04幕 千代の乙女*
ある日、毛利千代は自分がもう一つ記憶を持っていることに気付く。ここは乙女ゲームの世界、そして自分はそのヒロインの恋敵の令嬢。記憶が知らせる醜く転落する将来の暗闇。僅かに見える光に向かって千代は自ら走り出す。
キーワード:R15 日本風 乙女ゲーム 婚約破棄
ある朝、毛利千代は妙な気分で目覚めた。
知っている天井と知らない天井が、頭の中で溶けあっていく。身体を起こして辺りを見回す。綺麗な日本家屋の広い部屋は程よく飾られ、千代の家が裕福な事を示していた。
小さな手をじっと見つめ、千代は悟った。
「私、私じゃない誰かの思い出を持っているわ……」
その日、千代は最近出来た、身支度用品が全て揃うという大型の店へ使用人と共に出かけた。再来年、十二になると千代は女学校に上がる。そのための下見だ。ついでにドレスを一着見て来いと父親は優しく笑った。この時代ではまだまだ着物が主流で、洋風のものは取り入れている最中。ドレスは高級品。昨日までの千代も父親にねだっていた。
大型の店と言っても長屋の一部屋がそれぞれ店を構え、中央の井戸をつぶし庭園のように仕立てた店舗の集合体のようなもの。西洋風の「百貨店」は目下建設中で、それの見本のような物らしい。必要な物や取り扱い品を頭に入れながら歩いていく使用人。
売り場をくるくると回る間に千代は思い出の人物の知識をゆっくりと自分の中に咀嚼していった。ここは明治時代をモデルにしたおもちゃの物語の中で、千代の運命は決まっている。思い出はたくさんの情報を教えてくれた。
「お嬢様、ドレスをご覧になりますか?」
「いいえ、いいわ。どうせすぐ小さくなってしまうもの」
「旦那様が宜しいと仰ってましたし、楽しみにされていたでしょう?」
「いいのよ。もっと身長が伸びて、もっとレディになれたらおねだりするわ」
使用人は昨日までの千代を思ってか少しためらった顔をしたが、無理に買わせる値段ではない。「左様ですか」と笑って売り場を後にした。
ある瞬間、気付いたら千代は使用人とはぐれていた。辺りを見回すがいない。すると一人の男性から声を掛けられる。
「お嬢さん、ハンカチを落されましたよ」
確かに千代のハンカチだ。お礼を言うと、一人かと聞かれる。
「使用人とはぐれてしまったの」
「なるほど。では、いい案があります」
そう言うと長屋の中央、中庭に並んだ縁台に千代を連れて行き並んで座る。
「ここなら行き違いにもならず、僕が君を連れ去る心配もなく、見つけてもらえそうじゃないですか?」
なるほど、千代も同意する。
そこで初めて男性をきちんと見た。年の頃は十七から十八、だが身体が明らかに小さい。着物からのぞく腕も白くて細い。
視線に気付いたのか男性が寂しそうに笑った。
「僕は身体も弱いので、さっきもここに座って休んでいたんです。おまけに目が悪くて。はぐれた方を一緒に探せなくてすみません」
無礼だったと慌てて視線を下げると、彼の手に少し色がついているのに気づく。
「あぁ。僕は絵を描いていて、絵具を買いに来たんです」
そういえば中に顔料を扱っている店があった。瓶に入った色とりどりの粉末が美しく見惚れていた時、使用人とはぐれてしまったのだった。
それをきっかけに色々な話をしていると遠くから千代を呼ぶ声が聞こえた。
「あ! 見つけてくれたわ!」
慌てた使用人が走ってくるのに手を振り応える。
「私、千代と言います。ありがとうございました」
「僕は清。気を付けて」
儚げな淡い笑顔が美しかった。
こちらにやってきた使用人は涙ながらに千代の無事を喜んだ。
公爵家から清の家に礼の品として膠と絵具が贈られたことをきっかけに、千代と清は手紙を交わすようになった。千代は清の手紙を大層大事に保管した。清の季節を謳う言葉はどれも千代の宝物だった。
千代は思い出を持つようになったその日から以前のような贅沢を言わなくなった。地味だと思った祖母の着物も大事に扱い、少しずつ着るようになった。それらに華やかさはなくても千代にとてもよく似合う。他のいろいろな物も大事に大事に使うようになった。それはぼんやりとした思い出の誰かが、何かを失った記憶によるもの。十の千代にはその思い出の語る物への愛着のなさがなんだか無性に悲しく思えたのだ。わがままだった性格も徐々に穏やかになっていく。
その千代の変化も両親には嬉しいものだった。思い出のことなど知らない両親は口にはしないが清のおかげだと思っていた。
だから千代がひとつのわがままとして清と友人として手紙を交換したいとお願いしたときもすんなりと許した。恋文ならいざ知らず、二人の手紙はいつも庭の草木のことを美しく表現する言葉が並べられているだけ。手紙の言葉の美しさも、両親は千代のためになると喜んでくれた。
