↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/55

31.いっぽうそのころ不染井は……(3)


 不染井(そめない)桜(よしのあや)の行動記録 

 2332年 11月7日 午後7時06分


 正義の特撮ヒーローが戦う採石場のようなステージで、不染井の前に二人の男が立ちはだかった。

 彼女が右手薬指に着けている指輪は輝かないので、ガンブレードが生成できない。

 つまり、まだ戦闘状態ではない、ということだが、だからといって、相手はこのまま見逃してくれるつもりはないらしい。

「良かったなあ、人殺し。代表辞退の口実ができたじゃねえか」

 全身白色のほうが言う。

 背格好が似ていたから、見分けがつくように、ハヤブサ型に依頼し、カラーリングさせたのだ。

「どう逆立ちしたところで、おめえじゃ、ニビィに勝てねえんだから」もう片方はオレンジ色に染めていた。「まーた世界じゅうに恥さらすまえに、ここで手仕舞(てじま)いにしとけや」

 こういうのを『ケイワン煽(あお)り』と呼ぶらしい。

 本音ではなく、バトル世界に浸るための一種のロールプレイ――『演技』なのだが、『やってくる輩(やから)は、たいがい手強い』というのが、不染井の経験則である。

「ダルマにして、野ざらしてやるよ」と、白いほうが、目を見開いて、罵(ののし)る。「その辺、歩いてるフンコロガシにでも犯されて死ね、下衆(げす)が」

 死ぬのは勘弁だがそれもなかなか面白そうな趣向だ、と不染井は、なんの衒(てら)いもなく本心から思う。今度あちらの世界に戻ったら、試してみようかな、と。

 さて、バトルは年齢制限のない健全なゲームであるから、そういった前時代的な屈辱感をもよおす遊びは全面的に禁じられている。なので、やはり真に迫ってくるような実感に乏しく、どこか『雰囲気づくり』的なセリフにしか聞こえない。不染井はフリーにしてあるが、プレイヤーの『年齢』や『設定』によっては、セリフは『制限』されたり、穏やかな言葉へと丸められたりもする。

 けれど、それなのに、その言葉に呼応するかのように、不染井は、自らの気分の昂(たか)ぶりを感じる。憤りなどではない。むしろ、まったくもって清々(すがすが)しい、快(こころよ)い脈動を伴って、彼女の疲労感をわずかに解消させた。戦うまえに互いの健闘を讃えあったかのような心地。

「そういや、アンタ、忍者の血が流れてんだってなあ」と、オレンジ色。

 言われた瞬間、不染井は、脳に冷たいものが駆け巡った気がした。

「どんなに外ヅラ、見繕っても、その薄汚ねえ血は変えられねえからな」

 過去バトル大会での、忍者の末裔者による失態は、この国民全員の心に刻まれたトラウマと言えよう。諸外国の、煽り好きなタイプのプレイヤーは、日本人と見ると、侮蔑的な挑発文句として、この言葉を好んで使う。「ニンジャー、ニンジャー」と。逆に言えば、それが挑発として成り立つほどの、失策ぶりだったわけだ。

「まあ、なるべく派手に、ぶつ切りにして、一滴でも多くその穢(けが)れた忍者の血を抜いてやるよ」全身ホワイトが、天狗が持つウチワみたいな武器を出した。「嬉しいだろ?」

 これには普段へらへらしている不染井にも『怒り』という感情が湧きあがった。

 湧きあがった結果、どうなるか。

 身体が軽くなる。

 思考が鮮明になる。

 それがバトル世界での『怒り』という感情の効能だ。

 いや、『恩恵』と換言できるかもしれない――と思考は冷静な彼女は想像する。

 『煽り』という言葉を一字ずつずらせば、『怒る』になるし、どこかの国の言語でアナグラムすると、『エール』(激励)になるという話を聞いたことがあった。


(大サービスじゃないの)


