41.いっぽうそのころ不染井は……(4)
不染井桜の行動記録
2332年 11月7日 午後9時27分
江戸風ステージ。
四方を竹製のフェンスに囲われた、妙に開けた土地で会敵。
いわゆる板付き――最初からそこにいたのは一人だけ。
全身にフードを被り、装備が分からない。
けれど、やることは一緒。
不染井は全速力で接近し、直前で、即興のステップ。
彼女自身も想像しなかった軌跡で、相手の背後に回り込み、斬りかかった。
完全に死角をついたはずだったが、あっけなく防がれる。
斬撃により切り裂かれたフードの下から、盾が現れた。
(自動防御プログラムか……!)
彼女は、その瞬間、相手が誰だか分かった。
因縁の『チーム』だった。
インクをのせれば版画でも刷れそうな、獅子竜の彫りが入った盾。
彼女の一撃はそれにわずかなキズをつける程度のものだったがエネルギィは奪えた。
全身が硬直している一瞬のあいだに、かろうじて動かせる指を使い、パスタを巻くフォークの要領で刃を翻そうとしたが、重い。刃に直接『画』を反射させるのを諦め、ハヤブサ型に命じて、彼女の頭上、俯瞰映像を、刃面へと投影させる。すると後方、左斜めから接近する敵が映った。巨大な斧を掲げ、すでに攻撃モーションに入っている。体勢を低くして攻撃に入ったおかげで、被撃までに時間を稼げた。いなすか? いや、正面の盾使いはたしか銃持ちのはず。そんなことをしているあいだに撃たれるだろう。単純な避けは駄目だ。となれば――
不染井は盾使いに向かって『放出』する。さすがにこれは盾で防がれるが、モグラ叩きゲームのように慌てて頭を引っ込めた彼の、追撃を阻止することができたし、反動で不染井は後方に大きく飛べた。眼前を、ギロチンのように直角に、巨大な斧が通りすぎる。飛ぶ際の摩擦を消すために地から離した左足が、皮肉にも攻撃範囲に残ってしまい、脛から切断された。モンゴル人選手並みの膂力だ。痛みはないし、斬撃によって身体が回転することもなかった。切断された先の触覚がなくなったのと、バランスが取りにくくなっただけ。戦闘に支障はない。飛んでいる最中も刃を翻したが、背後にもどこにも、あの『細剣使い』の姿はない。自分は指令塔気どりで、二人で充分という腹だろうか。
――と胸が熱くなる。
力が入らなくなる。
ミゾオチから矢じりが突き出ていて、それを視認したら、なおさら身体が重くなった。
痛々しい眺めだが、もちろん痛みはなかった。
後ろから射られた? 誰に?
彼女には、一人しか思い当たらなかった。
細剣使い。
彼の名前だけは、憶えている。
(ウミヤマセ……、なんちゃら)
下の名前は失念していた。
矢には『痺れ系のスキル』が使用されていたため、被撃の硬直が普段より長い。
いや、長くなったと言っても、全体として2秒あったか、なかったか――の隙。
そのわずかな合間に、斧使いは、よいしょと地面から重そうに斧を持ち上げ、動けない不染井に向かって構え直し、接近と同時に、水平にスイングした。
防ぐ手立てはなかった。
不染井の首が切断され、その頭が弧を描くように飛び、落ちた。
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