千代が十一の夏、清が用事があるというので会いに出かけた。勿論使用人も一緒だ。じき二十歳になるという清はあの日よりもしっかり見えるが、他の二十歳の男性に比べるとやはり貧弱だ。会うのはあの時以来。改めてあの時の礼を言うとこちらこそと清は笑う。
「今度入学すると手紙にあったから、簡単なものですまないけれどお祝いだよ」
贈り物は素的なハンカチだった。清が紡ぐ言葉の様な、繊細なレースが美しい。小さく千代の名前の縫い取りが入っている。千代は素直に喜んだが、ふと湧いた思い出の中ではハンカチは別れのしるしだ。清の気持ちをもしやと感じた。
清に手紙を出したが、予想通り返事が来ることはなかった。思い出は清を知らない。彼はこの人生に関係のない人なのだ。
そしてその年の秋、千代は女学校に入学した。
この頃の女学校は十二から十七までの華族の女子が通い、卒業するのではなくこの場で人の親に見初められて結婚を理由に退学というのが一般的であった。
思い出によると十五の頃にここで千代の運命が転落するという。千代はそれまでは安全だと考え、女学校を楽しんだ。清への手紙は続けていたが返事が来ることはなかった。
十四になる頃、一軒の侯爵家から千代に婚約の打診が入った。大久保家である。軍人を輩出しており、相手も軍人だという。職業は良くないが良家ではある。
家を訪れた男性は茂という名で十八の美男子だった。思い出が断れと警告音を鳴らす。だが断るにはこれといった理由もなく、相手は優しいいい人だ。明るい返事を返す事もないが手強く断れずに話は進む。
婚約を了承するなら結婚までこれを大事に身に着けてほしい、と彼が取り出した小箱の中の櫛を見た時、思い出は溢れかえった。
ここは思い出の「自分」が遊んでいたゲームの中。千代はゲームの悪者で、婚約者と恋に落ちた下流のご令嬢をいじめてしまい、婚約を破棄され十六で退学になるのだ。目の前の彼がその婚約者である。どんなに仲良くなっても結果は一緒。その結末をどうにか避けられないかと思い出を掻き回すが、無理な事を悟った。どこを見ても思い出は胸を痛ませた。
それならば失礼にならないように断るのが良いと、千代は頭を巡らす。
まだ婚約も結婚も考えられないというと、茂は返事は結婚が出来るようになる歳まで良いと笑顔で受け入れてくれた。良心は痛むが千代は未来が怖い。
千代はぼんやりと、だがしっかりとした手付きで櫛の箱を押し入れにしまった。
十四の頃の千代は茂と数回出かけた。千代を見初めた彼の母親はとかく気を回した。千代も失礼のないように誘いには乗り、それらしく過ごした。茂は大変に魅力的で、千代はもしかしたらの可能性を感じないわけではなかったが、毎度すぐに思い直した。父親にはそれとなく意思がない事を伝えたが、家と家の繋がり、まして男尊女卑の世の中である。特に非のない茂を無下にすることなど出来ない。千代は茂を好意的に見ようとするたび、別の事を思い出した。
そうして十五の秋がやってきた。
嫁ぎたい娘たちと、いい嫁を迎えたい母親たちの攻防戦が激しさを増す中、一人の女子の噂が流れる。乙女ゲームのヒロイン、伊集院すずのことだ。
下流階級の家の子だけあって些か無遠慮な事があり、これまでも上流階級と言い争う姿を見かける事があった。しかし今回の噂はそうではなく、街で何人かの男性と噂になっているというものだった。商家の人間や警官、様々な男性と仲が良いようだ。それを裏付けるような高級品も持っているという。
この時代の女性は大きくタイプが分かれた。華族であれば大概が西洋化の波に乗り、貞節を重んじる教育を受けている。遊郭を禁じた政府もそう推奨している。しかし一部の女性は女を武器にうまく立ち回る、旧体制の思想。そして伊集院すずは、どちらかというとそちらに属する。男性の心を射止めるのは彼女にとってそれこそゲームのようなものだ。人に甘えることが上手で、新しい可愛いものが好き。捕まえておかないとどこかへ行ってしまいそうなそんな女性に見え、男性の庇護欲や支配欲を刺激して虜にしていた。
思い出は今噂になっている男性も皆、彼女に恋をして当然だと教えてくれた。そしてこれに茂が入る。思い出によると少し時期がずれているようだが、千代にとっては大した問題じゃない。千代にとっての問題は、茂がすずを選ぶとき、どう穏便に茂と縁を切るか、それだけだ。
これまでの付き合いで茂にはいくつかの良家との繋がりがあることを知っているから、このまま他の人と決まってほしいと願った。思い出によると他の縁談は千代がけん制してなくなるのだという。その中には真剣に茂を愛している子もいた。思い出のように、自分こそが相応しいと千代が婚約者を気取っていない今なら、他人に流れて不自然ではないし自分も傷付かない。