 と彼女は口の端をあげたが、すぐに、いつもより動きすぎてしまう身体は、かえって厄介かもしれない、と気づいた。

「あ~、『相手を怒らせる』って、こういう使い方があるのね」不染井が呟くと、身体は、すんなりと元どおりの重さに戻ってしまった。これを『もったいない』と思ってしまうのが彼女の気質だ。脳内で相手の言葉を繰り返し、憤りを再燃させ、なんとか軽さを取り戻す。「って、これじゃあ、『自己暗示』と変わんないじゃん」

 その対応に、男たちも『怒った』らしい。

 どうやら、かまって欲しかったようだ。

 ハヤブサ型が、怒りのために相手の身体能力が向上していることを伝えてくれた。

 もちろん、彼女のほうも、先ほどの挑発で、度重なる連戦で着実に溜まっていたはずの深層的な疲労がすっかり解消されている状態だ。

 このように本気以上の相手と戦いたいときは『煽る』というわけだ。

 まあ、それだけが『真剣勝負』の方法ではないが、効果の確実性が高いという点は見過ごせない。


 右手の指輪が輝き、ようやく『戦闘』が許される。

 この輝きは、彼女の目にしか見えない設定にしてある。あくびを隠すように右手を口の前に持っていき、指輪を唇で挟むようなマネをしてみた。気を利かせたハヤブサ型が、すでに姿見(すがたみ)を用意してくれている。それを見ながら、ポーズの確認。二人以外の何者かの視線を感じていた不染井は、盗撮され、なにかの表紙にされても恥ずかしくないような、コケティッシュな表情と体勢を模索した。ポージングが決まると、衣装も髪も目の色もピンク系にしてみる。似合い過ぎてしまわぬよう、色合いを調整し、満足したころ、何かが足りないことに気づき、ガンブレードのフェイクを出し、左手で握った。こちらもうっすら桃色に染めて、けれど、その美しい刀身は身体で隠すようにする。チラリズムというやつだ。

 指輪が輝いてから1秒以内に、それらのことを済ませた。

 フェイクを左腕から右手へフィッシュテールさせると、不染井の衣装も元どおり。けれど、その色素を吸い取ったのか、フェイクだけがやたらと濃いピンク色になっていたが、不染井はそちらを一顧(いっこ)だにせず、消す。


(では、いざ、開戦!)


 走り高飛びの助走のようにアールを描いてから、一転、最短距離で敵に向かう。

 一歩、二歩、三歩と同じ幅で跳ねつつ、剣先を後ろに向けるような格好で、ピンク色のガンブレードを生成。肘掛けのように右脇腹に抱えこみ、四歩目の踏み込みと同時に、先の戦いで解消しなかったエネルギィを放出し、相手がひそかに仕掛けていた地雷帯の上を、ロケットのように飛び越えた。

 敵は、ちゃんと反応した。

 不染井の急襲を避けるように、それぞれ左右に分かれた。

 彼女は、二人の手前で足をついて着地すると、まだ充分勢いのあるガンブレードの柄を指で引っかけ、左側に避けた全身白色の相手に向け、得物の軌道を変えるようにして投げつけた。

 見事に剣は顔面へと命中。

 事前の試算どおり、完全弾性衝突みたいに、剣が一瞬だけ宙に留まった。

 不染井はそれを掴んで、トドメを刺すつもりだったが、ガンブレードの勢いが良すぎたらしい、顔面を打たれた白男が後方回転し、バイシクルキックよろしく、剣を上空へと蹴りあげてしまった。

 そのまま男は、なんとかバク転の体裁(ていさい)で着地し、顔面を両手で押さえながら、くぐもった声で、「ざまあみろ!」と叫んだ。

 もしかしたら、先ほどのは『ケイワン煽り』ではなくて、彼の『性分』なのかもしれない、と不染井は考えを改めたものの、『ブレードの回収』という方針に変更はなかった。

 上空に放していたハヤブサ型から俯瞰図を呼び寄せ、それを頼りに、空中に、直径200ミリほどの円盤――いや、厳密には凸レンズ型に膨らんだ7枚のパネルを配置した。

 叫び声をあげた男の顔面――その大きく開けた口に靴を入れるのは、さすがに気が咎(とが)め、代わりに額(ひたい)を踏み台にして跳び、彼の頭上に浮いた、少し斜めに傾けた『1』とナンバリングされたレンズ型を右足で踏んだ。踏んだ瞬間、不染井の身体に掛かっていた、ほとんどの慣性が消えたが、三半規管には、パネルを平行な地表と勘違いさせる程度の重力効果は残った。この効果は一瞬である。不染井はその『恩恵』が消えるまえに、そのさらに斜め上方に配置した『2』と刻まれたパネルへと飛び移る。これ以上の説明は不要だろうか。

