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世界最強の観察者  作者: 十卡一
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第3話


俺の職業ジョブが観察者だと判明した後、 今日の入学試験までに元聖騎士長のじいちゃんから剣術を教わり、 元拳聖のばあちゃんから格闘術を教わった。

そして、 この職業についていくつか判明したことがある。

1つ目は、 他の職業の初期スキルや、 レベルの低いスキル等は1度視認することによってそのスキルを獲得することが出来るが、 ハイレベルなスキルは2度、 3度と視認しなければ完璧には獲得出来ないということ。

2つ目は、 スキルを使用する際に必要な魔力は強力なスキルの方が消費量が多い事が基本なのだが、 観察者に関しては一律同じということだ。 いくら強力なスキルであろうがいくら弱小スキルであろうが同じなのだ。

3つ目は、 俺が模倣コピーしたスキルを使用する時、 両目がこの紋様と同じように黒くなり、 ひとつの目にふたつの瞳孔がある状態になる。 つまり重瞳じゅうどう化するということだ。

そして、 最も重要なのが4つ目。

模倣コピーしたスキルを使用する時、 意識的にそれを視認しようとすることは禁忌タブーのようで、 試そうとした瞬間に内側から嫌な気配がした。

具体的に言えば、 ハイレベルのスキルの習得に必要な視認回数を稼ぐために、 自分で使用し、 それを視認しようとした時に、 嫌な気配がした。


今、 観察者の事を知っているのはじいちゃんとばあちゃん、 そして、 スキル使用の際の重瞳を隠すための魔法を施してくれたじいちゃんの知り合いの大魔道士のみだ。 認識阻害のスキルをかけてくれたらしく、 もしも解けてしまった場合のため、 そのスキルもコピー済みだ。


────────そして、 入学試験当日。

「いいか、 くれぐれもバラしたりバレたりせんよう気をつけるようにな…」

「気をつけて行ってらっしゃい、 ゼン」

村の入口まで出迎えてくれたじいちゃんとばあちゃんと固く約束し、 俺は上界にある試験会場を1人で目指す……。

「……つもりだったのになぁ」

「なんだよっ! 俺と一緒じゃ不満とでも言いたげだなっ!」

言いたげなんじゃなくて言ってるんだよ。

同じ村で同い歳ならそれは当然行先も同じではあるが…まさかこの先カインと会場まで一緒に行かなければいけないとは……。

最悪なことに試験会場まであと30分程の距離はあるだろう…。 馬車を使用出来ればもちろんそれよりも早く着くが、 如何いかんせん下界の端の村なので、 子供にく馬車などあるわけもなく、 徒歩だ。

「そう言えばゼン、 お前職業何なんだよ」

「……え、あ、 えぇと……」

不味い、 勝負のことをすっかり忘れていた。 こいつは聞くまで引き下がらないだろうが、 だからといって適当にでっち上げたところでそのスキルを獲得していなければいけない。 今現在獲得しているスキルは聖騎士と拳聖のスキル、それと勇者のホーリーソードだけ。 どれもSランク職業ジョブなので、 ポッとでの子供がなれるものではない…。 一応、 じいちゃんからは剣士だと名乗っておけば問題ないとは言われたものの、剣士のランクは最底辺のCだ。

「そういうカインはなんだったんだ…?」

話を逸らすために聞いた質問に、 カインは「ふっふっふ…」と笑って返してきた。

「聞いて驚くなよ! 俺の職業は『変身士ヴァリアント』、 それも『赤龍せきりゅう』の変身士だ! がっはっはっは!!」

 変身士ヴァリアントは、 特定の動物や幻獣に身体を変化させることの出来る職業だ。 変身士の中にも変身する対象によってランクが分けられるらしいが、 通常の動物よりも幻獣などの方がより強力と言われている。

しかもその中でも『龍』は別格だとじいちゃんから聞いたことがある…。

自慢げに腕を捲り、 そこに刻まれた紋様は確かに変身士のもので間違いないようだった。

まさかカインがそれを手に入れるとは。

「それで? ゼンは一体何になったんだ??」

「い、いや……そ、 それはだな…」

「────あ、 あの〜…」

 俺がカインに詰められていたせいか、 近くまで人が来ていたことに気付かなかった。

話しかけてきたのは、 とても綺麗な色の金髪を腰の上辺りまで伸ばした女の子だった。 顔立ちからして俺と同い歳くらいだろう。

「わ、 私…試験会場まで行きたいんですけど…道に迷ってしまって……」

肩から提げた鞄をキュッと固く握りしめ、 少しオドオドしながら自分の状況を語り出した。 恐らくこの子も俺達が同じ目的と判断し話しかけてきたのだろう。

「俺達も試験会場に向かってる所だから、 良かったら一緒にいこうか?」

俺の返答に、 不安そうにしていた表情がパァっと明るくなり、 頭をぶんぶんと音が聞こえてきそうな程激しく縦に振る。

「俺はゼン・アルファ。 名前は?」

「わ、 私はキアラ・シャルル。 お友達の方は?」

ずっと黙りこけているカインの方に目をやると、 顔を真っ赤にした状態で俯いていた。

カイン俺にはいつもみたく突っかかって来るのだが、 女性の前だとこうやって赤面して俯いてしまうのだ。

「は、 はははははじめまましてっっっ!!」

ダメだ、 完全に上がっている。

「は、 はいっ!」

キアラもキアラで、 カインの緊張に当てられて声が大きくなっている…。

そんな声につられて来たのか、 向かい側からいかにもな格好をした盗賊が数人こちらに向かっていた。 隠れてやり過ごそうにも辺りには隠れられそうな草木はなく、 最悪なことに見晴らしは最高だった。 盗賊達も完全に俺達の方を見ながら下卑た笑みを浮かべている。