何より茂だって自分に恋はしていない。思い出の茂も今の茂も「君は家が決めた婚約者」としか言わないのだから。千代は茂がヒロインと接触する頃に様子を見て櫛を返そうと決めた。それなら茂も受け取るだろう。
ある日、千代は清からもらったハンカチをなくしてしまった。今朝は確かにあった。校内で失せ物と思われるものは届け出る決まりだが、誰からも届け出はないという。先生にも協力してもらい学校中を探すが見当たらない。
肩を落として帰宅すると母親に心配される。明日また探すと笑って返した。別れの意味が込められていても千代にとっては宝物だった。一週間が過ぎても見つからず、千代は清に詫びの手紙を書いた。悔しくて涙がこぼれた。
それから数日。千代はあのヒロインがハンカチを持っていることに気が付いた。関わりたくなかったが、そのままにできず声をかける。
「あの、伊集院さん、うかがいたいのだけれどそのハンカチは……」
「教室で拾ったのよ?」
あっけらかんというその姿に怒りを覚えるが冷静に言う。
「申し訳ないけれど私のハンカチなの、お返しいただけるかしら」
「え? 本当に?」
昔の千代なら怒鳴りつけていただろう。だが思い出は丁寧に返すように言えという。お礼をいう気持ちになれなかったのは悪いと思うが、一週間以上手元に持たれてこの態度。心がくさくさする。
「ええ、小さく縫い取りがあるでしょう。それにもし拾ったのなら学校に届け出るようにと、決まっているはずだから、守っていただけるかしら?」
穏やかに諭すように伝えたつもりだ。だがすずの友達が声を上げる。
「えっ? すずが盗ったっていうの?」
「違うわ、拾い物のルールを言ったの」
だが聞かない。
「私盗ってない! 自分で持ち主を探そうと思ってただけ!」
その割には自分の物のように扱っているじゃない、と千代は気分が悪くなる。
「あなたが盗ったなんて言っていないわ。拾ったというから、校則に従ってほしいと言ったの」
「ハンカチ一枚でそんな事言うなんてお金持ちなのに随分ケチなのね!」
その言葉に思わず眉根が寄る。目が吊り上がるのが自分でもわかる。
「……金額ではないわ。それはとても大事な物なの」
それだけを言うのに精一杯。他の言葉が出たら、千代が悪者になってしまう。
伊集院すずとその友人は先生に言いつけると走っていった。このあとどうなるか思い出は教えてくれた。きっとその通りに自分が悪くなるのだろう。だがハンカチが戻りさえすればそれでいい。
思い出は先生と両親の叱責を教えてくれていたが、それは現実にならなかった。失くしたその日に届け出をしたからか先生は優しく「友人とは仲良く」と言うだけだった。両親も千代が物を大切にしており、悲しみながら探していたのを知っているからか「気を付けるように」と色々な意味を込めて注意されただけだ。
気持ちは晴れないが、これ以上も望まない。千代はハンカチを大事に押し入れにしまった。その時、櫛の箱が目に入り、思い出がこれは本当は櫛をなくすのだと教えてくれた。寒気がした。あの櫛をなくしていたらどうなっただろうか。
次の日、千代の元にはがきが届いた。差出人は清だった。気にしないでという短い言葉と共にそこには美しいマツユキソウが描かれている。花言葉は「慰め」。千代はその励ましに心から感謝した。
ハンカチの件を皮切りに校内には亀裂が生まれていた。千代本人は気にしないが、下流の令嬢たちに陰口をささやかれるようになった。冤罪も甚だしいが、すずに怒鳴り散らした事にされている。上流たちはこれ幸いと、ハンカチ泥棒だとすずの陰口を叩いた。事態が学校の醜聞になると思った千代は先生に注意をお願いしたが、闘いは水面下に移行しただけで何も変わらなかった。結婚が決まり辞めていく子たちがうらやましく思えるほどに、校内はギスギスした。
この頃には千代は清への思慕を自覚し、一連の騒動の件もあるし茂との婚約を断るようにと父親に頼んでいた。父親も渋り、茂の母親もめげないが、千代自身は茂には嫁がないと決めてしまった。もうずっと茂からは彼の意志で誘われる事はなかった。いつだって彼の母親の意志で誘われている。そんな誘いにも気乗りしなくなった。街で彼と「誰か」を見かけたのも大きかったが。
十五の春を迎えた。
この頃茂からの誘いはない。千代の元にくる誘いは全て彼の母親の名前だ。思い出によるとこの頃、茂はすずと会っているようだ。千代は先日のあれが気のせいではないと確信を得て、夏の誕生日を迎える前にどうしても正式に断ろうと心を決めた。
