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36.再び、部隊長ウメエダの行動記録


 部隊長・ウメエダの行動記録

 2332年 11月7日 午後7時42分

 

 灰色の鬱蒼うっそうとした森を抜けると、ひらけた湖畔に出る。俺はどうにかそこまで不染井そめないを誘導することができた。馬の鼻先にニンジンというか、ドミノ倒しというか……、とても作戦と呼べる代物しろものではなくて、当初、総勢100名を越える大所帯だったチームは、今や俺一人――という体たらくだったが、その名誉の犠牲の甲斐あって、見事に不染井と獅子竜ししりゅうを『遭遇』させることに成功した。

 見ようによっては、オスライオンにも見える顔をつけた巨大なドラゴンは、通常、パーティを組んで挑むような強敵中の強敵である。すでに不染井には足枷を取りつけてあるし、その使用者名義も獅子竜へと変更していたので、この竜を倒さない限り、彼女はここから移動できない。救援要請も済ませた。すべてをまっとうした。

 身体的精神的疲労と任務達成の充足感で横臥おうがしていた俺だったが、余力を振りしぼり、世紀の一戦を『生観戦』することにした。


 先行したのは不染井だった。


 森から、いや、湖からも伸びているだろうか。わだちのような、力こぶのような木の根が縦横に張り巡らされ、まともに歩けそうにない地面を、不染井はガンブレードを抱え、後方に光弾を『放出』することで、ロケットのように飛び越える。その最中、彼女が大胆に広げた両足の下をくぐって光弾が追い越す。どうやら、後方に放出し、推進剤代わりにした光弾を『エアパネル』で反射させたらしい。

 向かってくる不染井を口から炎を吐いて迎撃しようとしていた獅子竜は、予定を変更し、右の前足を顔の前にかかげるようにして、光弾を防ぐ。

 それとほぼ同時に着地した不染井は、その防御で死角となったルートから、さらに竜に近づこうとする。

 途中、何度か轍に足を取られたが、それすらも『次の一歩』の加速に使った。

 速い。

 しかし、ここは竜が一枚上手だった。

 竜にとっての死角は不染井にとっても死角となる――その理屈は分かるが、なんと竜は、口から吐き出した炎で、掲げた自らの前足ごと不染井を焼こうとしたのだ。

 これにはさすがの不染井も「うわっ!」と驚きの声をあげたが、彼女の全身が炎に包まれて見えなくなる寸前、剣を振るい、炎をふたつに割った。


 『炎斬えんぎり』だ。


 彼女は戦闘後、それが一か八かの即興だったと明かしてくれた。

 ここだけの話、アキラ・ユウキの『独歩頂膝どっぽちょうしつ』並みにタイミングがシビアな、この『超絶技巧』を、あの大一番で、しかも、ナマで観られただけで(というか、バトル世界で彼女と直に話せただけで)、この作戦を決行した価値があったと、俺は、ひそかに思った。


 獅子竜も粘りを見せる。

 割られ、推進力をなくし、漂う炎の残滓ざんし、おそらく、その微妙な揺らぎで察知したのだろう、文字どおり道を切り開いて、炎のトンネルをくぐり抜けた直後の不染井を、前足でし潰そうとしたのだ。

 タイミングとしてはドンピシャだった。

 けれど、それは読まれていた。いや、誘導されていた。不染井は、まるで縄跳びでも越えるようなあっけなさで、その前足に飛び乗ると、そのまま『階段』にする。

 それでも、もちろん、獅子竜は『ケモノ』である。

 恐るべき反応速度で、あたかもブレイクダンスの『ウェーブ』の要領で身を揺らし、登ってくる不染井を宙へ―その眼前へと放り出した。

 けれど、トドメの炎とばかりに口を開いた瞬間――不染井がロケット。

 獅子竜の口へ飛び込む。

 どうやら前足を駆けあがっている最中、ちゃっかり、刃をピッケルのように刺して、エネルギィを吸収していたらしい。

 獅子の顔めがけて飛んだ不染井は、寸前でエアパネルを出す。

 パネルの正面だと加速が消えてしまうので、側面を向けるように出した。

 彼女はそこに上半身をぶつけ、無理やり、強引に、身体ごと刃の向きを反転させ、その開いた口に右腕ごと突っ込んだ。


 宝石が砕けるような、聞いたことがないヒット音がした。


 獅子竜は微動だにしなかった。

 まもなく口から青い光が溢れると、不染井の右腕が――

 その先に握られていたガンブレードが、剣先に青い残影をまといながら勢いよく飛び出た。

 ゼロ距離での『放出』だ。その際、刃が縦横に暴れ、竜の頭部を大きく裂いた。

 これには俺は感心した。

 勝負自体は最初の突きで決まっていたのだが、死が確定した竜が硬化し、ヒビ割れ、砂状に崩壊し、霧散するまえに、レアな『素材』を切り取ったのだ。


 ――20分後、俺はボスの執務室に向かっていた。

 パーティを組んだプロのハンターが役割を分担し、半時間ほど掛ければ、まあ、どうにかなるかなあ、というような獅子竜を、たった一人で、しかもほぼ一撃で倒してしまうような『でたらめ』を相手に、逃げ切れる道理などなかった。俺から吸収したエネルギィで、彼女は刃を修復したことだろう。刀のサビではなく、砥石といし代わりにされたというわけだ。

 室内には先客がいた。大学生か高校生か――まだ若い男子三人組だった。

「この子たちは?」敗戦の高揚感に支配されていた俺はフレンドリィに訊いた。

「クソボケ忍者殺しのスペシャリストだよ」ボスは、いきなり、口が悪かった。

「勝算は?」俺はにこやかな顔で三人組に声を掛けた。「彼女、獅子竜を一撃だったよ」

 他の二人が返答する様子がないので、仕方なく一人が答える。「そうっすねえ……」

 けれど彼はそのまま黙ってしまった。見かねたのか、もう一人が言う。「結局のところ、バトルは詰め将棋ですからね、不染井さん云々ではなく準備と戦術で決まりますから」

 そこで俺は見つけてしまった。返答した彼の傍らに、獅子竜の彫りが入った盾が置かれていることに。それは鍛冶屋に『素材』を持ち込むことでつくってもらえる一品で、獅子竜を60秒以内に倒すと手に入る『素材:獅子竜の額鱗がくりん』を贅沢に10枚以上も重ねてつくったコレクター垂涎すいぜんの超レアアイテムだった。俺は、思わず、ぎょっとして、三人組のデータを確認する。彼らのレベルは不染井より10も低かった。すっかり酔いから醒めた。

「詰め将棋ですから」今まで黙っていた三人目が言い、仲間が低い声で笑った。



次の投稿は、明日の14時を予定しております。

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