「……最悪だな」

不幸中の幸、 じいちゃんが持たせてくれた剣は持っている。 そしてカインも盗賊に気付いたらしく、 今はもう上がっていない。

「キアラ、 職業は?」

小さめの声でキアラに問うと、 ボリュームを合わせて「格闘家です」とだけ返答が来た。

よく見ると両手にグローブをはめており、 一応は戦えるようだ。

声が届く距離まで近づくと盗賊達は立ち止まり、 ニヤニヤしながら声を投げかける。

「よォ、 あんちゃん達。 荷物を全部置いていきゃあ何もしねぇで通してやるぞ?」

リーダー格の男の台詞の後に続いて、 取り巻きの盗賊達もゲラゲラと嗤う。

相手の職業は『盗賊シーフ』で間違い無いだろう。 しかし、 盗賊のスキルはとても厄介なものばかりだ。 隠密、 強奪などのアシスト系スキルからナイフスキルまである。 こちらが真正面から攻撃したとしても、 回潜られでもしたら子供なんて全員終わりだ。


────普通の子供なら。


「せっかくの提案だが、 断らせてもらう。 あいにく荷物には金目のものがはいっていないものでね!」

「"部分変化・赤龍"!!」

俺の挑発を合図にカインがスキルを使用し、 右手のみを見事な赤龍の鉤爪へと変化させた。

「……そーかよ、 野郎どもっ! 女以外ぶっ殺せ!!」

あちらもリーダー格の合図と共に、 腰に差したナイフを素早く抜き、 こちらへ駆け出してくる。

「うぉらっ!」

カインも突っ込み、 1番近くにいた盗賊に先制攻撃を仕掛けるも、 ナイフで受け止められてしまう。 鍔迫り合いのような状態の中、 すぐさまその隙を逃さず別の盗賊が背中目掛けてナイフを投擲する。

が、 そのナイフがカインの背中に突き刺さることはなく、 俺の剣によって弾かれる。

「行きます… はぁーーっ! "渾身拳"!」

「ぐがっ!?」

カインと鍔迫り合いをしていた盗賊の腹部に見事なまでの渾身拳が放たれ、 攻撃を受けた盗賊はたまらず退く。

「や、 やりましたよ!!────きゃっ!」

────だが、 まだ子供過ぎた。 経験もないキアラは

隠密で接近していたリーダーに気付かずに、 足払いを受け、 転倒してしまう。

「…っくそ、 離せ!」

「おぉっと、 動くなよ糞ガキ共……少しでも動いたら、 この女首がトぶぜ??」

すぐさま後ろに回り込まれ、 拘束されてしまったキアラの首筋には、 ギラりと光るナイフが添えられていた。

「や…やめて、 やめてくだ…さい……」

自分の現状をすぐに理解してしまい、 震えながら許しを乞うキアラ。

「ちくしょう…どうするゼン!」

形勢逆転とでも言わんばかりに俺達の回りを盗賊達が囲い始める。

……こうなったら、 使うしかない。

「2人共、 俺を信じて目を瞑っていてくれないか」

「バカかお前! この状況でそんなこと──」

「────早く!」

いつもバカにしてくるカインだったが、 俺の気迫に根負けしたのか、 静かに目を瞑る。 不安な顔は消えないが、 キアラも俺を信じて目を瞑る。


これで…心おきなく使える。

「何しようってんだ? 少しでも動いたら首撥ねちゃうからねぇ?」


相手に悟られぬよう。

相手に見つからないよう。

相手よりも速く……移動する。


「────"縮地しゅくち"」

「……はぁ!? いてぇぇぇぇぇぇ!!」

リーダー格の男が気付いた時には、 俺は既に目の前に移動しており、 それに反応してナイフを動かすよりも速く、 相手の腕を斬った。

「──カイン!」

「おうよ! "幻獣の咆哮"」

俺の合図に合わせ、 赤龍のスキルを使用する。

カインの事だ。 部分変化よりも、 その先のスキルを習得しているに違いないと踏んでいたが…。

「ま、 まさか口から火を吹くとはな……」

「ゼンくん!」

拘束が解けたキアラは、 今までにない恐怖から開放された勢いでか、 俺に抱きついてくる。 その身体は未だ震えており、 余程の恐怖だったと思う。

「ぎゃああああ! 服が! 服が燃える!」

「がっはっはっは! 火傷しねぇように調整しといたからさっさと帰れ〜」

「くそっ! お、覚えていやがれ!」

リーダー格の男も自らのベルトで止血をし、 取り巻きを連れて退散してゆく。

全員、 無事で何よりだ。

先程使用した縮地というスキルは、 じいちゃん曰く剣士でも覚えることの出来るスキルらしく、 自分の動きに急激なスピードを持たせることにより、 相手からの間合いを把握させずらくするだけでなく、 あたかも一瞬で移動したかのように錯覚させるスキルらしい。

「────って、 早く試験会場行かねぇと受付過ぎちまうぞ! ゼン!」

「や、 やばい…」

「は、 早く行きましょっ!」


無駄に時間を過ぎてしまったが、 早めに村を出ていたので無事に受付時間にも間に合った。

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