学校に行くと毎日すずが自慢気に話しているのが耳に入る。わざと見つけられるように高級品を持ち、友人にうらやましがらせる。自分にはそんな気はないが色々な男から好意を寄せられているというのだ。困っているようだが本心は違うのが透けて見える。
思い出はあんなに嫌な子ではなかったというが、聞こえてくる彼女の噂はどれも気持ちのいいものではない。彼女の傍若無人さはこの時代には浮いて見える。
千代は悲しい気持ちになった。もしこの子に遊ばれているとしたら茂さんは気の毒だ。茂さんは幸せになれるだろうかと少し心配になる。少なくとも千代と接していた茂はいい人だったから。
ある日、校門に茂がいた。すずと話している。黙って通り過ぎようとする千代を茂が呼び止めた。振り向くとすずが怯えた顔で茂の横に控えている。
「ごきげんよう。私をお呼びでいらっしゃいますか?」
穏やかに聞くと茂は近寄ってくる。まさかとは思うが、ハンカチのことなどで何か言われてはたまらない。あれについては茂も知っていることだが、すずがどう話すかは想像に難くない。
「今日は仕事が早く終わりましたので、少しお話をと思いまして」
千代は少し考える。すずに用事ではと聞くとたまたま話していただけだという。どう扱ったものかわからず、千代は曖昧に「では自宅で」とだけ答えた。
「二人ではだめですか?」
「婚約者でもない方と二人は目立ちます。貴方のお立場もありますから」
そういうと少し考えて納得してくれた彼は、千代と共に屋敷へ向かうことになった。学校を後にする背中を睨まれているのを千代は感じていた。
茂の話は婚約の件だった。千代はもうすぐ十五になるからと。千代の心は決まっている。素直に断りを伝えると茂は慌てた。
思い出の事もあったが、千代はこの婚約を気に入ってない。実際に茂と過ごしてそれを実感した。
この時代、男は妾をもっても不思議ではない。だが千代は思い出を咀嚼した時から、嫉妬深くわがままな自分が妾など許せるわけがない、思い出の価値観のように一夫一妻で想い合っていたいと願っていた。
だから他の女の影が見え隠れする茂とのこの婚約を結び守ることができない。思い出の中の苛烈な千代も、清への想いを封じ込めてまで家に従ったのに裏切られ傷ついて、それでああも激高するとしたら、千代は納得なのだ。今の自分なら同じようにすずをひどく詰れる気がした。
だが茂はいい人だ。今の段階では候補にしておいたおかげで浮気とは言い難いし、責める事は出来ない。だからこそ、茂にはいい人のまま幸せになってほしい。茂をつなぎとめる努力が出来ればいいのかもしれないが、多分無理だ。お互いの為にも、なだらかに縁談をなかったことにしたい。そう思って、千代は頑として首を縦に振らず、この日の話は終わった。
その数日後、千代は何故か伊集院すずを目の前に一人で廊下に立っていた。
「だから、このままじゃ茂さんが可哀相よ!」
先程から茂との婚約を辞めるように言われ、千代自身も断っていると伝えている。しかし何故かこちらを詰る一方で一向に話が進まないのである。そもそも婚約者ではないし、打診を断る書類が進まないのは千代ではどうしようもない。
「あなたが茂さんを蔑ろにするからこの前も校門まで迎えにいらして!」
千代は別に茂に冷たくしたことはない。当初から茂には適切な距離で礼儀を持って接してきた。千代だって始めから思い出の通りになると信じていたわけではない。家のことを思い茂と結婚する可能性を考え直した事もあった。すずに出会う前は心を殺して最悪すずを妾にする未来を想定しなかったわけではない。でも茂自身を見ていて千代に心がないことがわかった。そしてすずを見て思い出は真実だと思い至った。そして自分もそれに耐えられない。だから予定通りに決断したのだ。
冷たいと言われても、すずのようにみだりに触れたり、強請ったりすることは千代には難しい。はしたないのは、捨てられない清への想いだけで充分だ。
ひとしきり茂が可哀相だから別れろ! と大声で喚いたすずに解放された時には雨が降っていた。夏には急に雨が降るものだ。遅くなる予定がなかったので傘はない。濡れて重い袖を振り乱して雨の中を走って帰った。
全身ずぶ濡れで、涙か雨かわからない濡れ方の顔の千代が父親に破談を訴えると父親は観念して書類を用意してくれた。それと共に茂の元へ櫛を送り返す。一度しか開けていないその箱の中身を確認したがやはり美しい櫛を見ると胸が痛んだ。だがもう、うんざりなのだ。
茂には手紙を添えた。
――好意がなくても結婚は出来るが、私はあなたを幸せにはできない。お断りするけれど茂さんには幸せになってほしい――
思い出のような決別ではなかったけれど、すずという影で茂と千代の縁は確かに終わりを迎えたのだ。
ハンカチをもらってからも千代は定期的に清に手紙を出していた。返事などなくても構わない。清に庭の様子を伝える手紙を書くと気分が晴れる気がした。
