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ここはウィジェット王国。

カステッロ侯爵のお屋敷には、庭園の真ん中に大木がある。

その昔、まだウィジェット王国に魔法使いや魔女がいた頃、カステッロ侯爵の祖先にあたる人物が、魔法使いからもらった木の苗を庭に植えたところ、カステッロ家は何故だか戦で活躍し、何故だか国王に気に入られ、そして侯爵の爵位を与えられた。

その後、領土は潤い、侯爵家は繁栄を続けてきた。

カステッロ領が栄えたのはこの木のお陰だと、侯爵家の人々も領民も御神木として崇め奉った。


そして、何世紀も後に産まれたのがこの私、アナスタシア=カステッロだ。

薄茶色の少しウェーブのかかった髪は腰まであり、目も同色で肌は白く、中肉中背。

ごく普通の貴族令嬢である。

優しい兄(美形)と、まだまだラブラブな両親(言わずもがな美形)、優秀な使用人に囲まれ、自由にのびのび育てられた。


誰にも言っていないが、私は少しだけ魔法が使えるらしい。

私が7歳の時、御神木の頂上からは何が見えるのかと、手を伸ばして御神木に登ろうとした。

すると、蔦がするすると降りてきて私の身体に巻き付くと、御神木の頂上付近の枝に座らせてくれた。

さらさらと風がそよぎ、カステッロ領が一望できた。

私が木の上ではしゃいで落ちそうになると、また蔦がするすると私を抱えて地面に下ろしてくれたのだ。


私は悲しいことがあると、御神木に報告に行くようになった。

報告といっても、幹に触れて頭に思い浮かべるだけなのだけど。

たったそれだけのことなのに、心は軽くなり、また笑顔になれるのだ。

私にとっては、まさに癒しの御神木なのである。



今日は私の7歳の誕生日。

カステッロ家では誕生日に、家族と使用人、それと仲の良い友人だけのささやかなパーティーを開く。

朝から侍女のユラが私をとびっきりの美少女に仕立てる為に張り切っている。

と言っても、元が平々凡々なので、ちょっと手入れをした程度では大差ないと思うんだけど。


お兄様が部屋まで呼びに来てくれたので、ユラと一緒に広間に行こうとすると、


「今日は僕がエスコートするよ」


とにっこり笑顔で言われたので、お言葉に甘えることにした。


「親しいお友達とのパーティーなのに、エスコートなんてお兄様ったら大袈裟ね(笑)」


と言うと、お兄様は視線を泳がせてモゴモゴと言っている。

???

どうしたのかしら?

そう言えば、さっきから外が騒がしいし。

お父様やお母様のお友達も来てるとか?

お兄様のお友達も来てるのかしら?

いつもより賑やかな気がするわ。

お兄様は今年から王都の貴族の学園に通っている。

勉強はまぁまぁだけど剣術はできるようで、すぐに友達もできたらしい。

それに、お兄様は見目麗しいのにまだ婚約者を決めておらず、カステッロ家には毎週のように婚約話がきている。

お父様もお母様も、

「結婚は本人に任せる」

と仰っていたから、お兄様の婚約が決まるのは、まだまだ先だろう。


「どうした、アナ?ボーっとしちゃって。」


お兄様が笑顔を向けてくれるので、


「なんでもありませんわ。」


と、笑顔を返した。

この時に気付くべきだったのだ。7歳の誕生日はいつもと違うことに。



☆☆☆☆☆☆☆


広間に付くと、ドアの前で執事のオリバーが恭しく立っていた。

オリバーは小声で、


「お嬢様、ファィト!」


と言うと、今度は少し大きな声で


「アナスタシア様がお見えになりました。」


と言い、ドアを全開にした。


広間は貴族の令息令嬢でいっぱいだった。

私は驚きの余り目をパチパチさせると、お兄様を睨む。


(これはどういう事なの?)


(さ、さあ?)


私はそっと息を吐くと、顔に笑顔を貼り付けて貴族の礼をした。


(とりあえず、お父様の所に行ってどういう事なのか、説明してもらわなくては。)


私がお兄様にエスコートされて両親の所まで行くと、お父様は


「7歳の誕生日おめでとう、アナ。今日はアナと年の近いご子息とご令嬢を招待したんだよ。社交界に出る前に、アナもお友達が欲しいだろうと思ってね。調度良い機会だから、たくさんお友達を作りなさい。」


と、笑っている。お母様もニコニコだ。


(そーゆーことですか。)


