第2話
「……うぅむ、わしも見たことは無いなぁ」
聖協会で獲得した職業について、 元聖騎士長なら何か知っていることがあるかも知れないと思い聞いてみたのだが、 あまり芳しくなく、 結果としては何も成果は得られなかった。
そもそも職業というものは、なりたいものではなく、 本人の適性によって決まるものなので、 俺に合ったものであるのは確かなのだが……。 いかんせん職業自体がわからないとなるとどうしようもなくなってしまう。
「職業を獲得した後、スキルを使おうとした時なんかに声が聞こえるものじゃ」
「声…そういえば……」
俺は聖協会で勇者に選ばれた少年がスキルを使った時に聞こえた声がの事を思い出し、その事を話した。
「成る程…特殊職業の勇者のスキル、ホーリーソードの獲得…。にわかには信じ難いが、ゼンがわしに嘘を付かないことも知っておる…ばあさんはどう思う?」
そう言って、晩ご飯の洗い物をしていたばあちゃんにも助け舟を流す。
「じいちゃんに分からなくて、ばあちゃんはわかるの?」
純粋な疑問に対して、 ばあちゃんはタオルで手を拭きながら笑って答える。
「はっはっは、聞いて驚くんじゃないよ?あたしの職業は拳聖、現役の頃なんかじいちゃんと二人で『二頭竜』なんて言われてたくらいさ!」
「け…拳聖っ!? Sクラス職業じゃん!?」
職業にもランクがあり、 主にS、 A、 B、 Cに分けられる。 Sクラス職業は、 国家聖騎士の団長を務められる程強力な職業であり、 一国に10人程しか居ないとされる、 戦力としても貴重な職業なのだ。
「……じゃが、 あたしも見たこともないのぉ…。 昔、 まだまだ現役だった頃に技を模倣するスキルを使う者もおったが、 紋様は大魔道士じゃったし…試しにスキルを使ってみる他あるまい」
そう言って台所に戻り、 包丁を取り再びこちらに来る。 俺はその包丁を受け取り、 スキル名を言い放つ。
「"ホーリーソード"!」
すると、少しずつ包丁があの時の様に眩い光を発し始める。
「確かに、 光がまだ弱いとはいえホーリーソードで間違いないようじゃな」
しかし、 他に使えそうな気がするスキルは何もない──
────もしかすると…。
「これって…コピースキルとかなのかな?」
それならホーリーソードしか使えないのも納得だ。 俺がこの職業になってから見た事のあるスキルはホーリーソードただ1つしかない。
俺のなんとなくな疑問に、 じいちゃん達は互いに見合わせ、 真剣な顔になる。
「……ゼン。 もしそれが本当なら、 とんでもない事になるぞ……もしかすると、 ゼンの職業は"観察者"なのかもしれん…」
「……観察者?」
聞いたこともない職業に、 俺は首を傾げる。
「わしも実物の紋様を見たことがないから、 それが本当にそうか確実性はないが、 この国を作ったとされる初代国王が、 その"観察者"だったという話なのじゃ…」
この国、 グロリア王国の初代国王……。
「わしが聖騎士長をしておった頃に、 1度だけ国宝級の書物の警備に着いたことがあってな、 その書庫の中央に祀られるように置いてある本を読ませてもらった時に書かれておった」
じいちゃんの読んだ書物によると、 なんでも初代国王は多数の職業スキルを駆使し、 敵対していた国からの攻撃を1人で防ぎきった事のある程の実力者だったとか…。
だが、 何故そこまでの逸話がありながら周知されていないのか、 書物だけに留まらず教科書などに取り上げられても全くおかしくないような逸話だ。
そんな疑問を察してか、 直ぐに答えは返ってきた。
「強大過ぎる力故、 なのじゃろう…下手をすれば世界各国が協力関係に陥り、 この国を全力で滅ぼしにかかってもおかしくないからのう」
確かに、 話だけ聞く限りでは最強の職業と言っても差し支えないだろう……。
「……ゼンよ、 その話が他人事では済まされない可能性があるという事じゃ。 くれぐれも他言はしない方がいいだろう」
ゴクリ、 と無意識に固唾を飲んでしまう。
「入学試験まであと1ヶ月…それまでに、 ゼンにはわしら2人のスキルを習得してもらう…」
聖騎士と…拳聖のスキルを……?