十六になる年を迎えた。この歳になると結婚が可能になり、同級生はめっきり減る。すずはまだいる。思い出の通りなら千代は冬には退学だ。寒い師走の空の下、親にも見捨てられる可能性があるという。今の両親がそうするかはわからないが、跡取りには兄がいる。何が起こっても不思議ではない。
千代の元に手紙が届いた。清からだった。以前と同じような美しい言葉の結びに千代を案じる言葉が書いてある。この前出した手紙は気が弱っている時に書いたものだ。大丈夫だと返事を書こうとして、書けないことに気付いた。涙が出て仕方がない。思い出は色々教えてくれるが、最終的にどうなるかわからないのだ。
ある雨の降りそうな日、千代は急いで家路についていた。間に合わず小雨が降りだす。先の日を思い出して少し切なくなる。走り出して間もなく雨脚が強くなったその時に、近くの喫茶店のドアが開いて、思いがけない人物から声を掛けられた。
「千代、おいで」
清だった。
久々に会った清は前よりしっかりしていたが変わらなかった。四年少し、会いたかった懐かしい顔。連れだと席に案内しながら、濡れていては風邪をひくとハンカチで拭いてくれる。これくらい大丈夫だと言っても肺炎の心配までして納得してくれない。身体が弱い清のことだ、過敏なのだろう。
温かいお茶を飲むと気分も落ち着いた。雨は本格的に降りだしている。千代が清をじっと見つめると視線に気が付いた清が困ったように笑う。
「……家まで送ろうと思うが、いい?」
清の気遣いは千代をいたたまれなくさせる。嬉しさを隠しきれない顔で頷くと清は目を細めた。
「それなら、何よりだ」
二人で傘を使いながら立派な公爵家の門にたどり着く頃に、千代に傘を持って戻ってきた使用人と鉢合わせた。どうやらすれ違いになったらしい。清に礼を述べた使用人が傘を差しだしながら、濡れて帰った前科があるからお待ちくださいと言ったではありませんか、と千代を叱ると、少し肩を濡らした清が心配そうに千代を見た。
翌日、千代の元に清から体調を気遣う手紙が届き、それから清との手紙のやり取りが再開された。手紙の内容は前と変わりないが、千代は毎日がとても楽しかった。両親は二度も娘を助けてくれた恩人に何か返したいと言うがまた絵具では芸がないと頭を悩ませていた。
その次の休日、清が毛利家に来るという。
礼の代わりと言ってはなんだが、千代をモデルに人物画を描かせてほしいというのだ。聞けば清の絵は身近な題材の物や風景が多い。ところが世話になっている画廊の勧めで一度人物画を描いてみる事にしたらしい。うまく描けるかもわからないが画家としての道を模索したいという。勿論千代がモデルなのだから、毛利家に贈るという。
本来身体が弱い清は外出を控えたいが、家に千代を通わせると千代の名誉を傷つけるかも知れないから、自分を毛利家に通わせてほしいと言うと両親は快諾した。勿論千代も私で良ければとはにかんだ。清に会えるのだ。これ以上の幸せはない。
清を家の人力車で送ったあと、千代は冬という期限を思い出し、父親に清の身体の事を思って車で送り迎えをしてほしいとお願いした。それなら清も頻繁に通えるだろう。父親は数少ない娘のわがままを受け入れてくれた。
屋敷に来た清は、千代の持っているお気に入りの着物を見せてほしいという。今の千代のお気に入りは母と祖母のお古を組み合わせて着る事である。
さっと並べて見せると清は頷きながらいう。
「随分古い着物を大事に着ているんだね。これなんか素的だ」
それは祖母の一番のお気に入りの着物だ。千代にはまだ早いが憧れていた。
「帯次第ではと思ったけど、十六の千代らしい方がいいか」
と、千代に一番似合うと母が譲ってくれた着物と、祖母の帯を二本選り分けた。
「千代の好きな帯を選んで」
着替えた千代を見て清はにっこり笑った。
絵を描くときには、疑われないように必ず人を側に置くことを清は提案した。手元をのぞきこまれたり、すぐ側にいられなければ集中できるという。両親はこれも快諾、使用人の他に自分たちが一緒にいる事もあった。
千代を椅子に斜めに座らせ、筆を手に取る。練習だと何枚か筆を走らせ、千代のイメージを掴んでいく。千代は清の真剣な瞳や、たまにめがねをかけて別人のようになる様子に胸をときめかせた。
こうして、千代は幸せな日々を過ごした。清に昼食を振る舞うことがあり、千代も料理を手伝った。思い出はたくさんの料理を教えてくれた。急に洋風文化が発展した最近の食事を体に優しくアレンジしたものを出すと清はとても喜んでくれる。公爵家という使用人の多い環境でも家庭的な千代の事を清は良く褒めた。
