2
誕生パーティーの次の日から、カステッロ家には縁談の申し込みやお茶会の誘いが次々にくるようになった。
結婚に興味のないアナスタシアは縁談を無視し、まだ嫁にやりたくないジャンも何も言わずに断りの書簡を送っている。
お茶会の方はオリバーとジャンが振り分けて、最低限必要な所だけに絞っているようだった。
そんなことを知りもしないアナスタシアは、自由気ままである。今日も自室で本を読んでいると、兄が部屋にやってきた。
「アナ、珍しいお菓子があるんだが、一緒にお茶しないかい?」
「珍しいお菓子ですか?食べたいですわ♪」
「今日は僕の部屋に用意してもらったから、一緒に行こう。」
「わかりましたわ。どんなお菓子なのか、楽しみですわ。」
お兄様ににっこりと笑顔を返すと、エスコートをされて部屋を出た。
ここまでは良かった。
(なぜこの人がここにいるの?)
私は部屋に入ると固まった。
兄の部屋にはなぜか第二王子のシークがいる。
踵を返して逃げようとすると、兄に手を掴まれた。
(騙された。初めからそのつもりだったのね。)
シークはキラキラした笑顔でアナスタシアを見ている。
「こんにちは、アナスタシア嬢。私も一緒にお茶をしてもいいかな?」
(王子に「ダメ」なんて言える人いるの?駄目だ、笑顔が眩しいわ。さっさとお茶飲んでこの場から去りたい。)
「もちろんですわ。」
ひきつる笑顔で答える。
(そう言えば、お兄様とは学園で友達になったんだっけ)
私はお兄様の隣に座り、侍女が入れてくれた紅茶に口をつける。
「いやぁ、本当にアナスタシア嬢は可愛いですね。ホセ、何で今まで黙ってたんですか?」
「もちろん、アナが可愛いからですよ。まだ7つなのに変な虫が付いてはいけないのでね。」
ゴホッ
思わず紅茶を吹き出しそうになったが、頑張って堪えた。
カァァァァ
顔に熱が集まるのがわかる。
「変な虫って(笑)貴族のご令嬢たちは早ければ3歳頃から婚約するのに?アナスタシア嬢もそろそろでは?」
シーク様がチラチラと私を見てくる。
その視線に気付いたお兄様が、
「本人が決めるのが一番でしょう。僕も両親もそう思ってるんですよ。」
相変わらずのポーカーフェイスだ。
「じゃあ、私が婚約を申し込んでもいいのですね?」
「アナが決めることですので。ご自由に。」
サラッととんでもない事を言った!
(お兄様もまだ婚約してないから、味方だと思ってたのに。)
お兄様をじろりと睨む。
「じゃあ、早速だけどアナスタシア嬢、今から私と出掛けませんか?」
「今からダンスのレッスンがありますので、無理ですわ。」
(これは本当だもんね。って、何でユラは怖い顔してるの?)
さっきまでニコニコしていたユラの笑顔が、今は笑ってない事に気が付いた。
まさかの裏切り。
怖ーい。
「へぇ、ダンスですか。では、今日は私がパートナーになりましょう。」
「へ?」
「アナスタシア様。殿下もこう仰っているのですから。」
「そうだね。たまには僕や父以外とも踊ってみるといいかも(笑)」
ユラとお兄様に、殿下と踊るように促されて、渋々頷いた。
お兄様は笑顔のまま
「良かったね、アナ。行き遅れにはならなそうで。」
と、私にだけ聞こえるように、こっそり毒を吐いた。
☆☆☆☆☆☆☆
なんでこうなってしまったのか、自分でも解らないまま、アナスタシアはダンスをしている。
目の前には笑顔のシーク王子。
アナスタシアが顔を上げるとシーク王子と目があった。
(眩しい。そんなキラキラした笑顔でこっち見ないで~)
恥ずかしくてすぐに目を逸らしてしまう。
お兄様とお父様以外の男性に、こんなに近くに寄ったことは今まで無かった。
(そろそろ疲れたって言って退散しようかな。)
「アナスタシア嬢。私は貴方に初めて会った時から、貴方と仲良くなりたかった。貴方とダンスをしている今だって、ドキドキしっぱなしだ。どうか私を貴方の側にいさせて欲しい。」
「あの、、、私はまだ7歳になったばかりで、そういうの、よく解らなくて、、、」
「うん。じゃあ、まずは友達になるのはどうかな?」
「友達、ですか?」
「そうだよ。あなたのお兄さんのホセとは学園で知り合って、友達になった。友達の妹と仲良くなってもおかしくはないでしょう?」
(それはそうかも)
「はい。では殿下と私はお友達ですわね。」
「うん。じゃあ、私のことはシークと呼んでくれないかな。」
「シーク様?」
にっこりと微笑むと、シーク様は真っ赤な顔をして横を向いてしまった。
「これはヤバイ。可愛すぎ。」
シーク様は横を向いたままなので、何を言ってるのか、聞こえなかった。
ちょうど曲が終わり、ダンスのレッスンも終了となった。
「シーク様、今日はダンスのレッスンに付き合って下さって、ありがとうございました。」
「あっ。ああ。」
殿下は真っ赤な顔で横を向いたままだ。
私はハンカチを取り出すと、そっと殿下の頬にあてた。
殿下は汗をかいており、それをふく為だったのだが、殿下は私をチラッと見ると、手を引っ張って抱き締めた。
急に抱き締められた私は何が何だかわからずに、呆然としてしまう。
「はいはーい。そこまで。」
お兄様の声が聞こえてくる。
「シーク、今日は妹のダンスレッスンに付き合ってくれて、ありがとう。」
声は柔らかいのに、顔が笑っていない。
「お兄様、私、シーク様とお友達になりましたの。」
「へぇ、友達に。」
じとんとした目でシークを見ている。
「アナ、汗をかいているようだね、先に着替えておいで。」
「はい。お兄様。ではシーク様、失礼致します。」
頭を下げて挨拶すると、私は自室に戻った。




