第1話
この世界では、全ての人間が15歳を迎える年に聖協会にて“職業 ”と言われるものが与えられる。
単に聖協会の人間に決められると言う訳でもなく、なんでも白紙の分厚い本を本人が開くと、そこからそれぞれ職業に当てられた紋様が本に浮かび上がり、同じ紋様が右肩に刻まれるのだとか…。
かくいう俺は、来たる職業獲得の時に向け、日々の筋トレに励んでいた。
貴族達が住む上界、そして上界を囲うようにして広がる貴族以外の住む下界。 その下界に位置するのが、何を隠そう俺の住む村だ。
「196…197…198…199……に…ひゃく!!」
静けさのある森に、俺の日課である腕立て伏せを終えるカウントが響き、木にかけてあるタオルを手に取って汗を拭く。
この森は家のすぐ裏にある森なので、殆ど誰も来ることはなく、 日々の筋トレを誰にも邪魔されずに行うことが出来るという訳だ。
「おーーい、ゼン! どうせここにいるんだろぉ!」
前言撤回、うちの両親は邪魔してくる。 だが、両親といっても本当の両親という訳ではなく、この村で村長をしているじいちゃんと、ばあちゃんだ。
「はいはーい、今帰りまーす」
ガサガサと生い茂る草木をかけ分けながら、 俺を探しに来たじいちゃんの前にひょっこりと現れる。
「おぉ、無事だったか…お前に何かあれば、お前の両親に顔向け出来んからな…」
「何かって…じいちゃんに預けられてもう5年、俺も今年で15歳だよ…今までも何もなかったじゃんか」
「あれからもう5年も経ったんだなぁ……」
5年前、俺が10歳の誕生日をまだ迎える前の時、当時俺が暮らしていた小さな村に魔族が襲撃を仕掛けてきたのだ。 なんでもその村の近くに洞窟があり、 その最深部に貴重な魔石があったのだとか…。
魔石は、人間にとっては魔道具等のエネルギー資源として有効なものだが、 魔族にとっては魔力そのものを引き上げるものらしく、 魔石を取り込んだ魔族は上位魔族となり、 より強力な力を得る事が出来る。
そして、魔族の襲撃の報告を受け駆け付けたのが、当時聖騎士長を務めていたじいちゃんだったのだ。
魔族に襲われ瀕死状態の俺の両親は、 子供だけでもと、 じいちゃんに俺を託した…という訳だ。 そしてそのままじいちゃんは聖騎士を辞め、俺の面倒を見てくれている。 実際、実力はまだまだ現役だったので、 国からは多額の報酬を与える代りとして、 まだ聖騎士を務めるよう交渉したようだったが、 じいちゃんの決意は変わらずだった。
「……いよいよゼンも明日、 職業確定日じゃな」
「おうっ! 良いのが貰えるといいなぁ」
待ちに待った職業確定の日を前日に、 俺はまだこの時は呑気に夢を見ていた……。
────────────次の日。
「おい! ゼン! 出てこいっ!」
ムシャムシャとばあちゃんが作ってくれた朝ごはんを頬張っていると、 玄関前から名前を呼ぶ煩い声が響く。
深くため息を付き、 渋々玄関の戸を開けると、俺と同い年の少年、 『カイン』が目立つ紅髪を風で揺らし、 鼻息を荒くして立っていた。
この村では有名な悪ガキ軍団の大将的存在の少年で、 ことある事に難癖をつけては喧嘩をふっかけてくる のだ。 同い年で、 別の村から来た俺が気に食わないのだろう…。
「なんだよ…カイン」
「今日の職業確定で勝負しろ! 俺の方が強かったら俺の言うこと聞け! 」
気に食わないのは何となくわかるが、 ここまで来られると流石に鬱陶しさを覚えてくる…。
だが、 この挑戦を逃すことは出来ない…。 上手く行けば、 逆に俺の言うことを聞かせられる。
「はぁ…分かったよ」
「よしっ! 逃げんなよっ!」
俺の返事に満足だったのか、 ニヤリと笑みを浮かべて家の玄関を後にする…。
「────ゼン・アルファ…前へ」
ゴクリと固唾をのみ、 1歩ずつ前へ進む。
…ついにこの時が来た。 ここで与えられる職業で今後の全てが決まると言っても過言ではない…。
聖協会師に渡された分厚い本をゆっくりと開く。
──すると、 瞬く間に本が光り出し、 1つの紋様が浮び上がる。
その紋様は、 ひとつの目に2つの瞳孔の様な物があるマークだった。
「────っつ! 」
右肩に急な激痛が走り、 ジリジリと音を立てながら同じ紋様が刻まれた…。 紋様は、 職業を表すようになっているはずなのだが、 この紋様が一体何を表し、何の職業を表しているのかかがさっぱり分からない。 見た目からして『目』にまつわるものだと言うことは分かるが、 それ以外はさっぱりだ。
その時、 後ろで「おぉーーっ!」と、 歓声があがり、 反射で振り向く。 その人物の肩には、 『勇者』
を表す盾と剣の紋様が刻まれていた。
「…よし、 君。 試しに何かスキルを使ってみたまえ…」
スキル、 それは職業が決まったと同時に使えるようになる、 所謂能力のようなものだ。 強力な職業程強力なスキルを使用する事が出来るようになり、 職業事に扱えるスキルが違うのだ。 その為、 いくら聖騎士に憧れようとも職業が武闘家だった場合、 聖騎士にはなれない。
「……分かりました」
聖協会師に渡された剣を受け取り、 スキル名を発する。
「…はぁっ! "ホーリーソード"」
すると、ただの鉄の剣が眩い光を放ち出し、 その光景に再び協会全体が歓声を上げる。
これで、 その少年の未来は安泰だろう…。
そう、 なりたくてもなれないのだ。 今まで育ててくれた…憧れたじいちゃんのような聖騎士には…。
その時、 突如脳内に直接語りかけて来る声がする。
『勇者スキル:ホーリーソード を獲得しました』
……は?