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46.いっぽうそのころ不染井は……(6)


 不染井桜の行動記録

 2332年 11月7日 午後9時44分


「今は、こうやって届かなくても――」不染井そめないはセーウンの眼前にガンブレードの剣先を突きつけた。「振ったら、当たるんだよ、たまに」

 先ほどから彼女は、何度も剣を振ってみているのだが、セーウンの鼻先までには、あと数センチは足りない。

「知ってるって」さすがに身の危険を感じたのか、セーウンはけ反るように一歩退しりぞき、刀をしゃらりと抜く。「調子がいいと、こいつも、平気で5センチくらい伸びる」

「そうそう。だから、うかつに漫画みたく『見切り』ができなくてさ、でもそれ私、気に入ってるんだよね~。この世界がゲームじゃなくて、スポーツに近いってことじゃん」

「ん? よく分かんねえけど……」

「将棋でさ、こっちが飛車ぶつけたのに『今宵こよいこの一戦に際し、かの香車は、ただならぬ決意でのぞんでいたため、飛車を返り討ちにしたのだった!』ってなったら駄目でしょ?」

「……スポーツなら許されるって?」

「スポーツは偶然だから」不染井は振る。「偶然勝ったり、偶然負けたり」

「勝つのは偶然かあ?」セーウンは異見があるようだった。

「必然の対義語で使ってるから」

 不染井はそのあとも何度かブレードを振った。

 剣の先端が通った宙に、切り傷型のマークをつけたが、同じように振ったのにもかかわらず、最大で2センチほども距離に差が出る。一番距離が伸びた際の感覚を思い出してみたが、特別、の握り方、持った位置を変えたわけでもないし、腕が伸びたという実感もなかった。

「で、サムライにプログラムが効かないってどういうこと?」

 と彼女は、剣を振りながら訊く。なんとなく、最長記録が出たところで作業をやめたい、という欲求に囚われていた。

「実は、熟練したサムライにとっちゃあ、自動防御プログラムは障子しょうじ戸に等しい」

 と、セーウン。彼はすでに納刀している。「『神速居合』があるから」

「シンソクイアイ……」不染井は呟く。「聞いたことないなあ……、いや、一回、喰らったことあるかな?」

「たとえ喰らったことがあったとしてもレベル差が大きいとそれと認識できない」セーウンは、だいぶ大物と戦ったんだな、と笑った。「まあ、普通にプレイしてたら一生知ることはねえかな。サムライ限定の、隠れスキル――『奥義』だから」

 通常、固有スキルは、他のクラス(『戦士』や『魔術師』などの職種)には隠されている。情報サイトを介して公開することも禁止だ。今の、不染井とセーウンのように、会話の体裁で『言伝ことづて』ができるのは特殊な状況。『イベント』と呼ばれる例外である。

 ちなみに、プログラム制作者であるウミヤマセたちは、サムライでもないし、不染井より下級であるが、作成したプログラムの性質上、神速居合の存在を知り得たようだ。

「まあ、通称だから、ひと口に『神速居合』っつっても、体得した人間によって、個性っていうか、なんかしらの差が出ちゃうから、オリジナルの名前で呼ばれる」

「あ~、同じ『体当たり』なんだけど、『ぶちかまし』やら『テツザンコー』やら『トペなんちゃら』やら、異なる名前が付けられるってことね?」

「ちなみに俺の神速居合は『ボクデン』って名前」とセーウン。「断っておくが、俺が付けたわけじゃねえからな。それと、見たけりゃ、動画サイトに上げてあるからそっちを」

 『神速居合』の存在を知れば、普段は隠されている『その動画』が観られるらしい。

「神速居合、欲しいなあ」不染井は、岩を手刀で割るような心構えで剣を振ったのだが最短記録を更新した。

「習得条件はふたつ」セーウンは急に分別くさい態度になる。師匠、という感じだ。「ひとつは、得物の限定。鞘に納まり、片手でも扱える、片刃の剣であること」

「いきなり、ダメじゃん」

「もうひとつは、クラスがサムライであること」つまりは『血筋』である。

「他にあのプログラムを破る方法は?」

「ああ、それなら簡単な方法がある。知ってると思うが」セーウンは『札』をつくった。どうやら、彼は、不染井が札使いとして修練していた動画をチェックしてくれていたらしい。彼女は、少し光栄に、残りの大半を恥ずかしく思った。「札を敵にくっつける行為は、攻撃には入らない」

 けれど、そんなことは百も承知だったので不染井はつい語気が強くなる。「この武器で」

「なんで、それにこだわる?」

「サムライ固有スキル『訊かぬが花』」不染井は自分の唇に人差し指をつける。

「あれはそういうスキルじゃねえ」

「あるんだ?」

 不染井の笑顔を避けるように、セーウンは俯いて、額をく。もちろん現代人の身体にアレルギィなんて現象はないから、単なる反射、あるいは辟易を示すジェスチュアだ。

「方法は、もうひとつある」セーウンは切り出した。

「あるんだ?」不染井は同じ声、同じ笑顔で尋ねる。

 セーウンは真面目な顔で言った。「『錬金れんきん術スキル』を手に入れろ」

 

次の投稿は、短いので、本日中に。

午前11時ごろを予定しております。

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