両親が清を娘の夫としては考えていないことを千代はわかっていた。身体が弱く、次男、そして画家。条件が悪すぎる。恩があっても公爵家の娘を嫁がせる気はない。それでも清と一緒なら良かった。冬までの限定でも構わなかった。本心を言えば清に嫁ぎたいが難しいのだ。辛すぎる思い出の終わりまで、せめて幸せでいたい。
学校は相変わらず、すずの周りは賑やかだ。洋装を自慢している様子も見えた。たくさんの物を贈られ、誰と結婚するか決められないでいるらしい。その中に茂もいるという。並行していた他の縁談より、すずを取ったということだ。千代は少し悲しくなった。
門を出たところで茂の母親に声をかけられた。「お願いがあるの」と彼女は声をひそめて話し始める。
「茂が伊集院家のあの子と結婚したいと言い出したの。妾ではなく本妻よ。お願い、どうか茂との婚約をもう一度考え直してほしいの!」
この夫人も嫉妬深く妾など許さない方だと聞く。千代は首を横に振った。
「おばさま、ごめんなさい。私と会っていた頃の茂さんはもう彼女と仲良しで、二人でお出かけなさっていたの。茂さんの心は初めから私にありませんでした。それに私より池田様の方が茂さんをお好きだったと聞くわ。彼女との結婚を願って身を引きましたの」
ほんの少し嘘だが、努めて自然に話す。夫人は愕然とした顔で続けた。
「あの女が池田様を退けてしまって我が家は池田様に絶縁されてしまったわ」
千代が驚く番だった。池田家も華族では力がある方だ。すずがどうやりあったかわからないが、どう退けたというのか。あの女をどうにかするのは公爵家でないと無理よ、と泣き出さんばかりの夫人に、どうしようもなくお詫びする他なかった。そしてその数日後、茂の婚約者の有力候補と思われていた最後の公爵家も縁談を断った。
本来ここで他の婚約者を蹴落とすのは千代、そして茂に付きまとうすずを嫌う。だが、千代は一番初めにすずによって落とされた。思い出との齟齬に千代は焦った。もしかして、冬までに私は終わってしまうのかもしれない。
その日はそれが頭を占めていて、千代は清が急接近していることに気が付かなかった。筆と紙を持ったまま、おもむろに千代に顔を近付ける清。
「じっとして」
そう言われ顔を覗かれる。さすがに近いと、同席する父親が止めようとすると清がさらさらと書き留めていることに気が付く。千代がぎょっとしたことに気付いて清も初めて冷静さを取り戻したようだった。
「すみません。集中しすぎました。目が悪くて、近くのものはこの方が良く見えるのです。左目のほくろをきちんと描きたくて」
頭を掻きながら申し訳なさそうに言う。めがねは頭の上にある。
「そうでした。人を描くのだから、あまり近づいてはいけないね。癖とはいえ失礼を。すみませんが、絵に描く範囲で充分なので首と手にほくろがないか、見て教えてもらえませんか?」
そういう清に父親は明るく答えた。千代もまた、気まずそうに笑う清に笑った。
それから数日後、千代は清にこっそり聞いた。「もし自分が家から勘当されることがあったら使用人でもいいから置いてくれるか」と。清は驚きながらそんなことはないはずだが、万一の場合は面倒を見ようと約束してくれた。きっとですよ! と笑うと清は困ったような顔をしていた。
使用人でも清の側にいられればいい。千代は満足だった。
その日、使用人と千代は例の長屋の前で清に出会った。絵具を買いに来たのだと笑う。車だったので誘うと清は喜んだ。
そこに、話しかけてきた男性がいた。
「あんた、黒田って画家だろ」
日本人にしては長身な彼はとても目立つ。ハイカラな出で立ちの長い腕に、しなだれかかる一人の少女。伊集院すずだった。思い出が言う。すずに熱を上げる商人の息子だと。
「なんでも凄い絵を描くらしいじゃないか。ひとつうちと商売しないか?」
清は商家で商売になるほどはたくさん描けないから、と断る。
「いや、速さはいいんだ。依頼を受けた人物画を描いてくれればいい、どうだ?」
清は首を横に振る。
「人物画は描かないことにしたんです」
この前あんたの下書きを画廊で見て、と説得する男に清は頷かない。すずを描いてほしいと本音を伝えてきた男の発言を受けてすずが清を見つめる。
「私なら古臭い着物ではなく、ドレスでお望みのポーズを取れますわ」
身体をくねらせ隣の男にぺたりと寄り添う。千代は思わず目を逸らす。
暗に千代をつまらないと言っている。清まですずにとられてしまうと思って千代は内心泣きそうになる。
だが、清は言った。
「いいえ、もう人は描きません。あの一枚だけで人は描かないと決めたんです」
描けないんです、と深く頭を下げる清に興味を失ったのか、二人は去っていった。
「千代の姿絵は必ず描くから安心して」
