名の通り意識化から外すものなだけであって偽造では無い。 紋様に掛けたところで既に意識化にある状態の今は効力を発揮しない。

「い、 一応エントリーシートにも職業は書いてますけど…」

「なにか、 見せられない理由でもあるのか?」

「……」

ダメだ。

もうどうすることも出来ないだろう。

エントリーシートには俺の村も書いてある。 このまま逃げでもしたら必ず軍を引き連れてやってくるだろう…。

じいちゃんとばあちゃんに迷惑をかけられない…。

俺は観念し、 袖を肩まで捲る。

そこには──剣士の紋様が施されていた。

「…分かった、 こちらの不手際もあったからな。 君は合格だ。 疑って悪かった」

「──ちょっと!?」

重鎧の試験管の合否に納得がいかないのか、 魔道士系の試験管は反論の声を上げる。

「あそこの扉を抜ければ、 後は受付が案内してくれる。 さっさと行け」

「わ、 分かりました…」

借りていた剣を試験管に手渡し、 出口の方へ向かうと、 俺の安否を見ていたモノがあとから付いてくる。

「助かったよ、 モノ」

「…あれくらい、 簡単…」

無表情のままブイサインを俺に送るモノ。

やはり紋様の偽造をしてくれたのはモノだった様だ。

おかげで、 俺は職業がバレずに、 無事試験に合格した。


──────ゼンとモノが去った後の試験会場。


「…ちょっと、 合格で良かったの!? あの子、 絶対剣士じゃないじゃない!?」

試験会場に残っている2人は、 未だ口論を行っていた。

「…そうだな、 あの動きは確実に『縮地』を使っていた。 しかも、 あの紋様も偽造だろう」

長年試験管をやっている彼は、 紋様の偽造は何度も目撃していた。 故に偽造の際の細かな違いを見逃すことはない。 重騎士という高ランク職業で実力もあり、 偽造を見破る事も出来る長所から、 試験管に抜擢されているのだ。

「だったら、 そんな素性もわからない子を生徒に引き入れて一体どうするつもりよ!」

「少年をSクラスに振り分け、 担任として俺が請け負う」

「っはぁ!?」

自分の質問に対して、 まさかな回答をされて戸惑う。

「偽造をってきた今までの奴らってのは、 全員自分の職業ランクよりも上のランクにするもんだろ…だが、 あの少年はあろうことかランクを下げてエントリーしてる」

「そ、 それは…」

そこは、 彼女自身も気になっていた点なのだろう。 ランクを下げてエントリーするメリットなんて考えても出てこない。

つまりは…。

「なにか、 職業について知られたくない事がある…それしかないだろ。 だったら、 何かが起きた時にすぐ対処出来るように俺が目を付けておく。 あわよくばその職業について分かるかも知れんからな」

「…はぁ、 分かったわよ。 この事はここだけの話にしておいた方が良さそうね」

彼の考えに半ばまだ了承していないが、 理解はしたようだった。

「勇者に、 バエル家の最高峰…そして謎多き少年とは、 Sクラスは楽しくなりそうだな!」


2人しかいない会場に、 不安のため息と快活な笑い声が轟いていた…。

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