 一升ビンの中のビー球が、ビンをフラスコのように振ることで、内壁を伝って、のぼっていく。大ざっぱに言えば、彼女はそのような螺旋な軌道を描いた。

 パネルを踏むたびに、不染井の身体には『加速ボーナス』がつく。

 なので、彼女が地上を離れ、『7』のパネルを踏むまでは、ほんの一瞬だった。

 地上から12メートルの高さで刃(やいば)に追いついた不染井が、『青十字』の刻印がある柄頭に人差し指と中指を掛け、引き寄せ、まだ上昇の勢い残る剣の柄を握り、なんとか押さえたとき、下から「ざまあみろ」の声が聞こえた――そういう夢想が許されるぐらいに、一瞬だった。

 連続的にパネルを利用したことによる副次効果、はたまた副作用というのか、全身の密度を『見かけ上』発泡スチロールくらいにまで下げることができた彼女は、ヨウカンのように手応えのある空気を腕で押して、水泳でいうところのクイックターンの要領で、地上に上半身を向けた。計算どおり、これに技術点がつき、8枚目のパネル使用を許される。さっそく不染井は、バネのように縮めた両足――その足裏にぴったりと8枚目を配置し、踏み、蹴ることで『クイックターンからの壁キック』を実現。地上に向け、飛ぶ。

 地上めがけて飛んでいる瞬間、彼女は、自分がもっとパネルの使い方が手練(てだれ)だったら、この辺りで、ドップラー効果で音が高くなった「ざまあみろ」を聞いたのかも、と空想した。体感時間が、ぐにゃりと伸びて、そのようなことを考える余裕はあった。

 不染井は地上に降りる勢いのままにブレードを振るい、『白のざまあみろ』を脳天から唐竹割りで両断にする。その際の斬撃が、濃淡鮮やかな桃色の残像を生み出し、息を呑(の)む美しさだったのだが、斬撃の余韻で回転する彼女からは、残念ながら見えなかった。

 猫のように着地したあと、不染井は背筋をすっと伸ばし立ち上がり、フィッシュテールで『ピンクの虹』を楽しみながら、『オレンジ色』の動向を窺う。

 相棒を両断された彼はまったく怯んでいなかった。なにかするつもりのようだ。暗黒舞踏家の準備体操のように、ゆっくりと、念入りに、全身の筋の具合を確認している。

「曲変更。セーウンならなんでもいいや」不染井は、多少は待ってやるつもりだった。

 『白色』の倒し方が雑になってしまったのは気にいらなかったが、すでに、この戦いにおいて『エアパネル』を踏んでしまっている。ペナルティとして、経験値はもちろん、戦闘勝利後に獲得できる各種ポイントは軒並み70パーセント以上のダウンが確定しているから、今さら綺麗な勝ち方やタイムスコアにこだわる道理はない。

 結果から言えば、その判断は功を奏することになる。僥倖(ぎょうこう)を呼び込む。

 残った『オレンジ』は、やはり、かなりの強者で、しかも南国発祥の変形エア・ムーブである『スイム』の習得者だった。彼は不染井がエア――とくに『スイムのテクニック』を思わせるターンを披露したからこそ、対抗意識を刺激され、かつ、準備が整うまで黙って待ってくれたからこそ、本来、隠すつもりだったスイムを使った、と、戦闘の最中、述懐した。そもそもエアは、軽量級が重量級に対抗するために発明されたという由来があるのだが、実はエア使い同士の戦いにこそ真価を発揮する……。