そう笑う清に千代は涙を浮かべながら礼を述べた。
それからしばらく。季節はすっかり冬だった。相変わらず上流階級でのすずの評判は悪い。この頃、千代の悪い噂が校内を走った。自宅に男を招き入れているというのだ。清のことだが、それは事実なので否定しないでおいた。どこから流れているかの想像はつくがどうでもいい。残り少ない上流階級の友人達も今や結婚争いが苛烈を極めつつある。蹴落とし合いも必死な中、誰も本気で心配などしない。聞かれれば画家に絵を頼んでいると答えるが自ら収束には努めない。もうすぐ退学だもの、と千代は思っていた。
遂に先生の耳に入り、呼び出されたので説明すると先生は納得したが困った顔をされた。千代はやましい事はないが、学校に迷惑がかかるなら辞める意志があることを伝えた。先生は益々困った顔をした。潔白な人を辞めさせる必要などないが、潔白の証明にはこの不名誉な噂を公爵夫妻に話すことになり、それも気が引けるのだろう。
その帰り。すずや幾人かの女子に明らかに嫌味を言われた。
「画家の前で脱いでるって聞いたわ、はしたないわね」
「よく茂さんの婚約者だなんて言えたわね。嫌われて正解だったのね」
一度も自称したことなどない。くだらない。言葉遣いのはしたない人たちは噂も汚い。千代は相手にしないと決めたが、次の発言は許せなかった。
「画家の先生だって大した人じゃないんでしょう? 裸など描いてどうするつもりなのかしら」
「まぁいやらしいわね」
「身体が弱い不良品だと聞きましたわ。お国の為に働けないんですって」
くすくすと笑う彼女たちに、猛烈な怒りが沸き上がった。
「あなたたちこそ恥ずかしくないの」
これまでにないぴしゃりとした物言いで千代が場の空気を変えた。遠巻きにいた者も全員が千代を見る。
「先生は破廉恥な方ではないし、描いているのは着衣の姿絵よ。それに必ず両親が同席していたわ。憶測で我が家に泥を塗るなんて、いい度胸じゃないこと」
怒りに任せて尊大な言い方になる。もうどうにでもなれ。千代の気持ちはひび割れてしまった。すず以外の少女が真っ青になる。
「なによ、あなた――」
「あなたみたいに街中で売女だあばずれだと呼ばれている破廉恥な人に、先生や我が家を侮辱される覚えはないわ。今まで相手にする価値もないと黙っていただけ」
これにはすずも顔色を変えた。本人は知らなかったようだが、華族でありながら貞操観念が緩いすずの評判はとにかく悪く、街中でも評判になり蔑称で呼ばれている。
「先生をお慕いしている私を何と言おうとかまわないけれども、先生と公爵家への無礼は見過ごせないわ。立場も弁えず学校の評判も落として、噂に違わない太さでうらやましいこと。さぞ覚悟がおありなのかしら」
思い出が頭を抱えている。この言い方がきっと元々の千代の性格なのだろう。だがもういいのだ。空気を震わす迫力で場を睨みつけて、優雅に踵を返した。
「ごきげんよう」
千代は夕暮れの道を駆けた。ゆっくりしていると泣いてしまいそうだった。褒められたことをしたわけではない。気が晴れたわけでもない。みじめで仕方がない。
走りながら考えた。もう思い出は終わってしまい、ここからの千代の事は「勘当になったという噂」以外何も教えてくれないが、過程はどうあれ思い出は全て結果として現実になった。勘当がどう訪れるかわからない以上、怯えるより自らその道を選んだ方が心が壊れない。この道を進まねばならないのだ。
――私の思い出はここまでしかないなら、ここからの私は自分で決める。
千代は舞台から飛び降りた。
家に帰り両親に全てを話す。噂の事も、すずの事も、自らの意志で退学したい事も。両親は怒り狂ったが千代はそれに続けた。
どんなに弁解しても私に付いた醜聞は疑いになって消えないだろうと、年頃のうちにどこかへ嫁に出すのももう難しいだろうから、せめて好きな人の所へ行きたい、わがままは承知だが勘当してほしい。
母親はそんなことは許さないと言ったが、父親は静かに清の所かと聞いた。千代が頷くと、どんなに苦労するかわかっているのかと怒りを殺した声で言われる。受け入れてもらえなくても、この扉が二度と千代に開くことはないというも、千代の決意は変わらない。
「覚悟の上です」
母親は守れないことを詫びながら泣き崩れた。父親は背中をさすりながら言った。学校の事を何とかして汚名を晴らしてもお前は行くか、と力ない質問にも千代は迷わない。
「千代は清様をお慕いしております。もうずっとずっと昔から」
着物だけ持ち出すことを許そうと父親は言った。大事な着物と清のハンカチと手紙を包む。
別れ際、走ってきた使用人は千代をぎゅっと抱きしめた。困ったらここへと渡された紙には母の実家の住所が書いてある。両親が相談して決めたのだろう。千代は感謝の言葉を伝え公爵家の門をくぐった。二度と迷惑をかけないと誓って。