私も、あと3年もすればお兄様と同じ学園に入学するから、友達はたくさんいた方が心強い、という事だろう。

それならば仕方がない。

豪華な食事は、お兄様に別室に取っておいてもらって、後で食べることにしよう。



私とお父様の話が終わると、私の前には長い列ができた。

プレゼントや花束を持って、わざわざお祝いの言葉をかけてくれる。


(7歳の誕生日ってこんなに大変なのね。流石に全ての人を覚えるのは無理だわ。)


私はため息が出そうになるのをグッと堪えて、初めての社交を無事終了したのだった。



☆☆☆☆☆☆☆


パーティーが終わり、普段着のワンピースに着替えると、邸をそっと抜け出して御神木の前にやってきた。


(やっと解放された。笑顔を貼り付けていたせいで、いつものパーティーよりかなり疲れたわ。ちょっと1人になりたい。)


私がそう思うと、シュルシュルと蔦が下りてきた。

私は蔦を握ると、ピョンとジャンプして、木の上まで登った。

何度も登っているので、木の枝の一部が背もたれの付いた椅子のように形が変わってしまっている。

というか、私を受け入れるために、木の枝が変化しているのだ。


カステッロの街並みを見ながら風の音に耳をすませる。

この時間がとても好きで、目を閉じる。


(もう少しだけ、このままで。)


私は御神木に護られながら、スヤスヤと寝息をたてた。



☆☆☆☆☆☆☆


どれくらい眠っていたのだろうか、自分を呼ぶ声で目が覚める。

木の下では、ユラが慌てたように私を呼んでいるではないか。

私が急いで下に降りると、赤い顔をしたユラが


「お嬢様にお客様です。」


と、目をキラキラさせている。


「誰なの?」


(私を訪ねてくる人なんていたかしら?お祖父様とお祖母様はウン十回目の新婚旅行って言ってたし。)


ユラは、少し興奮しているようだが、


「お会いになればわかりますわ。」


とだけ言うと、私を客間に行くように急かす。

あまりお待たせしても申し訳ないので、私はいつもよりちょっとだけ早足で客間に向かった。


☆☆☆☆☆☆


客間の前で一息つくと、ユラがノックをして


「アナスタシア様をお連れしました。」


と、いつもよりビミョーによそ行きな声で言った。


(ベテラン侍女のユラでも緊張するような人が来てるわけ?)


「入りなさい。」


お父様の声が聞こえる。

私は少し緊張しながらドアを開けて中に入った。


そこには、

ウィジェット国王様に王妃様、そして王子様が3人と、私の両親とお兄様が揃っていた。

私は驚いて一瞬固まったが、きちんと淑女の礼をした。


「初めまして。アナスタシアです。」


すると、王妃様が


「まぁぁ!可愛いーっ!マリッサにこんなに可愛い娘がいたなんて!なんでもっと早く教えてくれなかったのよ!!」


と、くだけた口調で話し始めた。


「だって、社交界にもまだ出てないでしょ。お行儀もお作法もまだまだなのに、王宮のお茶会なんて連れて行けないわよ。」


ちょっと、お母様!相手は王妃様ですよ!

私がビックリして目を丸くしているのに気が付くと、


「あぁ、アナ。私と王妃様は学園の時からの親友なのよ。」


「あらいやだ。いつもはナターシャって呼び捨てじゃない(笑)」


(王妃様を呼び捨て、、、)


今度はお父様が


「私と国王様も学園の時からの親友なんだ。何しろ、この二人が私たちの縁を取り持ってくれたんだからね。」


「おいおい。ジャン。いつもは国王じゃなくて、アーサーって呼んでいるだろう。」


(お父様まで、、、。)


ついつい呆気にとられてしまう。


「こっちは私の子ども達で、デュラン、シーク、ロンだ。宜しく頼むよ。」


紹介された王子様たちは、にこやかな笑顔で胸に手をあてて礼をする。


(、、、頼まれたくない。揃いも揃って美形なんだもの。眩しくてクラクラするわ。)


「アナスタシアです。以後、お見知りおきを。」


(挨拶も終わったし、お暇してもいいかしら?)


チラッとお父様の方を見ると、嬉しそうに微笑んでいる。


「アナ。そこに座りなさい。折角国王様が直々にお前の誕生日を祝いに来て下ったんだ。ちょっとお茶でも飲んでいきなさい。」


(ちょっとお茶でもじゃないわ!緊張してお茶も喉を通らないわよ!おっと。美形なお父様から有無を言わさぬ黒いオーラが出ているわ。断っちゃダメなやつね。)


「はい。では、失礼します。」


私はお兄様の隣に腰をかけた。

お兄様をチラッと見ると、


「実は学園でシーク様と友達になったんだよ。」


と、サラッと言われた。

この瞬間、私の周りに味方はいないのを悟った。

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