 その期待どおり、彼との戦いは、前代未聞で、楽しくて、気持ちが良かった。

 まず、身体と思考は異様に速く動くのに、感情はゆったりとしている不思議。

 チャンスのたび、ピンチのたび、まるで全身にある性感帯に繋いだ弦を、弓で濃密に弾き奏でられるような、芯から響くような、ゾクゾクした快感に襲われた。声が出た。自分で言うのもなんだが、彼女好みの音色で、背景で流していたセーウンの曲にマッチした。

 『スイマー』が逆手に構えたダガーと不染井の刃が切り結んだ際に生じた火花が、脳裏に、光だけではなく、熱を投影し、数秒後のイメージを何枚も何枚もバリエーション豊かに引き出した。そうやって空想で膨らんだ脳を、ぶ厚く、けれど、ひんやりと冷たい手でギュッと押さえつけられ、締めつけられるような、気持ちよさが襲う。身体も思考も勝手に動く。熱にうかされているみたいに、行動と自我が乖離(かいり)している。どこか夢心地で。

 終盤は、寒い冬にコタツのなかで目覚めるような、全身温かさで満ちた。もう、感情はとろとろに蕩(とろ)けきって、勝っても負けてもどっちでもいいような至福に囚われたが、先のとおり、身体も思考もこれ以上なく研ぎ澄まされて、敗北を許さなかった。


 勝負は、不染井に軍配があがった。


 『読み』という点では、ウナギのように小回りが利き、俊敏性に長ける向こうが、文字どおり、リードしていた――が、勘所(かんどころ)では不染井の即興的な発想がビシビシ嵌まった。最後、二人抱き合うようにガンブレードで彼の胸を深々と貫いたとき、上から項垂(うなだ)れてくる彼の唇に口づけしたい欲求が生まれたが、それが叶うまえに彼は消滅してしまった。

 決着後、己の身体に訪れた感覚を、不染井は『新生』と例えた。すべての感覚が一新されてしまったかのような、それくらい風景が違って見えた。まるで、事を経(へ)て、妊娠して、出産するまでを一気に経験したような。まさしく、新生だ。

 けれど、それら劇的な感情は、あとを引かなかった。

 青春のように風化して、遠い日の記憶になって、胸に仕舞われた。

 もう、正二十面体で出来たサイコロの展開図をイメージできるくらい思考は鮮明で、そのような頭脳労働を面倒に思わないくらいに、感情は落ち着いていた。

 ガンブレードが奪ったエネルギィを『吸収』すると、不染井の全身に刻まれた無数の傷痕は消えたものの、打撲のダメージ――それは痛みではなく、痺れや疲労感だったが――は、少しだけ残った。本調子の87パーセントくらいか。

 本来、得物同士をぶつける戦いは美学に合わないし、しばらくこういうのは遠慮したいな、と彼女は思ったが、いざ、もう一度『スイマー』と戦える機会に立ち会えるとしたら、自分がどう選択するか見当がつかないな、と思う。己の優柔不断ぶりに笑いそうになった。

 ――と、そこで、頭部をカメラに模した人型の存在に気づいた。

 右手に持ったマイクをこちらに向けている。

 『カメラマン』だ。

 左手のスケッチブックには、太いマジックペンで『そこで一言』と書かれている。

 迷っている時間はなかった。不染井は、表情とポーズ、そして、声をつくって――

「まあ、フンコロガシ程度には楽しめたよ」

「オッケー!」カメラマンが景気よく、言い、スケッチブックを投げ捨て、サムズアップ。

「決め台詞の評価は、可です」カメラマンが言う。「レアポイント、1ポイント贈呈!」

 不染井は、嬉しさのあまり拳を握った。

 やったあ、の、「やっ……!」だけが出た。

「僭越(せんえつ)ながらアドバイスを。『フンコロガシ程度』の『程度』とは、いただけません。上か下か、明確になさったほうが、受け手の想像が映えたかと。さらに言えば、【TEN】は『うまいこと言った!』的な形式美よりもオリジナリティあふれる奇想を評価する傾向があります。外せば『不可』は免(まぬが)れませんが、当たれば『優』以上も夢ではありません。ご留意くださいませ」