清の家の戸を叩く。年老いた使用人が戸を開け、驚いた顔で千代を見る。優しく袖で千代の涙をぬぐうと、奥へ案内してくれた。知らないうちに泣いていたのだ。
清が暮らす離れに着くと、千代は名を聞かれなかった訳を悟った。画商へ見せたものだろうか。描きかけの千代の姿がそこにあった。思わず見つめてしまう。
母屋にいた清が走って戻り、千代の姿を見つけるなりそこに座り込んだ。
何も言わない千代に対し、大きくため息をついた清は立ち上がった。
「おいで」
案内された奥の間はとても広い。続きの襖を開けて使い易くしているようだ。紙が貼られた大きな板や、水の入った甕。すり鉢の並びに色とりどりの絵具の瓶が並んでいるのが見える。
「そこへ」
火鉢の傍へ座るように言われる。ついたてに囲まれた一角だけ小部屋のように温かい。清も傍へ座る。火鉢のへりに掛けられていた嗅ぎ慣れない妙な匂いの液体を清がそっとついたての向こうへ押しやった。
静かな時間が流れる。一度先程の使用人がお茶を持ってきただけで、人の気配はそれきりしない。
「僕は身体が弱いから、この離れで暮らしている。あの者だけが小さい頃から、よく面倒を見てくれるんだ」
ぽつりと清が話す。
「庭の草花が大好きでね。近くによって目を凝らして観察する。そして描きとめる、それがいつしか特技になった。ある時目の悪いことに気が付いてね。めがねを買ってもらってからは、もっとたくさんのものが描けるようになった。あまり長くは掛けていられないが、充分、楽しくなった」
清は目を細めて懐かしそうに話す。いつかの距離を思い出して千代は少し胸がはずんだ。遠くを見たままの彼は絵を仕事に出来て良かったと言う。
「僕は徴兵にも行けない、不良品だと言われていたから、仕事が出来て良かった」
千代の胸にさっきの広間が蘇り、思わず清の着物の袖をつかんだ。指が震える。
「滅多に出かけない僕は千代と手紙をやりとりするようになって、新鮮だった。誰にも話したことのない、庭のなんでもない景色を美しい言葉で表現する事の儚さ。いつもそこにあるものを愛しく思う気持ち」
綴られた美しい言葉を思い出す。
「そこにあってほしいと思うことは愛だ。手紙を続けるのは君を縛ることになると、身を引いても千代が悲しむ時には僕は手紙を返してしまった。僕が千代に出していたのはずっと恋文だった」
火鉢を眺める黒い瞳に赤い熱が映る。
「人物画を描かないかと言われた時真っ先に千代が浮かんだ。そのタイミングで千代に再会した。恥ずかしいが運命だと思ったんだ」
そう言って笑う。
「だけど描いていて気が付いた。千代しか描けない。画廊の人にも笑われた」
清は千代の手を取る。初めて触れる大人の男の手はしっかりしていた。いつか間近に迫って自分を観察していた目は今は違う光を宿している。
「僕は裕福ではないから千代を恵まれた環境にはおいてやれない」
「何もなくてもいいのです」
「料理も掃除も洗濯も、千代がしなくてはならないかもしれないよ」
「得意ですもの」
「丈夫ではない僕は子を作れないかもしれない」
「夫婦水入らずでも良いではないですか」
「……本当にそれでいいの?」
清の優しさが嬉しかった。千代はゆっくり頷いてにっこり笑った。
「千代をお側に置いて下さいませ」
小さく応えた清の前で火鉢の炭がはじけた。
暫くの後、毛利家に贈られた清の描いた千代はまるで本人がそこにいるように素晴らしかった。一枚しか描かないと言われたが、なるほどこれは恋をしなければ描けない絵だと画商は笑い、両親と兄は千代が清にとても愛されていることを知り涙を流した。公爵家は大事な娘の名誉を回復しながらも連れ戻そうとはせず、娘を陰から生涯見守り続けた。
線の細い画家に嫁入りした娘はいつも絵と同じ、幸せそうな笑顔をたたえていた。
都合上とはいえ2話とも軍人が婚約者候補で恐縮です。実際不人気=断りやすそうとはいえ、念の為に女性陣の家を格上にしました。
マツユキソウの花言葉は様々ありますが、清自身の拗らせもあって全部を含めてこれを選びました。
>>年明け再開のメインの連載の展開が穏やかになるため、次回は少し先です。
砂漠の自国から隣国の王の元へ嫁いだアイシャ。王を一目見て思い出した曖昧な記憶は、共に迎えられた他の娘が正妃になるものだった。王の寵愛は得られなくても、この国で穏やかに過ごせるならそれでいいと思っていた。ところが現実はアイシャを放ってはおかず、曖昧な記憶はアイシャを不安の中へ導いていく。
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