 いやいやいや、と不染井は口の端を上げた。たしかにポイントはひとつでも多く欲しいところだが、こういう滅多にないチャンスでの、不可――つまり『0ポイント』なんて事態は是が非でも避けたい。形式にのっとった返答なら、よっぽどひどくなければ1ポイントはもらえるのだ。冒険する必要はない。

 世間を見てみれば、交換して得られる特典が伝聞禁止で隠されているという事情が絡むせいだろう、ポイントの価値を知らず、中級者でも、こういったポイント獲得チャレンジを軽んじ、棒に振る輩(やから)も多い。なので今回自分が、ギャンブルを避けて、確実にポイントの獲得に動いた、固執した、という姿勢を示したことが――つまるところ、いかに『レアポイント』が重要であるかを、この動画を観るであろう、日本のプレイヤーたちに暗示させたかもしれない、と不染井は空想し、ひとり勝手に悦に入(い)った。

 思考を巡った『動画』というキーワードで彼女は思いつき、ハヤブサ型を呼び寄せる。

「ねえ、さっきの対戦、あいつに見せたいんだけど」

「先ほどの一戦は当事者以外閲覧禁止です。戦闘中にそのような契約をなさいました」

 あ、そうだったと彼女は思い出し、舌を軽く噛む。ちょうど曲の歌詞とリンクした。

「あいつだったら、なんて言うかな?」けれど、未練があるのか、口からは勝手に言葉が出た。「出色(しゅっしょく)の出来だったと思うけど」

「私だったら『ざまあみろ』なんて言わせない」ハヤブサ型が『親友』の声で喋った。

「えっ?」不染井は思わず、ハヤブサ型を見た。

 もちろん、鳥のままだった。

「ガンブが蹴り飛ばされたとき、上空に行かないようにパネルを出して、跳ね返す」ハヤブサ型は口も開かずに友人の声で続ける。「手元にガンブが戻ってくるように角度を計算してね。で、バク転男が『ざまあみろ』の『ざ』を言ったところで首を刎ねれば意味不明で面白いでしょ? 『ざ――ってなんだよ、ざ――って~』って、口に出して笑ったら、いかにも変人っぽくていいよね。その隙を突こうとしてスイマが背後から来たら、さっき出したパネルに向けて『放出』。その跳弾を相手に当てて、怯ませ、返す刀のガンブで倒す――んだけど、できれば、そのとき、あのバカみたいな射撃の反動で、スイマの攻撃をひらりと避けたりなんかしたら、攻防一体でアンタの主義に沿うでしょ?」

 たしかに自分好みではあるな、と不染井は唸りたくなった。なにより絡子(?)が提示したアイディアには、速攻決着のボーナスはもちろん、技術評価点が稼げるポイントが随所に散りばめられていた。そういう余剰を見越した戦い方だった。ちょっと悔しく思った。

「まあ、私のやつだと、スイマと遊べなかったわけだから、何が功を奏するか分かんないよね~」そんなふうにフォローするのも彼女っぽい。「決め台詞は、そだな~、なんでもいいや。『死人に口なしでござるよ、にんにん』あたりかな?」

「オッケー」の声が聞こえ、振り返ると、カメラマンがいた。「評価は、可です」

「いや、ほら、意外に難しいんだって」不染井は口を尖(とが)らせながら、器用に笑った。

 もちろん、このカメラマンは、ハヤブサ型がつくったニセモノ、ニセ演出だ。

 ――ということはもしかして、と、慌てて不染井は先ほど獲得したポイントを確認したが、間違いなく、カウントされているのを見て、安堵した。

 そして、不意に思い出す。

「てか、にんにん、言ったらダメでしょうが!」

 不染井の怒気に、ハヤブサ型が羽ばたいて逃げた。

 空へ。速い。高い。時折、S字を描いて、さらに高く、上がる。

 パネルを使って追いかけようかと、不染井は一瞬だけ、迷った。


次の投稿は、明日の14時を予定しております。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。